ダークライトラブストーリー

雪矢酢

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【男性】想いよとどけ

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精神世界をさまよっている者を救う。

これは何から手をつけてよいのかわからない。アイは過去と向き合って苦しんでいるのだろうか。寝顔こそ無表情で苦悩しているのかはわからない。

そうだ、アイが言っていたようにわからないことが多すぎるのだ。

己のことは自分自身で決着をつけなくてはならないのだろうが…手助けをしたい。力になってあげたい、それがスルの想いだ。


アイの手を握る。
とても冷たい…必死に出口を見つけようと頑張っているのだろうか。

「そもそもアイはどうして騎士になったのだろうか。敵国の生活はどんな感じなのだろうか」

「私はもともと向こうの人間でした」

バンがスルに話しかけた。
それを聞いて驚くスル。

「バンさんもアイと一緒なの?」

「はい、向こうは子供の頃から徹底的に管理されます」

「管理って…」

「強者が支配する、それが向こうは正義なのです。私の推測ではアイ様はかなり身分が高くおそらく一軍の将です」

「一軍の将…」

スルはバンの言うアイの身分にも驚いたが、それ以上に敵国の実態にショックを受けた。

小さな頃から管理って…
子供は子供らしく生活した方がよいのではないだろうか。
遊びたい年頃を封印するような事は間違っているような気がするのだが…。


「正直申しますと、最初、アイ様が怖かったです。騎士は向こうでは恐怖でしかないのです。私は最初捕虜としてこちらで生活し、やがて市民権を得ました」

バンは身の内を話しはじめた。

「バンさんもアイも一緒なのかな」

「いえ、騎士は捕虜になるくらいならと自決をするそうです。名家ともなれば存在それだけで価値があり交渉に使われます。誘拐されたり従うまで拷問されたりと、敗軍の将は悲惨ですが、戦闘能力が異常なのでまず負けません」

バンは敵国の騎士について説明している。
話しを聞いて感じたのはまるで人というより物のようだということだ。存在するだけで価値があるとか、交渉に使われるとか、もはや人間とはいえない。


そう思うと余計にアイが愛おしくなる。
手を握り優しく語りかける。
「運命なんか信じていなかったけど、アイに会えたのは何かの運命かもしれないね…自分勝手な事言ってるよね…都合のよい事言ってるよね」

コトとバンは医務室を後にした。
当直医もその場を離れて二人だけとなった。


「アイ、帰ってきて」


それがスルの正直な気持ちだ。

少し表情が穏やかになったようにみえる。スルの想いが伝わったのか、アイは無表情から穏やかな表情に変わった。
握った手を握り返してきた。
ぬくもりを感じるスル。


その時、コトが戻ってきた。

「大変です、敵が攻めてきました」
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