空想時代小説 晩年 永倉新八物語

新雪小太郎

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永倉新八、孫に語る ― 新選組・内部の騒動

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囲炉裏の火が揺れ、孫の真之介は目を輝かせて言った。

「じいちゃん、京の暮らしもすごかったけど……
新選組の中でも、いろいろあったんやろ?」


新八は深くうなずき、湯飲みを置いた。

「そらもう、“戦より厄介な騒動”が山ほどあったで。
あの隊はな……腕っぷしは天下一品やけど、みんな曲者揃いやからな」


騒動その一:山南敬助の“脱走騒ぎ”


「まずは、隊の参謀──山南さんの話や。」


新八の顔に、どこか寂しげな影が落ちた。


「山南さんはな、心根の優しい人でな。
乱暴ごとは極力避ける、穏やかな士やったんや。
せやけど規律は厳しかったから……ある日、逃げてしもうた」


真之介が目を丸くする。

「脱走したん!?怒られへんの?」

「怒られるどころやない。
うちの規律では“切腹”や。
歳さん──
あ、土方歳三のことやけどな、
あの人は誰に対しても規律だけは曲げへんかった。」


「土方さん、怖いなぁ……」


「せやけどな、その時は……歳さんも胸の内は複雑やったんや。
山南さんは隊の良心みたいな人やからな。」


新八は静かに言った。

「最後に山南さんが言いよったんや。
『みんなを頼む……永倉くん』

あれは一生忘れられへん。」


騒動その二:芹沢鴨の“酒乱騒動”


「次は……暴れん坊筆頭、芹沢の親分や。」

「芹沢さん?そんなに強かったん?」

「強さより……酒癖の悪さが天下一品や!」

新八は苦笑した。


「あの人はな、酒飲むと祇園で大暴れしてな。
店は壊すわ、芸妓は泣くわ、町人は逃げ回るわ。
一度なんか、酔うて寺の鐘を勝手に鳴らしよったんや」

真之介が爆笑する。

「怒られたん?」

「そら怒られるで。
特に近藤さん──
ほれ、近藤勇がな。」

新八は続ける。

「芹沢さんは悪い人やなかったんやけど……
乱暴がすぎて、結局あの夜に粛清されてしもうた。
新選組はその時初めて、“武士としての道”を選んだんや。」

騒動その三:局中法度の“厳しすぎ問題”

「なぁじいちゃん、“局中法度”ってそんな厳しかったん?」

「厳しいどころやない!
あれは鬼や。
書いたんはもちろん……」

新八は苦笑しながら言った。

「土方歳三や。」

「また土方さんや!」

「歳さんの作るルールは細かい細かい。
『女色禁止』『金の貸し借り禁止』『勝手に道場破り禁止』……
そんなんまで書かんでもええやろ、と思うやろ?」

「ええやろ!」

「ところがな、守らへん奴がおるんや。
とくに総司──
あ、沖田総司は金を貸し借りして、
『あ、忘れてました』って平気な顔しよる。」

「総司さん天然や!」

「そうや。天然で天才や。」
新八は笑みをこぼした。

「歳さんが怒鳴りつけても、
総司はけろっと

『すんません土方さん、つい』や。

その度に歳さんは頭を抱えとった。」

騒動その四:隊士どうしの“恋沙汰”


真之介がニヤニヤしながら聞く。

「ところで……恋の話とかないん?」

新八は少し頬をかいた。

「……まあ、ないことはない。」

「誰!?誰が!?」

「そらもう、京の町にはきれいなおなごがようさんおってな。
けど歳さんの言うことはこうや。」

『女にうつつを抜かすな!
抜かす暇があるなら稽古せぇ!』

「うわ、言いそう!」

「その横で、総司は平気な顔して祇園へ行くんや。
『団子食べに行くだけですよ?』とか言いながら。」

「ほんまかいな!」

「ほんまや。団子食べに行って、
帰りには芸妓さんから手紙もろてくる。」

新八はため息をついた。

「わしらが血の匂いを洗濯してる時、
総司だけええ匂いさせて帰ってくるんやからな。」

◆◆孫へ

真之介は目を輝かせながら聞いていた。

「新選組って……怖いだけやないんやなぁ。
人間くさい、面白い人らや」

新八は静かにうなずいた。

「せや。
どれだけ厳しい戦の中におっても、
人間味は消えへん。

笑いも悩みも、
ぜんぶ抱えて生きとったんや。」


囲炉裏の火がぱちぱちと弾ける。


「それが、新選組や。
わしの、大事な仲間や。」
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