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『さよならを言う前に』11・12
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「今回の一件で、一番事態を引っ掻き回したのは、あなたよ。遠間レイジ」
さながらピストの上で向き合う心持ちだった。
遠間の表情が瞬く間に変化した。今まで気付かなかったが、片頬が赤く腫れている。何かあったのだろうか。まあ、今はいい。
「いや何でです? 俺は何もしていないでしょう?」
「それが問題だと言っているのよ。一度は身を挺して助けた相手なのに、何故今回は何もしなかったの?」
「いや、それは」
遠間は頭を振った。
「仕方ないでしょう? 俺は三日前まで何も知らなかったんだ。それに俺だって忙しいし、神様じゃないんです。いつでも助けてあげられるわけじゃないんですよ」
「……三日前?」
途端に山祢さんが声を上げる。
「何言ってるの? あたし、もっと前に電話したでしょう? 困った事があったら言えって、遠間くんが」
「うるさいよ! 電話なんかしなかったじゃないか。こっちがかけても電源は切ってるし!」
「それは……。遠間くんがあんな事を言うから、もう助けてくれないんだなって、ショックで……」
「お前、いっつもそうだよな。困ったら誰かが助けてくれると思ってる。俺だって全部面倒は見切れないんだよ! お前のために何でもしてやれるわけじゃないん――」
「いい加減にしなさい!」
たまらず、私は怒鳴った。
「遠間レイジ、あなたが本当に、彼女の相談に乗らなかったのかどうかは知らない。でもあなたがやれる事をやらなかったのは事実だわ。電話がかからなかったと言っていたわね。だから、彼女と直接話す事が出来なかったと。でも、あなたは他に連絡を取る手段を持っている。もし本当に心配して、どうにかして彼女の力になってやろうと思っていたのなら、あなたは彼女の家を訪ねる事も出来た。私達のところに来る前に、打てる手はまだあった」
中学の時、彼は彼女の家を訪ねている。当の本人が、そう言ったのだ。
「いや、いやいや、急に訪ねていったらいくら何でも迷惑でしょう? 常識がないのか、君には!」
言いながら、遠間はエイリの手を取った。
「行こう、エイリ。こんな人達にいつまでも付き合う義理はないよ。全く、本当に何なんだ!」
エイリは返事をしなかった。だが遠間は強引に彼女を立ち上がらせ、彼女の荷物を持って踵を返した。
行かせるわけにはいかなかった。だが、同時に私は山祢さんの事が気になった。これ以上、この場であの男を糾弾すれば、結果として彼女自身を深く傷つける事にはならないか?
逡巡が私の行動を遅らせる。芳崎さんが張り詰めた表情で、遠間に詰め寄ろうとする。
その時だった。
「……今、か?」
誰かが、場違いな調子でそんな事を言った。
「うーん、今はちょっと忙しくて。あとでじゃ、駄目か?」
まるで男の子のような口調だった。声から誰が口を動かしているのかが、わかった。私は、彼女を見た。
その左目の瞳が、琥珀色に輝いている。
「いや、だから、忙しいんだよ。山祢」
咲分花桃が、遠間レイジを見つめながら、そんな事を喋っている。
「咲分、さん……?」
芳崎さんが怪訝そうに呟いた。北園さんも奥鐘さんも、あの小紋さんでさえ、困惑したような顔をしている。
「何だよ、お前。頭おかしいのか?」
戸惑ったような声で、遠間が言う。
咲分さんが、にっと笑った。見ているこっちがぞっとするような笑みだった。
「いいえ、見えるんですよ。この左目には。あなたが山祢さんにどんなひどい事を言ったのか」
言って、彼女の目が、ここではないどこかを見つめるように視線が中空を向く。
「『いや、ホントに悪いんだけど、今、他の人と電話してるんだよ。頼むから、あとにしてくれって』」
「やめろ」
「『山祢、我がまま言うなよ。俺も俺の事情があるんだからさ』」
「やめろって」
「『大丈夫だよ。何があっても、山祢なら乗り越えられるって』」
「やめろって言ってるだろ!」
遠間の手が、咲分さんの胸倉を掴み上げた。
「何が悪いんだよ! 俺にだって都合があるんだ! そりゃ中学の時は助けたけど、正しい事はそう何度も出来ないんだよ! いつもいつも正しくは出来ないんだよ!!」
胸の裡を撒き散らすかのような叫び声だった。
咲分さんの目は冷たかった。何も感じていないかのように、遠間を見ている。
「別に、正しくする必要はなかったんじゃないですか」
ぽつりと、彼女は言った。
「ただ、一緒にいてあげればよかったんです。それだけできっと、ここまでの事にはならなかったはずです。あなたは傍に行って少しでも安心させてあげればよかったんです。だって、あなたは……」
琥珀色に光る目が、彼の瞳を見つめている。
「彼女の友達、なんですから」
遠間レイジは険しい顔を崩さなかった。手に込めた力を、抜こうとはしなかった。
後方で、音がした。山祢さんの左手から、包丁が地面に落ちていた。ぞっとなったが、幸い刃は誰も傷つけていないらしい。
包丁を拾おうと、彼女に近付いた時だった。
嗚咽が聞こえた。しゃくりあげる声が、聞こえた。五月にしては冷たい風が吹いてきた。彼女が、力なく膝をついた。
誰かの泣く声が、聞こえてきた。
12
五月も半ばになり、中間試験が徐々に迫ってきている。
放課後、私はいつも通り、部室へと向かった。それが部長の務めだ。面倒さを感じなくもないが、行かなければならない。
遠間レイジからの相談以来、新たな相談者は来ていない。
まあ、それでいい。今は試験前だし、仮に来るとしたら、試験対策の相談かもしれない。乗れるかどうかは微妙なところだ。案外、奥鐘さん辺りはやる気を出すかもしれない。
扉に手をかける。職員室に鍵はなかったから、すでに誰かが来ているのは承知の上だ。
「こんにちは」
そう言いながら、部室に入る。
コの字型に並べられた机の片隅で、女の子が一人、勉強をしていた。私が入って来た事に気付く様子はない。
「奥鐘さん」
そこでようやく私に気付いたかのように、奥鐘さんは顔を上げる。
「……ああ、部長。お疲れ様です」
「お疲れ様。紅茶でも淹れましょうか」
「あ、はい。ありがとうございます」
私は頷き、鞄を置いて準備を始める。
ポットに水を入れて、湯を沸かし始めた時だった。
「……そういえば、部長。今日なんですが、小紋さんはお休みだそうです」
奥鐘さんが、ふとそんな事を言った。
「わかった。どうしてか、理由は聞いてる?」
「ナユタ高に行くそうです」
ほんの一瞬だが、その名前を聞いた途端、心臓が軽く揺らいだかのようだった。
「……例の、市役所に飾られていた絵。あれが今はナユタ高の美術室に飾られているそうです。もう一度、見ておきたいと」
我が兄春治が評価した絵。
中学生だった山祢カオルが描いた絵。
タイトルは『ともだち』
「ナユタ高には、いつまで展示されているの?」
気になって、私は聞いた。お湯が沸くまで、もう少しかかる。
「さあ、そこまでは。まあ、栄誉ある賞を受賞していますから、長く置いておくとは思います」
「そう」
それなら、まあいい。見に行く機会は、まだありそうだ。
そう思った時だった。
コン、コンと、廊下のほうから扉を叩く音がした。
思わず、私達は目を見合わせる。
部員ならば、ノックなどしない。教師ならば、ノックの後に何か言うだろう。
となれば……。
コン、コンと、再びノックの音がした。
「はい。今開けまーす」
奥鐘さんが席を立ち、ドアのほうへと向かう。
水はポットにたっぷりと入っている。足りないという事はないだろう。
※
「――なるほど。それであの時、村木さんはわたしにフュージョナーって言ったんですね」
街灯が照らす夜の比良野の道を歩きながら、わたしは納得します。
「ええ。山祢さんが手袋で特徴を隠していたから、村木エイリはたぶん、眼帯を見て同じように隠していると思ったんでしょう」
わたしの少し後に続いて歩いている、忍冬さんがそう言いました。
「なるほど、なるほど。ところで忍冬さん、どうしてここまで一緒に来てくれたんです?」
振り返って、わたしは彼女に訊きます。
すでに他の人達はそれぞれ帰路についたのですが、忍冬さんだけがどうしてもついて行くと言って聞かなかったのです。
彼女は、ちょっとの間だけ黙っていましたが、やがて言いました。
「理由は二つあるわ」
「二つ、ですか?」
ええ、と彼女は頷きます。
「まず一つ目は、これ」
そう言って、彼女はポケットから何かを取り出しました。
「ああ、家の鍵!」
そういえば、濡れた服を預けた時に貰い忘れていた気がします。
「ごめんなさい。洗濯物から取り忘れていたみたいで」
「ああ、いえ。別にいいんですけど。でも、これなら北駅を出る時に渡してくれれば……」
「聞きたい事があったの」
神妙な面持ちで、彼女は言いました。
「……ねえ、咲分さん。どうしてあの時、自分から海に落ちたの?」
街灯の下、湖水のような瞳が、わたしをしっかりと見つめています。
まるで、答えを聞くまでは逃がさないとでも言うかのように。
――――――――――――――――――――――――――――――――…………ボッチャン。
あの時の水音が、耳に蘇ります。
……どうやら、見られていたようです。
わたしは、鍵を受け取りました。彼女もそれには抵抗せずに、黙っています。
どうして自分から落ちたのか、ですか。
「鍵、ありがとうございました。今日はこの辺で失礼します」
そう言って、わたしは背を向けます。
怒られるかもしれませんが、それならそれで構いません。
「咲分さん」
後ろのほうで、忍冬さんが言いました。
「また学校で会いましょう」
ええ、そうですね。
わたしは、振り返って言いました。
「次は学校でお会いしましょう」
第一話 「さよならを言う前に」 了
「今回の一件で、一番事態を引っ掻き回したのは、あなたよ。遠間レイジ」
さながらピストの上で向き合う心持ちだった。
遠間の表情が瞬く間に変化した。今まで気付かなかったが、片頬が赤く腫れている。何かあったのだろうか。まあ、今はいい。
「いや何でです? 俺は何もしていないでしょう?」
「それが問題だと言っているのよ。一度は身を挺して助けた相手なのに、何故今回は何もしなかったの?」
「いや、それは」
遠間は頭を振った。
「仕方ないでしょう? 俺は三日前まで何も知らなかったんだ。それに俺だって忙しいし、神様じゃないんです。いつでも助けてあげられるわけじゃないんですよ」
「……三日前?」
途端に山祢さんが声を上げる。
「何言ってるの? あたし、もっと前に電話したでしょう? 困った事があったら言えって、遠間くんが」
「うるさいよ! 電話なんかしなかったじゃないか。こっちがかけても電源は切ってるし!」
「それは……。遠間くんがあんな事を言うから、もう助けてくれないんだなって、ショックで……」
「お前、いっつもそうだよな。困ったら誰かが助けてくれると思ってる。俺だって全部面倒は見切れないんだよ! お前のために何でもしてやれるわけじゃないん――」
「いい加減にしなさい!」
たまらず、私は怒鳴った。
「遠間レイジ、あなたが本当に、彼女の相談に乗らなかったのかどうかは知らない。でもあなたがやれる事をやらなかったのは事実だわ。電話がかからなかったと言っていたわね。だから、彼女と直接話す事が出来なかったと。でも、あなたは他に連絡を取る手段を持っている。もし本当に心配して、どうにかして彼女の力になってやろうと思っていたのなら、あなたは彼女の家を訪ねる事も出来た。私達のところに来る前に、打てる手はまだあった」
中学の時、彼は彼女の家を訪ねている。当の本人が、そう言ったのだ。
「いや、いやいや、急に訪ねていったらいくら何でも迷惑でしょう? 常識がないのか、君には!」
言いながら、遠間はエイリの手を取った。
「行こう、エイリ。こんな人達にいつまでも付き合う義理はないよ。全く、本当に何なんだ!」
エイリは返事をしなかった。だが遠間は強引に彼女を立ち上がらせ、彼女の荷物を持って踵を返した。
行かせるわけにはいかなかった。だが、同時に私は山祢さんの事が気になった。これ以上、この場であの男を糾弾すれば、結果として彼女自身を深く傷つける事にはならないか?
逡巡が私の行動を遅らせる。芳崎さんが張り詰めた表情で、遠間に詰め寄ろうとする。
その時だった。
「……今、か?」
誰かが、場違いな調子でそんな事を言った。
「うーん、今はちょっと忙しくて。あとでじゃ、駄目か?」
まるで男の子のような口調だった。声から誰が口を動かしているのかが、わかった。私は、彼女を見た。
その左目の瞳が、琥珀色に輝いている。
「いや、だから、忙しいんだよ。山祢」
咲分花桃が、遠間レイジを見つめながら、そんな事を喋っている。
「咲分、さん……?」
芳崎さんが怪訝そうに呟いた。北園さんも奥鐘さんも、あの小紋さんでさえ、困惑したような顔をしている。
「何だよ、お前。頭おかしいのか?」
戸惑ったような声で、遠間が言う。
咲分さんが、にっと笑った。見ているこっちがぞっとするような笑みだった。
「いいえ、見えるんですよ。この左目には。あなたが山祢さんにどんなひどい事を言ったのか」
言って、彼女の目が、ここではないどこかを見つめるように視線が中空を向く。
「『いや、ホントに悪いんだけど、今、他の人と電話してるんだよ。頼むから、あとにしてくれって』」
「やめろ」
「『山祢、我がまま言うなよ。俺も俺の事情があるんだからさ』」
「やめろって」
「『大丈夫だよ。何があっても、山祢なら乗り越えられるって』」
「やめろって言ってるだろ!」
遠間の手が、咲分さんの胸倉を掴み上げた。
「何が悪いんだよ! 俺にだって都合があるんだ! そりゃ中学の時は助けたけど、正しい事はそう何度も出来ないんだよ! いつもいつも正しくは出来ないんだよ!!」
胸の裡を撒き散らすかのような叫び声だった。
咲分さんの目は冷たかった。何も感じていないかのように、遠間を見ている。
「別に、正しくする必要はなかったんじゃないですか」
ぽつりと、彼女は言った。
「ただ、一緒にいてあげればよかったんです。それだけできっと、ここまでの事にはならなかったはずです。あなたは傍に行って少しでも安心させてあげればよかったんです。だって、あなたは……」
琥珀色に光る目が、彼の瞳を見つめている。
「彼女の友達、なんですから」
遠間レイジは険しい顔を崩さなかった。手に込めた力を、抜こうとはしなかった。
後方で、音がした。山祢さんの左手から、包丁が地面に落ちていた。ぞっとなったが、幸い刃は誰も傷つけていないらしい。
包丁を拾おうと、彼女に近付いた時だった。
嗚咽が聞こえた。しゃくりあげる声が、聞こえた。五月にしては冷たい風が吹いてきた。彼女が、力なく膝をついた。
誰かの泣く声が、聞こえてきた。
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五月も半ばになり、中間試験が徐々に迫ってきている。
放課後、私はいつも通り、部室へと向かった。それが部長の務めだ。面倒さを感じなくもないが、行かなければならない。
遠間レイジからの相談以来、新たな相談者は来ていない。
まあ、それでいい。今は試験前だし、仮に来るとしたら、試験対策の相談かもしれない。乗れるかどうかは微妙なところだ。案外、奥鐘さん辺りはやる気を出すかもしれない。
扉に手をかける。職員室に鍵はなかったから、すでに誰かが来ているのは承知の上だ。
「こんにちは」
そう言いながら、部室に入る。
コの字型に並べられた机の片隅で、女の子が一人、勉強をしていた。私が入って来た事に気付く様子はない。
「奥鐘さん」
そこでようやく私に気付いたかのように、奥鐘さんは顔を上げる。
「……ああ、部長。お疲れ様です」
「お疲れ様。紅茶でも淹れましょうか」
「あ、はい。ありがとうございます」
私は頷き、鞄を置いて準備を始める。
ポットに水を入れて、湯を沸かし始めた時だった。
「……そういえば、部長。今日なんですが、小紋さんはお休みだそうです」
奥鐘さんが、ふとそんな事を言った。
「わかった。どうしてか、理由は聞いてる?」
「ナユタ高に行くそうです」
ほんの一瞬だが、その名前を聞いた途端、心臓が軽く揺らいだかのようだった。
「……例の、市役所に飾られていた絵。あれが今はナユタ高の美術室に飾られているそうです。もう一度、見ておきたいと」
我が兄春治が評価した絵。
中学生だった山祢カオルが描いた絵。
タイトルは『ともだち』
「ナユタ高には、いつまで展示されているの?」
気になって、私は聞いた。お湯が沸くまで、もう少しかかる。
「さあ、そこまでは。まあ、栄誉ある賞を受賞していますから、長く置いておくとは思います」
「そう」
それなら、まあいい。見に行く機会は、まだありそうだ。
そう思った時だった。
コン、コンと、廊下のほうから扉を叩く音がした。
思わず、私達は目を見合わせる。
部員ならば、ノックなどしない。教師ならば、ノックの後に何か言うだろう。
となれば……。
コン、コンと、再びノックの音がした。
「はい。今開けまーす」
奥鐘さんが席を立ち、ドアのほうへと向かう。
水はポットにたっぷりと入っている。足りないという事はないだろう。
※
「――なるほど。それであの時、村木さんはわたしにフュージョナーって言ったんですね」
街灯が照らす夜の比良野の道を歩きながら、わたしは納得します。
「ええ。山祢さんが手袋で特徴を隠していたから、村木エイリはたぶん、眼帯を見て同じように隠していると思ったんでしょう」
わたしの少し後に続いて歩いている、忍冬さんがそう言いました。
「なるほど、なるほど。ところで忍冬さん、どうしてここまで一緒に来てくれたんです?」
振り返って、わたしは彼女に訊きます。
すでに他の人達はそれぞれ帰路についたのですが、忍冬さんだけがどうしてもついて行くと言って聞かなかったのです。
彼女は、ちょっとの間だけ黙っていましたが、やがて言いました。
「理由は二つあるわ」
「二つ、ですか?」
ええ、と彼女は頷きます。
「まず一つ目は、これ」
そう言って、彼女はポケットから何かを取り出しました。
「ああ、家の鍵!」
そういえば、濡れた服を預けた時に貰い忘れていた気がします。
「ごめんなさい。洗濯物から取り忘れていたみたいで」
「ああ、いえ。別にいいんですけど。でも、これなら北駅を出る時に渡してくれれば……」
「聞きたい事があったの」
神妙な面持ちで、彼女は言いました。
「……ねえ、咲分さん。どうしてあの時、自分から海に落ちたの?」
街灯の下、湖水のような瞳が、わたしをしっかりと見つめています。
まるで、答えを聞くまでは逃がさないとでも言うかのように。
――――――――――――――――――――――――――――――――…………ボッチャン。
あの時の水音が、耳に蘇ります。
……どうやら、見られていたようです。
わたしは、鍵を受け取りました。彼女もそれには抵抗せずに、黙っています。
どうして自分から落ちたのか、ですか。
「鍵、ありがとうございました。今日はこの辺で失礼します」
そう言って、わたしは背を向けます。
怒られるかもしれませんが、それならそれで構いません。
「咲分さん」
後ろのほうで、忍冬さんが言いました。
「また学校で会いましょう」
ええ、そうですね。
わたしは、振り返って言いました。
「次は学校でお会いしましょう」
第一話 「さよならを言う前に」 了
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