ファンタジー/ストーリー4

雪矢酢

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第ニ章

五話 その者たちはガーディアン

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ヘルゲートは土壇場にて戦力が一気に上昇する。

かつて知によって国を支えていたゼノンブールの復職、さらにはダリアが帰還し、負傷したフラットに代わり竜剣を新竜剣へと進化させ参戦したからである。
彼女はテラーに変装してレフトと敵のアジトへと潜入する任務が伝えられた。
指示したのはガイアである。
レフト、ダリアが先行し後方にはゼノンブール、マーガレットそしてアレサが布陣されたアジト殲滅隊。
それをドルガ、デルタ、そしてセフィアが迎え撃つ。


レフトたちは指定された場所へ向かっていた。


「レフトーラ、伝えておきたいことがあるんだ」


「えっ」


「敵は強い、もし私に何かあっても、あなたは殲滅を優先してほしいのだ」


「…」


「敵のドルガは人を洗脳できると聞く。もし私が洗脳されたら…」


「ダリアさん、ドルガはそういう精神を攻撃してくるんです」


「…あなたは必ず守ります、この剣に誓って…」


「…」


…この人は物理的には強いのだけれど、何か精神力が弱いというか…。


レフトはまだ彼女の真の力を知らない。
ダリアはレフトと似ており、力を解放することに抵抗があるのだ。
その強大な眠る力が解放された時どうなるのか…。
それは本人含め誰も知らない。





ヘルゲートダークパレスにて。


殲滅隊が出発しパレスは厳戒態勢となった。
市民は避難地区やシーキヨ、復興機関本部などへ退避し街はゴーストタウンと化していた。
ガイアとミミズク、そしてバイオは教団の奇襲があるとみていたのだ。


「…人の気配がないぞ…これはどういうことだ…」


ガイア奇襲の任を受けた教団の双竜ことアンとジャック。
二人は不可視にてヘルゲート入りしたのだが、直ぐに異変に気づいた。


「ジャック……これは敵が一枚上手だったわ」


「どういうこった?」


セフィアは二人を魔造鏡で洗脳していた。
しかしタフな精神があるアンはその洗脳を自力で解いていたのだった。
そのことを伏せていた彼女は弟の洗脳を解き教団を去るためこの任を受けた。




「市民がいないのは避難したからよ。このままだと私たちは捕まるわ、逃げましょう」


アンにとってこの状況は好都合であった。
だがその時、不可視の魔法が何者かによって解除され二人の姿が街中に晒される。



「この街の者じゃないな、教団の刺客か」


「ちっ…」


ジャックがふりかえると二人は既に包囲されていた。
復興機関ガルシアとヘルゲートの魔術師クノ、そして兵士四人が二人を囲って布陣している。


「ガルシア、気をつけろ。この二人は…強い」


ジャックはその包囲をぐるりと確認する。
ニヤニヤと笑いながら両手に鋭い爪型の武器を装備すると兵士四人を一瞬で切り裂いた。


「仕事中の姿をみたものは消す、それがポリシーなんだよ」


「投降するつもりがねえなら…仕方ねえよな…」


ガルシアは長剣を抜刀し身構えた。
クノは二人にバレないようにゆっくりとパレスへ援軍の合図を出した。


「ぼけが、お前らを始末すりゃいいだけの話だろ」


ジャックは爪を構えてガルシアに襲いかかる。
激しい攻撃だがそれを冷静に受け流すガルシア。
見た目や言動は荒っぽいが彼の剣術は基本に忠実で安定している。
アンは剣の心得があるのでガルシアの実力を見極めた。


「下がってジャック。この剣士は私が討つわ」


するとアンが盾に納めていた剣を取り、ジャックと入れ代わりガルシアと撃ち合う。
彼の剣を盾で流しカウンターにて反撃する。


「くっ…盾持ちか…攻守とも死角がねえな」


ムダのない優れた立ち回りのアンにきびしい表情のガルシア。
一瞬の隙をつき狙いすました一撃は彼の左腕をとらえた。


「あなたの太刀筋は…何故かわかるわ」


「は? 太刀筋がわかるだと…」


彼の剣は基本に忠実、そして彼女の剣もまた基本に忠実であった。
相手は共通する剣術である、そう見切ったアンはガルシアとの勝負を一歩有利に進めた。


「私たちを見逃して下さい。もうヘルゲートには近づきません」


「なにっ」


アンはガルシアの剣術を封じ彼に勝利した。
だが突如剣を捨てた。


「こりゃどういうことだ…」


「おい姉さん、デルタに何か吹き込まれたのか、こいつらを消さないとすぐに応援を呼ばれ逮捕される」


「ジャック、もうやめましょう…私たちは洗脳されていたのよ。ドルガは私たちを駒としてしか見ていないわ」


言い争う双竜。
ガルシアは剣を構えるが、アンの言動が気になり攻撃することができない。
戸惑うガルシアとは対照的にクノは冷静だ。
言い争う二人の周囲に気づかれぬよう結界を発動させる。



「ん、これは結界か」


異変に気づいたジャックは姉の後ろに移動し彼女を盾とする。


「おい、貴様正気か」


「ジャック…あなた…」


実の姉を盾にする外道に声を荒げるガルシア。
そんなジャックは倒れている兵士をこちらに引き寄せ、なんとその身体から血を吸った。


「こうなりゃ全員始末してやんよ、覚悟しろ」


身体がひとまわり大きくなり、本来の爪が伸び、牙が現れ彼はヴァンパイアへと変異した。



「ち、ヴァンパイアってのは夜に出現するもんじゃねえのか」


「あれは普通のヴァンパイアではないぞ。何らかの呪術で守られている強化個体だ」



クノはガルシアの側で身構える。


「ジャック、もう止めて…これ以上はあなたの身を滅ぼすことになるわ」


「姉さんも力を解放するんだよ。二人で協力すればこの二人は楽勝だ、そしてそのままダークパレスへ攻め込もう」


「ダメよ、あなたはなにもわかっていない。こんな力は捨てたほうがいいのよ。私はもう教団には戻らない、戦わない」


するとアンは剣を手にしてジャックを斬りつける。
姉からのまさかの攻撃に逆上したジャックは彼女の首を掴む。


「姉さんも戦うんだよ」


ジャックは注射器のようなモノをアンの首に刺す。
その姉に集中していたジャックの腕を、ガルシアは切断する。


「てめえ、さっきからウゼえんだよ」


ジャックはアンを蹴り飛ばしガルシアに直撃させ二人をダウンさせた。



「ぐっ…お前、自分の姉を……」


「おめでたい奴だな、姉さんの正体を知らねえとはな」



ガルシアはアンを起こそうとするが様子がおかしい。



「おい、離れろ、彼女も変異する」



クノはガルシアに叫ぶ。
ガルシアは負傷してはいるが、まだまだ動ける。


「コイツは…」


「……ナーガか…」



クノはアンの正体を見破った。
彼女はナーガであった。
変異していく彼女をただただ見つめる二人。


「クノ……お前はパレスに逃げろ…」


「…バカ言うな、お前一人でどうにかできる相手ではなかろう」


身構える二人にアンは尻尾をなぎ払う。
これが見事なくらいに直撃し二人は手痛い先制攻撃を受けてしまった。


「脆いな、もう勝敗が決したではないか」


「…」



変異したアンは意志がない。
剣と盾を構えた強大な化け物となり二人のところへ迫る。


「…なんて力だ、骨が何本かいっちまったぜ…」


「こっちは右腕がヤバい…これじゃあ術が使えんわ」


負傷しているが何とか立ち上がる二人。
その姿に喜びパチパチと拍手をするジャック。


「姉さんは強いぞ」


「ぼけが、おめえの姉さんは戦いを望んでいなかった…」


「おい、ガルシア」


ガルシアは剣を捨てアンの前に出た。
その姿にアンの動きが止まる。


「姉さん、やれ、そいつは敵だ」


「何者か知らねえが、あなたには何かを感じた。だから信じるぜ」


ガルシアは目を閉じて膝をつく。


「ガルシアっ」


「やるんだ姉さん」


その時、パレスから突如爆音が響き、人が猛スピードでこちらへ飛んでくる。


「な、なんだアレは…」


その光景に恐怖するジャック。
アンもその方向を見て固まっている。


「…間に合った……後はお願い…します…バイオ様」


そう言うとクノは力尽き倒れた。
彼はこっそりとパレスへ援軍要請していた。

そしてバイオがゆっくりと降りてくる。
遅れてアローが到着する。
彼はすぐにクノを応急措置をする。


「どんな奴かびびったが…ただの小柄な女じゃねえか…」


言葉とは裏腹にジャックは怯えている。
アンはその底知れぬ魔力を見破り身構えている。


「うふふ、これは珍しい個体ですわね」


「バイオ様、これは教団の双竜ジャックとアン、暗殺を得意とした二人組です」


アローはバイオに二人のことを説明する。


「てめえ、この鳥野郎、裏切りやがったな」


「何とでも言え。私は復興機関ヘルゲート支部に忠誠を誓った。ジャック、お前は救いようがないが姉のアン殿は別だ」


「バイオ様、ご足労かけました」


ガルシアはバイオの隣に布陣する。


「うふふ、ずいぶんとムチャをしましたねガルシアさん」


「は、冷静さを欠いておりました」


「何人来ようがもう後には引けん、姉さん、敵を殲滅するんだ、今こそ教団の力をっ」


ジャックは禍々しい剣を召喚するとそれをアンに投げつけた。
アンは剣を受け取ると邪悪なオーラを纏い狂気の形相で身構える。


「うふふ、あれは邪剣ですね。蛇が邪剣、シャレたつもりでしょうが、全く面白くないです」


「…バイオ様、ここは…私が…」


傷ついているガルシアが前に出てアンを迎え撃つ。


「おい、その傷で大丈夫なのか?」


アローがガルシアを心配し制止するが彼はアンを見て話す。


「彼女を解放できるのは…オレだけだ…」


「ふっ」


「今のセリフは面白かったです、うふふ」


ガルシアの言葉に吹き出すアロー。
バイオも珍しくクスクスと笑っている。
場が和むがガルシアは真剣そのものである。


「…」


アンとジャックにはゆとりがなく、三人の言葉など耳に入らず無反応である。


「ガルシアさん、あのナーガを信じるのですね?」


「はい、レフトの言葉を思い出しました。あのアンという者を…救いたいのです…」


「うふふ」


「わかった、任せたぞ」


「ボロボロのお前が姉さんを倒せるわけがない」


アンとガルシアは対峙した。
彼女は突然叫び、そして盾を投げ捨てた。
一撃にかけるようだ。
ガルシアは大きく息を吸い込み、拾った剣は構え集中する。



「いくぞ」



仕掛けたのはガルシアだ。
アンに向かっていく。
彼女はそんな彼の首を狙い剣を振り下ろす。


「とらえた、終わりだ」


致命的な間合いで攻撃するアンに興奮するジャック。
絶体絶命のガルシアだが、何と突然自分の剣をアンに投げつけた。
ダメージを受ける彼女だが怯まず彼の首を攻撃する。
だがその刃をガルシアはなんと白刃取りした。



「バカな」


「あの剣士、見事だ」


「うふふ」


刃を流し、放心状態のアンの顔面に一撃を与えるガルシア。
剣が手から離れ、強烈な一撃で変異が解除されたアンはそのまま倒れた。


「ちっ、あんなことができるとは…ならばもう一度剣を…」


ジャックは剣を回収しようとするが、剣は突如腐り、あっという間に分解され消滅してしまう。


「オモチャもう必要ないでしょう?うふふ」


「て、てめえ…化け物か…」


「ヴァンパイアよ、覚悟せよ」


ガルシアとアローに下がるよう指示したバイオ。


「おめえなんぞにっ」


もはやこれまでと、爪を構えてバイオに特攻するジャック。


「うふふ、あなたを分解したいのだけど」


捨て身の攻撃を右手で受け止めるバイオ。


「生け捕りに、ということなので」


バイオは左手をジャックの頭に当てる。
すると彼は崩れ落ち意識を失った。



双竜はここに散った。



力尽きたアン。
その彼女を支えるように気絶するガルシア。
回復したクノは二人を前にして思った。 



レフトの次はガルシアか…。
愛情ってのはよくわからん。



「ガルシアさん。ミミズクさんに休暇申請でしょうかね、うふふ」


次回へ続く。
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