ダークライトラブストーリー

雪矢酢

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【本編】外出

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朝から外出する二人。
今日は病院だ。

「昨日はぼーとして一日が終わっちゃったね」

「そうね、本当、久しぶりに休日だったわ」

「コトさんや皆さんがいてくれてよかったと思うわ。これからも一緒にいてくれるかしら」

アイは役目という縛りが無くなってしまったらみんないなくなってしまうと思い不安なのだ。

「すごくイイ人だから一緒にいたいよね。まぁまだここに住んで三日目だし、先のことよりもさ、今は病院での治療に専念しようよ」

「あ、ごまかしたわね、もう」

ポンポンとスルを叩くアイ。
諭して病院へ向かおうとしたがアイは冷静だった。

「ご、ごめん。じゃあ病院が済んだらお茶でもしませんか」

「ケーキもつけてくれるならいくわ」

「…うぅ、なんか交渉が上手だね」

アイのペースにのせられたスル。
ケーキの鼻歌ですっかり上機嫌なアイ。


南エリアを横断する二人だが、朝から賑わっている様子にウキウキワクワクするアイ。

「すごいわ朝市かしらね」

「戦争なんかやめて商業がもっと賑わえばいいのにね。そしたらまた農家やるかな」


「え、農家?」

「うん、もともと農民だもの」

「畑とかやってたの?」

「うん、農作物全般ね」

「すごいわスル。あの館でもやるべきよ。規模は小さくてぜひやるべきだわ」

いきなり熱烈に語り出す様子に驚くスル。
だが、畑は少し気にはなっていたのは事実。

「わかったよ、帰宅したらコトさんたちにも相談してみよう」


病院も混雑していた。
各スタッフは対応に追われている。受け付けを済ませてリハビリ施設へ向かう。

「やけに人が多いわね」

「朝は混雑するみたいだね。時間ずらせばよかったかな」

すると正面から顔見知りのスタッフが手を振っている。

「おはよう、二人とも元気そうね」

「おはようございます」

「おはようございます。初日はバタバタしましたがだいぶ落ち着いてきました」

「それは良かったわ。じゃあ早速始めようかしら」

「じゃあ後でね」

そう言うと手を振りスルは施設を後にした。


リハビリを始めるアイ。
よし、いくわよ。
そう意気込み車椅子から立ち上がる。

「うん、歩ける」

違和感なく歩行するアイの姿に周囲は驚いた。医療スタッフの指導とそれを継続するアイの持続性が早期の回復につながっているようだ。

「この調子だと来週には車椅子は卒業だね」

「頑張るわ」

キリリとした表情で気を引き締めるアイ。
しっかりと歩いているようだが油断するとまだ転倒してしまうようだ。



アイがリハビリをしている時にスルは兵士の総合案内所を訪問していた。休暇の申請を延長するためである。

「お疲れさまです。IDとご用件をどうぞ」

「はい、休暇申請についてです」

「承知しました。奥にあるA部屋の前でお待ち下さい。準備でき次第お呼びします」

「ありがとうございます」


椅子に座り一息つく。
なんか…短期間でいろいろあったな…。

兵士になって武器を取り初めて人を切った。

戦場はやるかやられるか、というのがよくわかった。
もっと平和的に解決できないのか。
領地は半分に分ければよいのではないか。
争うのではなくスポーツなどでお互いを認め、鍛え合えばよいのではないだろうか。
きれいごとかもしれないが、戦い続けるにのには抵抗がある。

考え込んでいるスルに、担当者が声をかける。

「スルさん、大丈夫ですか?」

「えっ」

はっと我に変えるスル。

「すみません、考え事を…」

「いろいろ大変ですものね、スルさん、あなたは軍では有名人ですよ」

「えっ」

「あの戦いはいわば天の罰と考えられ、争うのはやめようという風潮さえあります」

「…」

「まあ一部ですが。それに過激派はあの騎士の身柄を要求したり、スルさんは敵のスパイだ、とかいう始末です」

「スパイって…」

「はい、これを来週までに提出して下さいね」

休暇の申請用紙を渡されたが少し複雑な気持ちだ。

命をかけて戦い、生死をさまよい、たまたま運が良く生還しただけなのにスパイ…。お互いもう争うのはやめよう、これは十分理解できる。スパイってのはあんまりだよね。

 「ありがとうございました」

「…はい、気をつけてお帰りを」


気が抜けた炭酸みたいだ。
とぼとぼと病院へアイを迎えに行くが足が重い。
ため息ばかりだ。

「…はぁ」

病院は相変わらず混雑していた。
午前中の受け付けは終了しているのだが、手続きなどで待機中の方々が多い。
人混みを避けて迂回ルートを歩いていると車椅子の年配者に遭遇した。

通路が狭く一旦止まり通過するのを待った。
スタッフがお辞儀して通した時、

「あんた軍人だね。早く戦いが終わるといいな」

優しい表情で争いの終結を願う気持ちが伝わる。スルはその一言に何かを感じた。


「あ、来てくれたのね」

「お疲れさまです。もうリハビリは終わって休憩していたところです」

「ごめん、少し遅かったかな」

和んでいるアイとスタッフはとても穏やかで、スルはモヤモヤがスッキリした。

「幸せだ」

「えっ、何?急にどうしたの」

思わず漏れた一言にびっくりするアイ。

「ご馳走するから食べてお家へ帰ろう」

「うん、ケーキ」
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