ファンタジー/ストーリー2

雪矢酢

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第一章

十六話 優勝者の闘い

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「アレサさーん」

「あらミーナ」

会場は昨日以上に混雑している。
座席のキープは原則禁止のため、一度座るとそこから動けない。座る者は限られており、みんな立って歓声をあげるが、アレサたちは座って見るタイプであり、直ぐ様席の確保へ向かう。

「すごい人気ですね」

「ふう、そうね。席が見つかって良かった」

「もう、アレサさん急に走り出すからびっくりしましたよ」

「ごめん」

「でもそのおかげで座れたのですから。アレサさんの判断のおかげですよ。ほらもう満席ですよ」


そんなこんなで仲良く会話する二人。
気まずい雰囲気だった昨日の帰りが嘘のようだ。


一方出場する者達は…。



「緊張しますね」

「そう?」

「ははっ…レフトさんとは場数が違うみたいっすね」

レオとレフトは和やかな会話だが、他の参加者はそうもいかない。
三名は無言だが、やってやると言わんばかりの殺気を放っていた。
当然ならがレフトはそれを感じていた。


「それでは皆さん舞台へどうぞ」

案内が参加者をリードする。
いよいよ始まるのだ。



軽快なアナウンスの後に舞台へ上がる五名。


「エルオーネ」

「ベルド」

「レオ」

「セーラム」

「レフトーラ」


やはりというか、レフトの名が出た瞬間、観客は沈黙した。
だが、すぐに盛りがり熱気が舞台まで伝わるようだ。


「他の三人はどうした」的なコールが起こる。
すかさず案内が入り、人数が減ったことで見易いだの観客はますますヒートアップしていく。


「歓声がすごいすね」

「そうね」


レフトは持参した二本の刃のうち、まずは日本刀を構えた。

「レオさん、離れたほうがいい」

「…」

「おそらくエルオーネという女性剣士が最初仕掛けてくる」

「わかりました。ではここからはお互い全力でいきましょう」

それにうなずくレフト。
その姿に恐怖したレオはすぐに距離をとった。
緊張感がピークに達した瞬間、開始の合図が響く。


「レフトーラ覚悟」


叫び声とともに特攻するエルオーネ。
抜刀術がレフトを襲う。レフトはそれをひらりと躱し、抜刀で踏み込んだ足に一撃。一瞬の出来事にエルオーネは状況を理解できず足に痛みを感じ片膝をついてしまう

「…くっ…」

動きが止まった一瞬の出来事である。
鞘に入ったままの刀は流れるようにエルオーネの背中を殴打。

「がはぁっ」

エルオーネは両膝をつき、激しく吐血する。衝撃の際に放してしまった剣をレフトは即破壊。
これでエルオーネは戦闘不能である。

「勝負ありだね。さあ手を貸すから場外へいこうか」

そう言い手を差しのべるレフト。
エルオーネは敗北を認めニコリと笑い手を出す。

「私の負けです…」

だが、そこへベルドの強烈な蹴りがエルオーネに直撃する。
内臓が破壊されただろうその一撃は強烈でエルオーネは転がり場外へ落下した。

「敗者は退場せよ」

「…」

ベルドの非情な一撃に怒りをみせるレフト。

「急所は外した。だが急いだほうがいい。さあどうする、俺と闘うか、その女を助けるか」

「急いで治癒魔法を」

レフトは監視員に対応を依頼した。
だが監視員は魔法が使えない。
すぐに医療班が駆けつけるがエルオーネはさらに激しく吐血する。

「仕方ない」

レフトは自分が棄権して彼女を救う事を決断した。

「今、回復魔法を…」

舞台を降りようとするレフト。
だがレフトを振り払い自ら場外へ降りてエルオーネを治療する者がいた。

レオだ。

「レフトさん後は頼みます。っていうか俺しか彼女は救えないっすよ」

レオは武器を置き、回復魔法をエルオーネにかける。
落ち着いたエルオーネをゆっくりと寝かせて、そのうちに医療班が点滴やらの処置をした。


「医者だったのか…」


「ミーナ、レオは医者なのね…いうとあなたは患者…」

「はい。隠していてごめんなさい。集落はホープ先生に教えてもらいました。血のことやレフトさんとアレサさんに会って協力してもらえと……」


「ホープが一枚かんでたのね」

エルオーネはだいぶ安定した。
レオは舞台の上のレフトに言う。

「彼女は大丈夫です。さあ俺の分まで頑張って下さいよ」


「…」


アナウンスでレオとエルオーネの脱落が告げられた。

「ちっ甘い奴だ。娘一人にずいぶんな対応だなレフトーラ」

挑発するベルド。
だが余裕をみせたその一瞬にレフトはベルドの仮面に一撃を浴びせる。
不意の一撃はまさに痛打という言葉がふさわしい。

「がっ…」

奇声を発し顔面を確認するベルド。
さら追い打ちでもう一撃顔面を攻撃する。
鼻が潰れ痛みで倒れるが、今度は両足の骨を砕く。
絶叫するベルドに観客は熱狂する。

「続けるか棄権か決めるんだ」

「は、はい…」

ベルドは武器を捨て棄権した。
レフトの圧倒的な強さに会場はヒートアップ。

「あの黒ずくめ、レフトを煽ったのが致命傷だったわね」

「レフトさんって…剣術というか鈍器使いみたいだわ。長いものなら何でも使えそう。農具とか…」

農具という言葉に反応するアレサ。

「…農具で参戦は……有りだったのかしら」



レフトは舞台を見回した。

「残るは…」

メリケン…もとい、ナックルをつけたセーラムだ。

「レフトーラ、相手にとって不足なし…覚悟」

セーラムは闘気を解放する。
まるでアレサのようだ。

「なかなかやるようだけど…」

レフトは一気に距離をつめ、刀でセーラムの右肩を殴打する。動きに反応ができなかったため、鈍い音が響き、セーラムは絶叫し倒れた。
ナックルを奪い場外に投げ捨てあっさりと戦闘不能となった。
これにより優勝はレフトとなる。

最高潮に盛り上がる観客。


「レフト優勝よーーーっ」


アレサも最高潮のようだ。
レフトは舞台を降りてすぐにエルオーネの元へ。


「大丈夫?」

「…はい…優勝したのですね…」

意識が戻ったエルオーネ。

「心配ないっすよ。戦闘は難しいですが、日常生活に影響はないです」

「ゆっくり休んでね。すぐ連れが来るでしょう」

その時突然場内に緊急のアナウンスが入る。
前回優勝者のグランデルなる者と今年度優勝者レフトーラとのエキシビションマッチを開催するようだ。

「レフトさん、これ…怪しいですよ。辞退したほうがいいのでは…」

「…足りないんだろうね」

「えっ…足りない?」

「勝敗があっさり決したのが物足りないんだろうよ」

「…」

「やれやれ…」

仕方なく舞台に上がるレフト。
その姿に観客は熱狂しており、レフトの名を叫ぶコールとグランを叫ぶコールが会場に響く。

「…ベルドは弱った彼女をあえて狙ったんだと思う。たぶん正攻法ではレフトさんに勝てないと悟ったから…」

「……」

「グランデルという前回優勝者もおそらくあなたをチェックしていると思います。これは罠ですよ」

「大丈夫。チェックされているほうがむしろ好都合だよ」

レオにVサインするレフト。

「…」

この人に助言は必要ないと心底思うレオだった。

舞台にグランデルが登場するとグランを叫ぶ声援がより大きくなる。
レフトも舞台へ上がり両者は対峙した。


「あら…リハビリにはもってこいの相手じゃない。硬化する皮膚に要注意だわ。」

「えっ硬化に注意?」

「うん。だって武器が破壊されたら負けでしょう。硬化したところを迂闊に攻撃でもしたら…簡単に折れてしまうわよ」

「そうですね。確かに注意ですね」



「レフトーラ殿、私はこの試合、魔法の使用を認めてもよい。いかがか」

「これはご丁寧に。ですが闘技のルールは守りたい。お構い無く」

「ほう、自信があるようで…では」

お互いが納得したようで、監視員が開始を告げる。
開始と同時にグランは抜刀し奇妙な剣でレフトへ攻撃する。
レフトは避けず攻撃を刀受ける。

「なるほど…闘気を剣に宿したのね」

刀の鞘は砕け、日本刀は少し刃こぼれする。

グランはすらりとした体格で細い棒のような剣を持つ。さらに左手は盾のように硬化しており、見た目と異なりかなり戦闘に特化した人物のようだ。

「次の一撃でその刀は折れるぞ」

「…そのようだね」

両者武器を構え緊張感がある状況だ。
場内は静まり、異様な空気が会場をつつむ。
ジリジリと距離をつめるグラン。
レフトは構えたまま動かず集中しているようだ。


あの皮膚にはおそらく刃は通らないだろうね。
とはいえ硬いのは表面だけでしょう。
レフトは既にグランの弱点を見切っていた。

一瞬でいい。
一瞬だけ相手が止まれば勝利は確定する。

「いくぞ」

間合いをつめたグランがレフトを攻撃する。
斬撃を受けたら刀は確実に折れる。

そんな緊張感のありそうな闘いではあるがレフトは難なく攻撃を躱している。グランの剣術はエルオーネや再生会の魔法剣士以下のようで、優れた身体能力におごり、剣術の鍛練をしていないようだ。

「ちょこまかと」

無駄な動きが多くレフトにかき回されるとすぐに疲労した。
そこへ刀による鋭い斬撃がグランの硬化していない腕の裏をとらえた。

「ぐっ」

予期せぬ反撃に思わず剣を落とすグラン。
慌てて拾うが王手であった。
刃先を首につけられ手も足も出ない。

「…つ、強すぎる…」

あまりにも地味な決着で会場にはグランデルへのブーイングが響く。

「剣術を学ぶといいですよ」

そう言いレフトは場外へ行きレオとともにエルオーネを運んだ。

「…」

止まぬブーイング。
観客の前での敗北はグランの何かを破った。


「私に敗北はない、そう負けることはない」


暴走するグラン。
すぐに監視員や警備員が鎮圧にかかるが強大な力の前になす術がない。
身体は巨大になり目は血走る。
全身が硬化し、剣からは禍々しい闘気が発せられている。



緊急アナウンスが入り会場から避難指示が出される。
まさかの事態に逃げ惑う観客たち。


「敗北は許されないのだ」


観客席に気弾を放つグラン。
威力はほとんど無いため、観客席にいた大会参加者により被害は出ていない。


「危ないのでここから逃げて下さい」

アレサたちも指示を受け避難する。
案内係りなどが的確に配置されており、観客はパニック状態だが、避難は驚く程スムーズだ。


「アレサさん…」

「何?」

「あの…あの巨大化した人…」

「ああ、甲殻人ね」

「甲殻人…」

「おそらくだけど、この大会は人体実験のテスト場なのよ。見込みある強者を勧誘したり戦闘中の事故で亡くなった者を回収したりして強化人間をつくる」

「…」

「グランデルという実験体がまさかの暴走をしたからもうここはおしまいね。関係者は闇に消えるだろうし」

「そんな…」

「こういう悪事は復興機関かその地域の警察に任せるべきね」

「…でもあの甲殻人はどうするんですか」

「あれはそのうち倒れるわよ。肉体が限界を超えて、一気に腐敗するわ」

「そうなんですか。すごい暴れてますけど…」

「ならレフトが倒すんじゃないのかしら。それより賞金をもらいにいきましょう」

「…賞金……」

「あらミーナにも少しあげるわよ」

「……」



アレサに討伐を頼もうとしたミーナだったが、この人は今、賞金しか頭にないとわかり諦めた。



次回へ続く
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