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第一章
十二話 魔力の解放
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アレサとレフトは川を歩いている。
「だいぶ歩いてきたけど…」
「ええ、そうね…」
上流に進むにつれ足場が悪く、怪我をしないように注意しながら歩くため、やたらと疲れる。
「あら」
アレサはようやく小屋を見つけたようだ。
「入りましょう」
小屋の中には小さな祭壇があり、きちんと手入れがされている。
「何かを祀っているようだが…」
と、考え込むレフトのもとにレオとミーナが現れる。
「レフトさん、元気になられて良かった」
「その節はありがとうございました」
「さてみんな揃ったようなので…」
そう言うとレオは後退した。
「みんな小屋から出て少し離れて下さい」
レオの指示通り外に出る三人。
中ではぶつぶつと念仏ように呪文を唱え魔力を集中させている。
すると小屋の裏手から大蛇ゾルムが現れた。
レフトはすぐ身構えるが、アレサがそれを止める。
「レフト、大丈夫よ」
「……」
「ふむ、いつぞやの者たちか」
「本日は妻ミーナの病を治すため、わずかばかりかの血を…何卒…」
「え、血? ってことは…幻獣か」
「うん、ホープがここに行けって言ったのはあなたをゾルム殿に会わせるためだったのよ。ミーナの件が片付いたら次は私達よ」
「なるほど…」
ゾルムはミーナに視線をむける。
「その娘、みたところ奇病で命はわずかにみえる」
ミーナはひれ伏し、声を震わせながら話した。
「はい…私は生まれつき身体が弱くて…」
「ふむ、だが血に耐えうる精神が、果たしてそなたにあるかな」
ゾルムは自傷し血を流す。レオはそれを小瓶に入れた。
血はサラサラしており、まるで砂のようだ。レオから小瓶を受け取ったミーナは覚悟を決める。
「ゾルム様、感謝致します」
そういうと小瓶の中身を飲み干した。
一瞬動きが止まり、ゾルムにお辞儀をするとミーナはそのまま倒れた。
「ふっ」
それをみて吹き出すアレサ。
「ちょっとアレサさん?」
レオはイラついた形相でアレサを睨む。
「レオさん、ミーナさんは大丈夫です。大蛇の血を飲むとみんな一瞬止まってしまうんです。邪な念がないか、また精神が貧弱だと意識が破壊されて白骨化してしまいます」
「なら…ミーナは…」
「ええ、倒れたので大丈夫。そのうち起き上がりますよ」
「ああ…ミーナ……良かった…本当に…」
ミーナに寄り添い泣き崩れるレオ。
そこへ駆け寄るアレサ。
「あの大きな岩のところへ避難して。そして危なくなったら全魔力でミーナを守りなさい」
真剣な眼差しでレオに伝えるアレサ。
「は…はい…わかりました」
ニコと笑いレフトの元へ。
「ふむ、まだ何かあるのか」
「ええ、ゾルム殿にしか頼めないことがございます」
「ほぅほぅ、その者の魔力解放…であるか」
「ええ、ちょっと集落周辺ではできないので、ゾルム殿のお力を」
「よかろう」
するとゾルムは周囲を特殊なシールドで囲んだ。これこそ幻獣が最強といわれているファントムゾーンフィールドという戦術だ。
もともと幻獣は温厚で自分たちの領域でのんびりと生活している。しかし縄張りを犯す者には問答無用で反撃をする。
その時に使うのがこのFZFなのである。自分たちの能力が最大限となる特殊空間での戦いに勝利する者はまずいないだろう。
「さあ、好きなだけ魔力を解放するがよい。ここなら集落への被害はない」
「感謝致します。さあレフト」
「なるほどね。フルパワーとまではいかないがちょっと気合い入れていくかな」
するとレフトの目つきが変わった。
アレサやゾルムはレフトから強烈な圧を感じた。
「さーて、うがぁーーーっ」
レフト周囲の地面はめり込み、蒼いオーラと紅いオーラが入り交じり凄まじい魔力の渦となっている。
「ああ…レ…フトさんも?…」
「…なんだか……綺麗…」
目覚めたミーナはその魔力にみとれている。紅いオーラと蒼いオーラが混ざり、一部が紫のオーラとなっている。その神々しくも邪悪な魔力は誰もがみたことがない。
「…以前とは違うわ…レフト」
アレサは立っていられず座り込んでいる。
「これは…これはみたことがない…」
シールドは今にも壊れそうだが、レフトはまだ余力がありそうである。
「があぁぁーーー」
さらに魔力を放出するレフト。
だが、それを止めるアレサとゾルム。
魂が抜けるように魔力は飛散しレフトは倒れ込んだ。
「…これほどとは…レフト…」
「断言しよう。こやつが暴走すれば世界は終わる…ぞ」
「…」
フィールドは解除された。
「レフトは強いが人間は一人では生けてはゆけぬ。お主とは違う」
「…それは…心得ています」
「ふむ、なら多くは言わぬ。支えとなるか…共に生きるか……いずれにしろ世界の命運はお主に託された」
次回へ続く
「だいぶ歩いてきたけど…」
「ええ、そうね…」
上流に進むにつれ足場が悪く、怪我をしないように注意しながら歩くため、やたらと疲れる。
「あら」
アレサはようやく小屋を見つけたようだ。
「入りましょう」
小屋の中には小さな祭壇があり、きちんと手入れがされている。
「何かを祀っているようだが…」
と、考え込むレフトのもとにレオとミーナが現れる。
「レフトさん、元気になられて良かった」
「その節はありがとうございました」
「さてみんな揃ったようなので…」
そう言うとレオは後退した。
「みんな小屋から出て少し離れて下さい」
レオの指示通り外に出る三人。
中ではぶつぶつと念仏ように呪文を唱え魔力を集中させている。
すると小屋の裏手から大蛇ゾルムが現れた。
レフトはすぐ身構えるが、アレサがそれを止める。
「レフト、大丈夫よ」
「……」
「ふむ、いつぞやの者たちか」
「本日は妻ミーナの病を治すため、わずかばかりかの血を…何卒…」
「え、血? ってことは…幻獣か」
「うん、ホープがここに行けって言ったのはあなたをゾルム殿に会わせるためだったのよ。ミーナの件が片付いたら次は私達よ」
「なるほど…」
ゾルムはミーナに視線をむける。
「その娘、みたところ奇病で命はわずかにみえる」
ミーナはひれ伏し、声を震わせながら話した。
「はい…私は生まれつき身体が弱くて…」
「ふむ、だが血に耐えうる精神が、果たしてそなたにあるかな」
ゾルムは自傷し血を流す。レオはそれを小瓶に入れた。
血はサラサラしており、まるで砂のようだ。レオから小瓶を受け取ったミーナは覚悟を決める。
「ゾルム様、感謝致します」
そういうと小瓶の中身を飲み干した。
一瞬動きが止まり、ゾルムにお辞儀をするとミーナはそのまま倒れた。
「ふっ」
それをみて吹き出すアレサ。
「ちょっとアレサさん?」
レオはイラついた形相でアレサを睨む。
「レオさん、ミーナさんは大丈夫です。大蛇の血を飲むとみんな一瞬止まってしまうんです。邪な念がないか、また精神が貧弱だと意識が破壊されて白骨化してしまいます」
「なら…ミーナは…」
「ええ、倒れたので大丈夫。そのうち起き上がりますよ」
「ああ…ミーナ……良かった…本当に…」
ミーナに寄り添い泣き崩れるレオ。
そこへ駆け寄るアレサ。
「あの大きな岩のところへ避難して。そして危なくなったら全魔力でミーナを守りなさい」
真剣な眼差しでレオに伝えるアレサ。
「は…はい…わかりました」
ニコと笑いレフトの元へ。
「ふむ、まだ何かあるのか」
「ええ、ゾルム殿にしか頼めないことがございます」
「ほぅほぅ、その者の魔力解放…であるか」
「ええ、ちょっと集落周辺ではできないので、ゾルム殿のお力を」
「よかろう」
するとゾルムは周囲を特殊なシールドで囲んだ。これこそ幻獣が最強といわれているファントムゾーンフィールドという戦術だ。
もともと幻獣は温厚で自分たちの領域でのんびりと生活している。しかし縄張りを犯す者には問答無用で反撃をする。
その時に使うのがこのFZFなのである。自分たちの能力が最大限となる特殊空間での戦いに勝利する者はまずいないだろう。
「さあ、好きなだけ魔力を解放するがよい。ここなら集落への被害はない」
「感謝致します。さあレフト」
「なるほどね。フルパワーとまではいかないがちょっと気合い入れていくかな」
するとレフトの目つきが変わった。
アレサやゾルムはレフトから強烈な圧を感じた。
「さーて、うがぁーーーっ」
レフト周囲の地面はめり込み、蒼いオーラと紅いオーラが入り交じり凄まじい魔力の渦となっている。
「ああ…レ…フトさんも?…」
「…なんだか……綺麗…」
目覚めたミーナはその魔力にみとれている。紅いオーラと蒼いオーラが混ざり、一部が紫のオーラとなっている。その神々しくも邪悪な魔力は誰もがみたことがない。
「…以前とは違うわ…レフト」
アレサは立っていられず座り込んでいる。
「これは…これはみたことがない…」
シールドは今にも壊れそうだが、レフトはまだ余力がありそうである。
「があぁぁーーー」
さらに魔力を放出するレフト。
だが、それを止めるアレサとゾルム。
魂が抜けるように魔力は飛散しレフトは倒れ込んだ。
「…これほどとは…レフト…」
「断言しよう。こやつが暴走すれば世界は終わる…ぞ」
「…」
フィールドは解除された。
「レフトは強いが人間は一人では生けてはゆけぬ。お主とは違う」
「…それは…心得ています」
「ふむ、なら多くは言わぬ。支えとなるか…共に生きるか……いずれにしろ世界の命運はお主に託された」
次回へ続く
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