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雨の日【前編】
しおりを挟む雨が降っている。ドン、トンと屋根に打ち付ける雨を聞きながら目を覚ます。
足元をクチャクチャと濁す泥が、今日もまた自分の人生の希望のなさを伝える。
今朝もまた冷えた。息が白くなる中、ボロ小屋の隅で妹を起こす。食べ物がない。
どうにか今日を生き延びるため、食糧を盗りに外に出る。
++++++
ハラハラと雪が舞う。馬車から見える景色は何時もつまらないものだと思う。
景色は変わろうが、この陰鬱な気分は変わらない。
次の目的地は何処だったか。いや、そんなことはどうでも良い。何処へ行っても同じことだ。村人に持て囃され、神が見守るはずもないのに、「神は何時も貴方方をを見守っています。」と言葉を吐く。それで良いのか、お前達は。見ているのは、結局聖女という外面だけではないのか。
開けたばかりの黒檀色の幕を閉ざし、馬車から見えた景色を再びつまらないものだと嘆息する。
聖女の吐いた息は誰にも届かない。
******
雲が空からの光を遮る。
神殿からやっとの事で抜け出せた。せっかくディラールの街に着いたのにそのまま剣術の訓練など、ありえない。
速足で歩きながら、神殿という組織の窮屈さを吐き出す。
そもそも私は剣術など学びたくないのだ。何時でも隣は守衛で固められる聖女が何故剣術を学ぶ必要がある。私には魔法がある。
神殿のある貴族街から抜け出し、平民の住む街に出た。
******
しとしとと雨が降ってきた。
せっかくの自由なのに、この陰鬱とした天気だ。私は聖女なのだから、晴れにするべきではないのか。
いっそ魔法で、とも思ったが私の中の良心がそれを阻んだ。雨を待ち望んでいる人もいる。
雨に濡れないよう持ってきた絹の布を頭の上に被せ、雨でも賑わいをみせる露天の集いへ足を進ませた。
音の出る魔道具や、美しい髪飾りを物色しているうちに何処か知らない、暗い雰囲気を感じさせる場所へ出た。
此処が俗に言う貧民街だろうか。道端では、痩けた人が、物欲しそうにこちらを見ていた。
何か恐ろしい。
場違いなものが来てしまったためだろうか、何か普段見ているものとは別物の異様な雰囲気を感じた。
足早に先程来た道を辿ろうとする。
++++++
良さそうな獲物がいた。金になりそうな布を持っている。あんな上等なもんを雨凌ぎに使いやがって、そう吐き捨てながらも冷静に観察する。貴族のお嬢様か?14、15くらいだろう。ブロンドの髪なんて目立つのによく来たな。なんでこんな街を歩いているか知らないが、ここにきたことを恨め。こちとら妹のために今日の食い扶持を稼がなきゃいけないんだ。
足音を消す。狙うは一瞬だ。速すぎても、遅すぎてもいけない。
これまでの経験を思い出す。俺は失敗したことが無い。今日も何事もなく成功する。そうだ。俺はやれる。
女が平民街へ方向転換する、その一瞬を狙った。
掴んだ。あとはタイミングを見極めれば良い。
スッ
良い。取れた。相手は気がついていないようだ。このまま少しづつ歩幅を大きく、両足の回転率を上げる。
もう大丈夫だ、そう思った瞬間「貴方、灰色の髪のそこのあなたです!」と、女が叫んだ。
見破られたことに驚いたが、距離は離れている。冷静に塒への道を辿る。
問題ない。逃げきれた。そう思った瞬間……っ!!
あの女が目の前にいた。
しかも右手には片手剣を握っている。終わった。そう思った瞬間、剣が振り下ろされ、意識が途絶えた。
++++++
「連れてきました。」
聖女は平民街の僻地にいた。貧民街で捕まえた灰色髪のスリを連れて。
「あー!セーラちゃん!!というか誰よその男?汚い格好ねー!」
「スリにあったのですが、捕まえました。結構いいスジしているようなので、鍛えてくれないかな…と。必ず強くなります。」
「えー!この男を?!…んーでも、セーラちゃんの頼みだから少しくらいは見てあげないとね。いいわ。任された。というかセーラちゃんは聖女でしょ?こんなとこに…」
「任せました!」という声とともにセーラは既に消えていた。
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