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リスナー編
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『今日は、七星ななんさん主催の大会に参加しようと思いまーす』
サービス開始二週間が経った。
今日のDanteの動画は、配信者杯に参加するという内容だった。
動画は、都心環状線の神田橋ICに入るところから始まっている。中央サーバーの三越銀座店が集合場所なのだ。高速は現実と同じく中央区方面に続く。千代田区の境に沿って巨大な城壁が築かれているのを高架道路分だけ切り抜いている。
城壁を抜けた先では、カモメが鳴いていた。
水平線が世界を二分している。
本来であれば、千代田区の隣はすぐ中央区になるところ、LPVでは区と区が隣接していない。プロキシサーバーという架空のエリアが区境に設定されているのだ。
わざわざ首都高に乗ったのは、そういうわけだ。
青海原の上を高架道路が走る。DanteはスズキV‐STROM250の、サイドパニアたっぷりのアドベンチャーバイクを足に南に向かった。
『ランク上がんねえ~~』
地味なオーバーコートの裾を波風にたなびかせながら雑談している。
身バレ防止や武器構成を秘匿するため、こうしてコートをフードまで着こむことが多い。
とくにDanteのような有名配信者は顔が割れているため、こうしなければ移動のたびにファンに遭遇してゲームプレイどころではなくなるのだ。
道路標識が空より青く、海よりなお青い。
その青と白の世界に、真っ赤な鳥居が現れてきた。
その下に東京アクアラインよろしく海中トンネルの入り口が続いている。
暗い。ただ構内に六速六千百rpmの並列二気筒エンジンの音だけが孤独に反響する。
「……」
配信者Danteを通じて視聴する日を追うこと二週間、だんだんLPVの楽しみ方がわかってきた。
銃・刀・鎧・杖――プレイヤーは四種のロードアウトを武装して勝利を目指す。キャラクターレベルはない。よって、他のシューティングゲームのテクニックを持つFPS経験者が早々に頭角を現していた。
プレイヤーは最初期《C》から始まり、最終的には《AAA》まで昇格することができる。これが「階級」である。単なるエイム力が求められるゲームとは違い、五感を使うLPVでは、タイトルホルダーのDanteをして《A》ランクより上は行き詰まっていた。
プレイヤースキルは、そう簡単に伸びるものではない。
それはスポーツと同じく、身体に刻み込み、反射へと昇華させて初めて身につくからだ。
手っ取り早く実力を上げるには、むしろ強力な武器を手に入れるのがいい。
千代田サーバーのNPCショップに狙撃銃や突撃銃が並んでいる。
ただし、高品質を保証する代償として高価格になるのはゲームといえど変わらない。
そこで初心者は、まずは金銭を稼ぐためにクエストをこなしていく。
仕事終わり、YouTubeの登録チャンネル欄を確認するのが僕の日課だった。それがLPVが出て以来、Danteの切り抜き動画を見るのに一層いそがしい。
今日の動画は『「LPV」ガキに煽られてガチギレするDante』というタイトルだった。Danteの「てめええええ!」と顔を真っ赤にしたサムネイルからしてすでに面白い。
江戸橋JCTを抜けた先が、やっと中央サーバーだった。
ただ、日本経済の心臓部の街は見る影もない。
横倒しの高層ビル、物語らぬ信号機……大昔に天変地異があった、という世界観だろう、すでに廃墟には往年の草木が生い茂っている。
緑の息吹が陽光に輝く。
まるで滅んだ惑星にひとりだけ取り残されたと疑うほど静まり返っていた。
LPVというゲームは東京都がモデルの世界観というだけで、実景を完全に再現したというわけではない。フォトリアルな千代田サーバーという例外を除けば、都の蜃気楼が幻想の箱庭にゆらめている。
そこが本当の銀座とは違うという荒廃以外の証として、街の所々に謎の建築物が建っていた。
輪っか状の巨大な何か。
それが電波望遠鏡のように一様に南を指していた。
Danteは新京橋ICに近い駐車場にバイクを預ける。
あとは徒歩で三越銀座店まで行った。
こんな荒れ果てた街なのに、レトロな建築様式をファンタジー世界まで伝えている。
ここは中央サーバーの主要集会所として機能していた。
ランク戦に来る者やクエストに参加する者で活気づいている。
そんな集会所の屋上が、指定された集合場所だった。
総勢六十五人。
可愛らしいキャラデザの七星ななんなる個人Vtuberが大会開催の音頭をとる。
『主催者の七星ななんです! よろしくお願いいたしまーす』
お願いしまーす、と参加者が挨拶した。
三回のサバイバル戦のトータル成績で順位付けすること、優勝者にはウルトラレア銃PDWハニーバジャーが贈呈される旨が告知される。
『お~!』
いわく、シークレットレアのNPCから購入した、とのことだ。
サイレンサーが現実と同程度の消音効果しかないLPVにおいてでさえ、亜音速弾・三〇〇BLK弾と組み合わせることでガスガンの発砲音相当にまで抑えることができる。
かなりガチ武器だった。
通常のNPCショップでは入手できないため、この大会に優勝すれば先行者利益を得られるであろう。
サービス開始二週間が経った。
今日のDanteの動画は、配信者杯に参加するという内容だった。
動画は、都心環状線の神田橋ICに入るところから始まっている。中央サーバーの三越銀座店が集合場所なのだ。高速は現実と同じく中央区方面に続く。千代田区の境に沿って巨大な城壁が築かれているのを高架道路分だけ切り抜いている。
城壁を抜けた先では、カモメが鳴いていた。
水平線が世界を二分している。
本来であれば、千代田区の隣はすぐ中央区になるところ、LPVでは区と区が隣接していない。プロキシサーバーという架空のエリアが区境に設定されているのだ。
わざわざ首都高に乗ったのは、そういうわけだ。
青海原の上を高架道路が走る。DanteはスズキV‐STROM250の、サイドパニアたっぷりのアドベンチャーバイクを足に南に向かった。
『ランク上がんねえ~~』
地味なオーバーコートの裾を波風にたなびかせながら雑談している。
身バレ防止や武器構成を秘匿するため、こうしてコートをフードまで着こむことが多い。
とくにDanteのような有名配信者は顔が割れているため、こうしなければ移動のたびにファンに遭遇してゲームプレイどころではなくなるのだ。
道路標識が空より青く、海よりなお青い。
その青と白の世界に、真っ赤な鳥居が現れてきた。
その下に東京アクアラインよろしく海中トンネルの入り口が続いている。
暗い。ただ構内に六速六千百rpmの並列二気筒エンジンの音だけが孤独に反響する。
「……」
配信者Danteを通じて視聴する日を追うこと二週間、だんだんLPVの楽しみ方がわかってきた。
銃・刀・鎧・杖――プレイヤーは四種のロードアウトを武装して勝利を目指す。キャラクターレベルはない。よって、他のシューティングゲームのテクニックを持つFPS経験者が早々に頭角を現していた。
プレイヤーは最初期《C》から始まり、最終的には《AAA》まで昇格することができる。これが「階級」である。単なるエイム力が求められるゲームとは違い、五感を使うLPVでは、タイトルホルダーのDanteをして《A》ランクより上は行き詰まっていた。
プレイヤースキルは、そう簡単に伸びるものではない。
それはスポーツと同じく、身体に刻み込み、反射へと昇華させて初めて身につくからだ。
手っ取り早く実力を上げるには、むしろ強力な武器を手に入れるのがいい。
千代田サーバーのNPCショップに狙撃銃や突撃銃が並んでいる。
ただし、高品質を保証する代償として高価格になるのはゲームといえど変わらない。
そこで初心者は、まずは金銭を稼ぐためにクエストをこなしていく。
仕事終わり、YouTubeの登録チャンネル欄を確認するのが僕の日課だった。それがLPVが出て以来、Danteの切り抜き動画を見るのに一層いそがしい。
今日の動画は『「LPV」ガキに煽られてガチギレするDante』というタイトルだった。Danteの「てめええええ!」と顔を真っ赤にしたサムネイルからしてすでに面白い。
江戸橋JCTを抜けた先が、やっと中央サーバーだった。
ただ、日本経済の心臓部の街は見る影もない。
横倒しの高層ビル、物語らぬ信号機……大昔に天変地異があった、という世界観だろう、すでに廃墟には往年の草木が生い茂っている。
緑の息吹が陽光に輝く。
まるで滅んだ惑星にひとりだけ取り残されたと疑うほど静まり返っていた。
LPVというゲームは東京都がモデルの世界観というだけで、実景を完全に再現したというわけではない。フォトリアルな千代田サーバーという例外を除けば、都の蜃気楼が幻想の箱庭にゆらめている。
そこが本当の銀座とは違うという荒廃以外の証として、街の所々に謎の建築物が建っていた。
輪っか状の巨大な何か。
それが電波望遠鏡のように一様に南を指していた。
Danteは新京橋ICに近い駐車場にバイクを預ける。
あとは徒歩で三越銀座店まで行った。
こんな荒れ果てた街なのに、レトロな建築様式をファンタジー世界まで伝えている。
ここは中央サーバーの主要集会所として機能していた。
ランク戦に来る者やクエストに参加する者で活気づいている。
そんな集会所の屋上が、指定された集合場所だった。
総勢六十五人。
可愛らしいキャラデザの七星ななんなる個人Vtuberが大会開催の音頭をとる。
『主催者の七星ななんです! よろしくお願いいたしまーす』
お願いしまーす、と参加者が挨拶した。
三回のサバイバル戦のトータル成績で順位付けすること、優勝者にはウルトラレア銃PDWハニーバジャーが贈呈される旨が告知される。
『お~!』
いわく、シークレットレアのNPCから購入した、とのことだ。
サイレンサーが現実と同程度の消音効果しかないLPVにおいてでさえ、亜音速弾・三〇〇BLK弾と組み合わせることでガスガンの発砲音相当にまで抑えることができる。
かなりガチ武器だった。
通常のNPCショップでは入手できないため、この大会に優勝すれば先行者利益を得られるであろう。
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