ダークライトラブストーリー

雪矢酢

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【男性】ライトストーリー

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冷たい雨が降っている。
領土を巡る争いが激化している。
地域に住まう者は武器を手に取り、進軍してきた色の違うモノを攻撃し追い払う。

この世界は単純だ。

自分たちと違う色のモノは敵、それだけだ。

無機質な世界をイメージされるがそうでもない。どんな世界でも、どんな地域でも、人が存在していれば、そこにはきっと感情があるのではないでしょうか。


バシャバシャと兵士たちがぬかるんだ道を進む。簡素な鎧に身を包むのは多くの一般的な兵士。それを統率する立派な鎧をまとう、偉そうな兵士が部隊長といったところか。

「まもなく敵地。よいか、徹底に破壊し一人も逃がすな」

部隊長の物騒な号令が耳に残る。

「スル、大丈夫か。顔色が悪いぞ」

仲間が心配してくれる。

「今日が初陣なのでちょっと緊張して…」

「そうか」

スルは武器を持って戦うのが初めての温厚な男性だ。もともと農民だったが、黒い国に侵略され住む場所を失ったつらい過去があるが復讐だの憎しみはない。
平和に暮らしたい、ただそれを実現するために武器を取り戦う兵士になった。

「どうした? 寒いのか」

「はい、雨で身体が冷えたようです」

「まもなく戦闘になる。そうすりゃ嫌でも動くからすぐ暑くなる」

「…」

「とにかく黒い奴はみんな敵だ」

「わかりました」

何かを決意したスル。
目の前には黒い兵団が待ち構えていた。
兵の数はほぼ互角。
互いににらみ合い一触即発だ。


お互いの部隊長が前に出る。


「うちの部隊長は強いが、敵の部隊長も強そうだな。こりゃ楽しめそうだ」

「…楽しめそう…だ?」

「あ? そうさ、敵を殲滅して略奪するのは人間の本能だぜ」

「…」

「おっと、無駄口すまない、いくぞ」


部隊長たちが剣を抜き、戦闘が始まった。
両軍の雄叫びが響き、衝突する兵士たち。

スルは叫びながら突撃する。
ブンブンと剣を振り回すが、素人の剣術など戦場では役に立たない。
後ろに気配を感じて、振り返りつつ剣を振り下ろす。

「うおおぉぉっーー」

相手を確認した瞬間、スルは剣を止めた。

「…うぅ」

武装こそしているが兵士は少女。
少女は斬られると思いガタガタと震えている。ここだけ時間が止まったような錯覚をスルは感じていた。
黒い奴は全て敵であるとの仲間のアドバイスだったが、スルには少女を斬ることができなかった。

少女はスルが固まっているのを確認すると、剣でスルに突き刺した。
とっさに反応して急所は回避したが体勢を崩し、首に剣を突きつけられた。

殺される

スルは目をつぶり死を覚悟した。
農民が兵士になるなんてムリだったとか、いろいろなことが走馬灯のように浮かんだ。

だが次の瞬間少女は倒れた。
仲間が少女を斬ったのだ。

「しっかりしろ、立って動くんだ」

誰かはわからないが白いから味方だろう。
スルは放心状態になった。
死んだ魚のような目つきでただ目の前の黒い兵士をバッサバッサと斬っていった。
剣が折れるとその辺に転がる剣を手に取り次々と斬っていった。
当然だが反撃もされた。

だが脅威の反射神経で急所は外れ大事には至らず戦闘を継続できた。

この戦いは白い兵士が優先で、黒い兵士の一部は不利と判断するや逃亡する者が続出。
突出した部隊長を複数で囲み、手足を攻撃する。身動きがとれなくなったところで首が飛ぶ。これにより白い国の勝利は確定となった。

白国の部隊長は戦闘終了を指示し、残党の捕縛が始まった。

「捕虜を集めよ、殺してはならぬぞ」

その声で我に返ったスル。
水たまりに映る血塗れになった自分の姿をみて言葉を失った。

「…お前…よくやったな…」

仲間が来て倒れ込んだスルを抱き抱え医療班に引き渡した。

スルは血と泥でぐしゃぐしゃになった顔から涙を流し言った。

「…敵に…少女が…」

だが仲間はそれに驚きもせずに答えた。

「躊躇するとこっちがやられるぞ」

その通りだった。
戦場とはそういうものなのだ。

「…そうですね」


この地はもともと白い国の領土であった。
所々壊れた家屋や倉庫らしきものがある。
戦闘の時は気にもしなかった。
いや、気にしているゆとりがなかった。

「そのくらいの傷でしたら歩けますね。もし熱が出たらこの薬を飲んで下さいね」

解熱剤を処方してもらい隊に戻る。

「んっ、何をしているんだ?」

スルは人が集まっているところへ駆け寄った。

「おお、もう大丈夫なのか」

仲間がいる。

「はい、解熱剤だけ頂きました。ところでこれは一体、何を」

「ああ、戦いに勝利した部隊は捕虜を連れて帰れるんだよ」

「えっ」

敗者は全てを奪われるとは言うけど…。

「おいおい、勘違いしているようだな、もちろん捕虜が同意しないと連れ出せないし、強制は禁止されている。何よりこいつらは自国には戻れない」


その時、ゴゴっと大地の揺れを感じた。
全員が揺れを感じ周囲を見回す。

「撤退せよっーーー」

遊撃部隊が丘にある貯水池が決壊したことを確認したようだ。
かなり距離があるのだが水がこっちに流れてくるのが確認できる。

「うおっ、こりゃここら一帯が流されんぞ。おい、逃げんぞ」

仲間はスルの頭を冷静になるように諭す。

「…おかしい、確かに強い雨は降っていたが決壊はありえない」

「んなことはいい。逃げた後で考えろ。捕虜の拘束を解く、手伝え」

手早く手足の拘束を解いていく。
捕虜は仲間に感謝のお辞儀をし、その場から逃げ出す。

部隊長は兵士たちを誘導し皆が撤退してから逃げる旨を伝えている。

遠くに見えていた水流は瞬く間に近づく。


「…とても逃げられない…」

「ちっ、こりゃ…」

二人は周囲にある柱に身体を固定した。

「生きてまた会おうぜ…」

その瞬間ザバッーと水流が押し寄せた。
すごい力で流されそうになるが、柱がしっかりしており、耐えられそうだ。

呼吸のタイミングさえしっかりしていればやり過ごせる。

二人は安堵した。
だが次の瞬間、流れてきた木材が仲間の頭に直撃した。

「むむっ」

必死に呼びかけるが、首の骨が折れ、即死のようだ。


しばらくして流れが落ち着いてくる。
必死に耐えた。水に浸かっているため冷えと泥の汚れやらであちこちの具合が悪い。

「そういえば薬があったはず」

処方された薬を汚れないように取り出し飲み込む。
いくぶん楽になった気がする。

「…これはひどい…」

薬で回復し状況を確認する。

「一帯がまるごと流されたようだ。ひとまず生存者を探そう」

こうなると白黒だの関係ない。
とにかく救える命を探そう。
地獄のような光景が広がっている。
雨は止み日が射してきた。

「あれはっ」

遠方で小競り合いのような光景が確認できる。黒い兵士が白い兵士を殴っている。

「ちょっと、今はそんなことをしている場合じゃ…」

「黙れ、白は敵だ。貴様は…どっちだ」

スルは泥まみれで色の識別が困難であった。

「どっちでもいいだろそんなこと」

殴られた兵士に薬を飲ます。

その行為に激怒した黒い兵士はスルを攻撃した。
だがスルは攻撃にカウンターで合わせて撃退。

「少し休んで下さい」

ドサっと倒れた兵士のポケットから子供の写真が確認できた。

「…みんなそれぞれ抱えているものがあるんだね。争いなどすぐ止めるべきかもね」

スルは敵味方全てを洗い流したこの地獄絵図な光景に争いの無意味を悟った。

しばらくして救援部隊が到着した。

「敵国は民間人の部隊だったのだろうか。もしくは捨て駒だったか…」

自国の救援部隊はわりと早く到着したことで様々なことが思い浮かぶが憶測にすぎない。

「…考えるのはやめて休もう」

スルは救援部隊に身を預けた。



この地の戦いは丘の戦いと呼ばれ、白黒共に三百近い兵士が衝突した。戦闘による死者は指折り程度だったが、貯水池が決壊したことで双方壊滅的な被害となった。
三百の兵はほぼ全滅。
両方の部隊長もこの世を去った。

スルの指摘した、あの程度の雨では決壊はしないとする説。

後日、調査隊が派遣され堤防から爆発物による破損が確認され、決壊は人によって興された人災と判明した。



白い国はお城を一周するように各施設があり、東西南北のエリア分けがされている。拓けた土地にあり、南大門からしか入国できない。南エリアは市場などで賑わい。入国管理施設など外部を監視する役目がある。西エリアは居住区となり東は図書館や研究所など学問が整備され、お城の後ろ、北エリアは軍の管理地である。
豊富な資源に様々な物資が入ってくるので、とても活気がある。
住民は皆、温厚でとても争いをしている国とは思えない。


「記憶に残る初陣だったな」

スルは丘の戦いの生存者であり、上層部から事情聴取を受けていた。

「誰かが意図的に貯水池を決壊させたとか」

「はい、激しい雨でしたが、安定した地盤で頑丈なつくりでしたので、誰かが破壊したのかと…」

「調査により、爆破した後が発見された」

「なっ…では…やはり…」

「うむ、あそこは黒い国の管理地だ。敗走を悟った将校が皆を道連れにするため水を放ったと考えるのが妥当」

上層部は数少ない生存者であるスルが事情を知っているのではと、召集したがスルは何も知らなかった。

「あの…」

「ん? 何か」

「他の生存者にも聴取をしたのでしょうか」

スルは自分を含め最低三人の生存を確認している。もめ事になっていた黒い兵士と白い兵士だ。

「小競り合いになっていた黒い兵士はあの貯水池には管理者がいたとして、その者は争いとは関係なくあの日も現場にいたと供述している。証拠はないがね」

「…」

「暴行を受けていた兵士はショックで会話が困難な状況です」

「…すごい勢いで殴っていた…」

「あとは救助部隊が敵国の騎士を発見したはずだが…」

「騎士?」

「あれはおそらく助からない。全身の骨格へのダメージが酷すぎてもはや廃人です。ちょうどあなたくらいの年齢かと思いますが…。この戦いの悲惨さを一身に背負ったようでみていてつらいです」

冷静で常に個人的な感情を表面に出さない上層部がいつになく感傷的だ。

「お会いすることは…可能ですか」




スルは医療スタッフに連れられて個別病室へ案内されていた。

「ここです。体調の異変があったらすぐブザーをお願いします」

「わかりました。ありがとうございます」


部屋には車椅子にのった女性がいた。


凛々しい表情の奥には深い哀しみがあるようだ。弱々しくも、どこかうちに秘めた強さを感じる。


それがスルにとって運命の出会いであった。
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