ダークライトラブストーリー

雪矢酢

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【本編】襲撃

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「ここは穏便にいこうよ」

スルは交渉術の心得が恐ろしく無かった。
相手の良心に訴えることしかできず、
この状況では全く効果はなかった。

「こいつ、ふざけてるのか」

「ただのバカだ、いやお人好しか…」

傭兵集団の野次はなくなり、こいつは大丈夫か、天然なのか等スルの行動が理解できなかった。

コトにはその温厚な性格が十分伝わっていた。
ある傭兵の人が剣を構えスルを脅した。

「おい、グダグダ言ってねえで騎士を出せ」

「…やめておけ…ここで争っても意味がない」

「意味とか関係ない。騎士を連れ帰れば金が入る、そんだけだ。人助けだろが」

なんとも身勝手な理由だがスルは言う。

「アイはここで暮らすようにと、軍の許可は得ているんだ。頼むから帰ってくれ。怪我をさせたくないんだ」

「はっ?おめえこの人数相手に何ができるよ。こうして剣を突きつけられて…断れば刺すぞ、おら」

おらおらと脅す様は、もはや傭兵というよりチンピラである。それでもスルは彼の良心に訴える。

「いい加減にしろ、ボス、こいつやっちゃっていいすか」

「うむ。ただ殺すなよ」

首領らしき人物に許可をとり、にんまりと笑う一人の傭兵。

「切り刻んでやんよ」

傭兵は剣をスルに振り下ろす。


その瞬間…。


素早い動きでほぼ全ての人を一瞬で気絶させるコト。
振り下ろした剣の持ち手を掴み、強引にひねり骨を砕くスル。

傭兵集団は一瞬で全滅した。
死者こそいないが重傷者多数。
二人の戦闘能力は相当高く返り討ちにあった傭兵たちだった。

比較的軽症の首領らしき人物に歩みよる二人。

普段温厚なニ人だが、今は軽い興奮状態らしく目つきが鋭い。首領は近づいてくる二人に恐怖し震えている。

「…ひぃぃ…くるな…」

おぞましい化け物でもみるかのような表情と、腰が砕けたのか立ち上がれない。

「忠告を聞かないからこうなったんだよ」

すぅっとスルの殺気は消えた。
普段の温厚なスルだ。
コトも戦闘モードを解除したらしく殺気は消えていた。

「この館には二度と立ち入るな」

「…は…はぃ」

コトはそういうとスルにアイの様子をみようと提案し、医務室へ向かう。

「ありがとう、コトさん。本当はあんなことはしたくなかったんだ。話し合いで解決したかった」

「いえ、気に病むことはないです。スル様の言う通り忠告を聞かない奴らが悪い、自業自得です」

淡々と流すコトだが、それがスルの良いところだと心の中で思っていた。

医務室へ着くと傭兵の手当てなどで医師が多忙で当直医がアイをみていた。

「お二人ともお疲れ様です」

「先生、アイはどうでしょうか」

「はい、結論から言うと精神が不安定で危険です」

「えっ」

スルとコトは口をそろえるほど驚いた。
治療は順調だった。
精神はスルが尽力しているおかげで安定していると思っていた。

「彼女は今、精神世界をさまよっています。記憶が少しずつよみがえり、過去と対峙しているのかもしれません」

「ふむ…して私たちにできることはなんでしょうか」

コトが医師に問う。

「アイさんが精神世界から自力で脱出してもらうしかないです」

「…」


暗く重たい空気の医務室。
アイはこの先どうなるのか。


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