95 / 100
第五章
影の中で 14
しおりを挟む
「いやあ、先輩。追いついたよ」
静星乙羽がにやりと笑った。
何故こいつがいる。いや、何故こいつしかゲートから出てこない。
「お前……九宇時さんはどうした」
剣を構えたまま、煌津は問うた。
「はあ……先輩」
静星が呆れたようにため息をつき、しかしすぐに可笑しそうに笑い声を上げる。
「そんなわかりきった事、聞くまでもないでしょう」
ひゅっ、と。静星が床に向かって何かを投げた。
それが、何かはすぐにわかった。血で汚れているが、間違いようがなかった。銀色のリボルバー。
「九宇時先輩なら、わたしがこの手で殺してやりましたよ」
――一瞬、思考が働かなくなった。
赤い血がついたリボルバーを見つめる。那美の顔が頭をよぎる。次々と。この思いを煌津は知っている。この衝撃を煌津は知っている。
こんな、こんな思いを二度も――……
「うぁああああああああっ!!」
爆発した感情は煌津の体の中を駆け巡り、一直線に静星へと向かわせた。怒気を込めた連撃は、しかし全てをハサミ女のハサミによって防がれる。
「お前、お前、お前ぇぇぇっ!」
「うわあ、すっごい顔だなあ先輩。まるで……」
静星が嘲笑う。
「我留羅みたい」
「ああああああああぁああっ!」
もはや振り方も何も滅茶苦茶だったが、煌津の中にあるのは殺意だけだった。自分が物凄いスピードで怪物になっていくのを感じる。怪物とは、姿形が変わる事でも、呪力に塗(まみ)れる事でもなかった。強い憎しみ、強い殺意に身を任せる時、それを自身の使命だとさえ感じる時、人は怪物になるのだった。
「はあ……もういい。ハサミ女!」
振りが大き過ぎたせいで、胴ががら空きだった。鋭利なハサミの先端が、ずぶりとそこに突き刺さり、腹部を破り、背中まで貫通する。
「がはっ……!」
せり上がってきた大量の血を、煌津は口から吐き出す。ハサミが引き抜かれる。体を支えられるはずもなく、煌津は床に倒れ込む。
「はあ、はあ……」
視界が真っ暗になっていくのは、血が急速に失われているからだろう。今の煌津は変身していない。この出血量では万に一つも助からない。
「千恵里を連れてきて」
静星の声が聞こえる。少しして、短い悲鳴。閉ざされつつある視界で、ハサミ女が千恵里の首根っこを掴んでいるのがわかる。
「ま、こんなものだよ。先輩。呪詛で街が満たされるのを見てもらえないのは残念だけど」
静星が、耳元で言った。
「せいぜい自分を呪って死にな」
何かを言い返したかったが、もはや体に力が入らない。
静星の哄笑が、いつまでも聞こえていた。
静星乙羽がにやりと笑った。
何故こいつがいる。いや、何故こいつしかゲートから出てこない。
「お前……九宇時さんはどうした」
剣を構えたまま、煌津は問うた。
「はあ……先輩」
静星が呆れたようにため息をつき、しかしすぐに可笑しそうに笑い声を上げる。
「そんなわかりきった事、聞くまでもないでしょう」
ひゅっ、と。静星が床に向かって何かを投げた。
それが、何かはすぐにわかった。血で汚れているが、間違いようがなかった。銀色のリボルバー。
「九宇時先輩なら、わたしがこの手で殺してやりましたよ」
――一瞬、思考が働かなくなった。
赤い血がついたリボルバーを見つめる。那美の顔が頭をよぎる。次々と。この思いを煌津は知っている。この衝撃を煌津は知っている。
こんな、こんな思いを二度も――……
「うぁああああああああっ!!」
爆発した感情は煌津の体の中を駆け巡り、一直線に静星へと向かわせた。怒気を込めた連撃は、しかし全てをハサミ女のハサミによって防がれる。
「お前、お前、お前ぇぇぇっ!」
「うわあ、すっごい顔だなあ先輩。まるで……」
静星が嘲笑う。
「我留羅みたい」
「ああああああああぁああっ!」
もはや振り方も何も滅茶苦茶だったが、煌津の中にあるのは殺意だけだった。自分が物凄いスピードで怪物になっていくのを感じる。怪物とは、姿形が変わる事でも、呪力に塗(まみ)れる事でもなかった。強い憎しみ、強い殺意に身を任せる時、それを自身の使命だとさえ感じる時、人は怪物になるのだった。
「はあ……もういい。ハサミ女!」
振りが大き過ぎたせいで、胴ががら空きだった。鋭利なハサミの先端が、ずぶりとそこに突き刺さり、腹部を破り、背中まで貫通する。
「がはっ……!」
せり上がってきた大量の血を、煌津は口から吐き出す。ハサミが引き抜かれる。体を支えられるはずもなく、煌津は床に倒れ込む。
「はあ、はあ……」
視界が真っ暗になっていくのは、血が急速に失われているからだろう。今の煌津は変身していない。この出血量では万に一つも助からない。
「千恵里を連れてきて」
静星の声が聞こえる。少しして、短い悲鳴。閉ざされつつある視界で、ハサミ女が千恵里の首根っこを掴んでいるのがわかる。
「ま、こんなものだよ。先輩。呪詛で街が満たされるのを見てもらえないのは残念だけど」
静星が、耳元で言った。
「せいぜい自分を呪って死にな」
何かを言い返したかったが、もはや体に力が入らない。
静星の哄笑が、いつまでも聞こえていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる