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刀に救われた夜
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紅いの月
赤々と揺らぐ月が、
京の空を妖しく染めていた。
まるで天が血を流しているかのような
紅いの月
町の者は家の戸を固く締め、
志士たちは息を潜めて
決意を固めていた。
新八は、その夜の空気を忘れられん。
あの夜ばかりは――
自身が“死を覚悟した”夜やった。
最後の戦の影
「真之介っ……その夜はな、
いつもと違う匂いやった」
新八はじぃっと
赤い月を見上げたような目をした。
「勤王方は、もう腹を決めてた。
わしら新選組もまた……
決着が近い思うてた」
風がざわつき、
どこか遠くで犬が鳴く。
京の町は妙に静まり返り、
まるで世界が息をひそめているようやった。
不意の遭遇
巡察の途中、新八はふと足を止めた。
「聞こえたんや……人の気配がな」
路地の奥から、刀を抜いた影が三つ。
いやっ よっつ!。
勤王の若い志士たちやった。
その目は
決死。
迷いはなかった。
「新選組……ここで果てても、我らの名は残る!」
その言葉に、
新八はふぅっと
ため息をついた。
「死ぬ気で来られるのが、
一番厄介や」
真之介は ごくりっ喉を鳴らして聞き入った
刀を抜くべきか、抜かざるべきか
頭の中 声がこだまする。
一瞬
新八は手を柄に添えた。
だが――
抜けんかった。
「覚えときや 真之介…
死ぬ気の者に斬りかかる時いうのは……
自分も死ぬ覚悟を決めることや」
はぁいやっ
その瞬間、志士の一人が叫び、
新八に向かって飛びかかった。
しかし新八は動かん。
刀の柄は握っている。
だが抜かない。
それは、相手の心を読むためやった。
「この夜だけは……
斬りたくなかったんや」
赤い月の光の中で、
四人の影が
揺らり長く伸びていた。
刀が鳴いたっ。
風が吹いた。
その刹那――
新八の刀が、鞘の中でかすかに鳴いた。
「キンッ……」
耳慣れた、
しかしぞっとするほど鋭い音。
新八は直感した。
刀が“抜け”と告げておる。
つまりは―
このままでは死ぬ、ということや。
「じっちゃん……刀が知らせたん?」
うむっ
新八は静かにうなずいた。
「刀いうんは鉄の塊やない。
長いあいだ使うてると、
心と気が通うんや。
あの夜、わしは刀に命を救われた」
抜刀――しかし斬らず
ハイッ やあ ザザザザッ
志士が迫る。
その刹那
新八は、
バンッ
鞘ごと横に払った。
抜かずに。
斬らずに。
ただ、力いっぱい叩きつけるように。
おおおっ
志士たちは驚いた。
斬られると思っていた。
しかし新八は斬らなかった。
赤い月光が不気味に揺れている。
新八は
地面から湧き出る様な
唸る声で
低く声を絞り出した。
「死に急ぐなっ。
お前らが命を賭けるんは勝手や。
けどな……
今じゃないでぇ。」
志士たちはその気迫に飲まれた。
刀より恐ろしい気迫が
そこにあった。
その一瞬の迷いで、
ザザザっと彼らは退いていった。
死を覚悟していた者たちが――
ただ、退いた。
その夜のことは誰にも言わんかった
孫が息を呑むなか、
ふふっと新八は
笑った。
「誰にも言わんかった。
仲間に言うても、土方に笑われるだけやしな」
真之介「でも……じっちゃん、それすごい話やん」
新八はうなずいた。
「せやろ。
刀に救われたいうよりもな……
“斬らずに済んだ”ことに救われたんや。
わしの刀は、あの夜、一番静かで、一番強かった」
赤い月の夜の記憶は
新八の胸の奥に、
今もひっそりと残っているのだった。
赤々と揺らぐ月が、
京の空を妖しく染めていた。
まるで天が血を流しているかのような
紅いの月
町の者は家の戸を固く締め、
志士たちは息を潜めて
決意を固めていた。
新八は、その夜の空気を忘れられん。
あの夜ばかりは――
自身が“死を覚悟した”夜やった。
最後の戦の影
「真之介っ……その夜はな、
いつもと違う匂いやった」
新八はじぃっと
赤い月を見上げたような目をした。
「勤王方は、もう腹を決めてた。
わしら新選組もまた……
決着が近い思うてた」
風がざわつき、
どこか遠くで犬が鳴く。
京の町は妙に静まり返り、
まるで世界が息をひそめているようやった。
不意の遭遇
巡察の途中、新八はふと足を止めた。
「聞こえたんや……人の気配がな」
路地の奥から、刀を抜いた影が三つ。
いやっ よっつ!。
勤王の若い志士たちやった。
その目は
決死。
迷いはなかった。
「新選組……ここで果てても、我らの名は残る!」
その言葉に、
新八はふぅっと
ため息をついた。
「死ぬ気で来られるのが、
一番厄介や」
真之介は ごくりっ喉を鳴らして聞き入った
刀を抜くべきか、抜かざるべきか
頭の中 声がこだまする。
一瞬
新八は手を柄に添えた。
だが――
抜けんかった。
「覚えときや 真之介…
死ぬ気の者に斬りかかる時いうのは……
自分も死ぬ覚悟を決めることや」
はぁいやっ
その瞬間、志士の一人が叫び、
新八に向かって飛びかかった。
しかし新八は動かん。
刀の柄は握っている。
だが抜かない。
それは、相手の心を読むためやった。
「この夜だけは……
斬りたくなかったんや」
赤い月の光の中で、
四人の影が
揺らり長く伸びていた。
刀が鳴いたっ。
風が吹いた。
その刹那――
新八の刀が、鞘の中でかすかに鳴いた。
「キンッ……」
耳慣れた、
しかしぞっとするほど鋭い音。
新八は直感した。
刀が“抜け”と告げておる。
つまりは―
このままでは死ぬ、ということや。
「じっちゃん……刀が知らせたん?」
うむっ
新八は静かにうなずいた。
「刀いうんは鉄の塊やない。
長いあいだ使うてると、
心と気が通うんや。
あの夜、わしは刀に命を救われた」
抜刀――しかし斬らず
ハイッ やあ ザザザザッ
志士が迫る。
その刹那
新八は、
バンッ
鞘ごと横に払った。
抜かずに。
斬らずに。
ただ、力いっぱい叩きつけるように。
おおおっ
志士たちは驚いた。
斬られると思っていた。
しかし新八は斬らなかった。
赤い月光が不気味に揺れている。
新八は
地面から湧き出る様な
唸る声で
低く声を絞り出した。
「死に急ぐなっ。
お前らが命を賭けるんは勝手や。
けどな……
今じゃないでぇ。」
志士たちはその気迫に飲まれた。
刀より恐ろしい気迫が
そこにあった。
その一瞬の迷いで、
ザザザっと彼らは退いていった。
死を覚悟していた者たちが――
ただ、退いた。
その夜のことは誰にも言わんかった
孫が息を呑むなか、
ふふっと新八は
笑った。
「誰にも言わんかった。
仲間に言うても、土方に笑われるだけやしな」
真之介「でも……じっちゃん、それすごい話やん」
新八はうなずいた。
「せやろ。
刀に救われたいうよりもな……
“斬らずに済んだ”ことに救われたんや。
わしの刀は、あの夜、一番静かで、一番強かった」
赤い月の夜の記憶は
新八の胸の奥に、
今もひっそりと残っているのだった。
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