空想時代小説 晩年 永倉新八物語

新雪小太郎

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「命はたった一つや

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永倉新八じっちゃん 「命はたった一つや」

孫を前に、囲炉裏の火がパチパチと鳴る。

「……あの夜はなあ、まことにまがまがしい夜やった。

赤い月が空を染めて、まるで血のように照っとった。勤王の志士(しし)らも、わしら新撰組も、皆が死ぬ覚悟しとった。

最後の戦いがもうそこまで迫っとったからや。」

新八は、刀の柄をそっと握り、遠い昔に目を細める。

■斬り合いの中で倒れていた“敵”

「京の裏路地で騒ぎが起きた。わしも駆けつけたんやけどな……濃い影の中に、一人の若い勤王の志士が倒れとった。肩に深手を負って、血が止まらん状態やった。」


孫「敵やったんやろ? とどめ刺さんかったん?」

新八は、少し笑って首を振る。

「命はな、敵味方やあらへん。そいつもまだ若い子や。刀もまともに握れてへんくらい震えててな。

──“もうちょいで死ぬ”ちゅうのが、見たらすぐ分かった。」



■殺さず、救った理由

「近藤さんにも、土方さんにもよう言われた。

『新八、おまえは情が深い』ってな。」


「けどな、わしは“道場の頃の教え”が忘れられへんかったんや。」


新八は孫の方を見つめる。


「命はたった一つや。誰にとっても代わりはない。

奪うんは一瞬、守るんは永い覚悟がいる。

せやから軽う扱うたらアカン──」

「倒れてた若い志士を、わしは背負って寺へ運んだ。
血で着物が真っ赤になったわ。助けたら、またいつか斬り合う相手かもしれんいうのにな。」

孫「……それでも助けたん?」

「そらそうや。そんときは“敵”やのうて、“死にかけの一人の人間”やった。」


■後日談──敵が礼を言いに来た

「何年かしてからや。その志士が、わざわざわしを訪ねてきよった。

“あの夜、命を助けてもろうたこと……忘れへん”ってな。」


新八は照れくさそうに笑う。

「そいつとは結局、二度と刀を交えることはなかった。

戦が収まったあと、“命の借り”を返したい言うて、医者になったらしい。人を救う側や。」


孫「じっちゃんのおかげやん!」

「いや、わしはただ助けただけや。
でもな──命を助けるっちゅうのは、
刀で勝つよりずっと重てぇ価値があるんや。」


■孫に残す言葉

新八は、孫の肩に手を置いて言う。

「覚えとき。命は一つや。


弱いもん見たら手ぇ貸したれ。


敵でも困っとる奴は助けたれ。


斬るより守るほうが、
よっぽど強いんや。」


孫は真剣にうなずく。 


「じっちゃん、ぼくもそういう人になる。
強いけど、優しいやつに。」


新八はにっこり笑う。


「それでええ。強さの本当の意味は、そこにあるんや
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