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2. アレクとなった俺、人前に出る
―― 怪しい兄弟たち 1 ――
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俺は、必死で、こういう場合のセリフを考えた。
「ご心配いただき、ありがとうございます。意識がはっきりするまで時間がかかりましたが、今は、この通りです」
俺は、国王に一歩近づき、ケガから回復したての人間を装って、ふらつきながら腕をまわしたり、屈伸運動を数回やってみせたりした。
「ふむ。……問題ないようじゃの」
国王は、身を乗り出して、俺を手招きする。
そばに寄っていくと、国王は、手を伸ばして、ゆっくりと俺の腹をなでた。
俺は、その手を払いのけようとして、腹に傷があって治療されたことを思い出し、かろうじて思いとどまった。
男に腹を触られるのは、アレクの父親とはいえ、あまり良い気持ではなかった。
「陛下、アレク殿が、困っていますよ」
横から、王妃が声をかけた。微笑んでいるが、眼は鋭さを残したままだった。
「ふむ。大丈夫なようじゃの。かなり大きな切り傷だと思ったが。……その方らが、治したのか?」
アリアたちに、声をかける。
アリアとイリアは、緊張のせいか、肩を丸め、両手を腰の前で組み、身体がひとまわり小さくなったかのようだった。
アリアが震え声で答える。
「……そうでございます。我らが、治療いたしました。何の問題もなく、公務にも復帰できるでしょう」
宰相が、口添えした。
「わたしが、雇い入れた者たちです。――強力な魔力を持っております。この程度の切り傷の治療など、造作もないことです」
国王は、うんうんとうなずいた。
宰相のことはお気に入りで、アリアの話では、ここ何年も宰相の言葉に異を唱えるのをみたことがないそうだ。
「……よくやったの。あとで褒美をとらせよう。今日は、アレクの復帰祝いじゃ。遠慮なく楽しんでほしい」
国王は、背後に控えた護衛兼給仕から、杯を受け取り、高くかかげた。
それを合図に、大量の料理と飲物の置かれたテーブルが、いくつも運ばれてきた。
運ぶときの揺れで、食器や酒の容器がぶつかりあい、盛大な音をたてた。
国王の前から下がると、俺は、肩を揉みながらため息をついた。
異世界人に転生しても、肩こりからは逃れられない、というより、余計ひどくなったようだ。
「あれだけの傷、ほんとうに治癒魔法だけで治ったのか?」
灰色の髪に、がっしりしたあごを持つ四角い顔。口のまわりに伸びた髭をのぞけば、鼻から口へのラインが王妃にそっくりな男が、声をかけてきた。
アリアたちに講義を受けていたときにみた、肖像画を思い浮かべる。
第一王子のセルゲイだった。
「治癒魔法と、傷が癒えたあとは、体力強化魔法をかけてもらいました」
セルゲイは、疑わし気な顔をして、俺に酒の入った銀製のコップを手渡した。
「……申し訳ない、兄上。彼女たちから、酒を禁じられておりまして」
アリアたちを、眼で指し示す。
「それでは、しょうがないな。身体を大事にな」
俺の肩をたたき、去っていった。
身体を大事に、とはどういう意味なんだ? 命を狙ってますよ、ということなのだろうか。
「ご心配いただき、ありがとうございます。意識がはっきりするまで時間がかかりましたが、今は、この通りです」
俺は、国王に一歩近づき、ケガから回復したての人間を装って、ふらつきながら腕をまわしたり、屈伸運動を数回やってみせたりした。
「ふむ。……問題ないようじゃの」
国王は、身を乗り出して、俺を手招きする。
そばに寄っていくと、国王は、手を伸ばして、ゆっくりと俺の腹をなでた。
俺は、その手を払いのけようとして、腹に傷があって治療されたことを思い出し、かろうじて思いとどまった。
男に腹を触られるのは、アレクの父親とはいえ、あまり良い気持ではなかった。
「陛下、アレク殿が、困っていますよ」
横から、王妃が声をかけた。微笑んでいるが、眼は鋭さを残したままだった。
「ふむ。大丈夫なようじゃの。かなり大きな切り傷だと思ったが。……その方らが、治したのか?」
アリアたちに、声をかける。
アリアとイリアは、緊張のせいか、肩を丸め、両手を腰の前で組み、身体がひとまわり小さくなったかのようだった。
アリアが震え声で答える。
「……そうでございます。我らが、治療いたしました。何の問題もなく、公務にも復帰できるでしょう」
宰相が、口添えした。
「わたしが、雇い入れた者たちです。――強力な魔力を持っております。この程度の切り傷の治療など、造作もないことです」
国王は、うんうんとうなずいた。
宰相のことはお気に入りで、アリアの話では、ここ何年も宰相の言葉に異を唱えるのをみたことがないそうだ。
「……よくやったの。あとで褒美をとらせよう。今日は、アレクの復帰祝いじゃ。遠慮なく楽しんでほしい」
国王は、背後に控えた護衛兼給仕から、杯を受け取り、高くかかげた。
それを合図に、大量の料理と飲物の置かれたテーブルが、いくつも運ばれてきた。
運ぶときの揺れで、食器や酒の容器がぶつかりあい、盛大な音をたてた。
国王の前から下がると、俺は、肩を揉みながらため息をついた。
異世界人に転生しても、肩こりからは逃れられない、というより、余計ひどくなったようだ。
「あれだけの傷、ほんとうに治癒魔法だけで治ったのか?」
灰色の髪に、がっしりしたあごを持つ四角い顔。口のまわりに伸びた髭をのぞけば、鼻から口へのラインが王妃にそっくりな男が、声をかけてきた。
アリアたちに講義を受けていたときにみた、肖像画を思い浮かべる。
第一王子のセルゲイだった。
「治癒魔法と、傷が癒えたあとは、体力強化魔法をかけてもらいました」
セルゲイは、疑わし気な顔をして、俺に酒の入った銀製のコップを手渡した。
「……申し訳ない、兄上。彼女たちから、酒を禁じられておりまして」
アリアたちを、眼で指し示す。
「それでは、しょうがないな。身体を大事にな」
俺の肩をたたき、去っていった。
身体を大事に、とはどういう意味なんだ? 命を狙ってますよ、ということなのだろうか。
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