ファンタジー/ストーリー2

雪矢酢

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第一章

十七話 乱戦を制す者

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「私に敗北は許されないのだ。敗北するなら…」

舞台を破壊し関係者や大会参加者を蹂躙して暴れるグランデル。
レオやレフトは負傷者の治療対応に追われている。

「レフトさん、あれはやばいっすね」

「……私が…私が時間を…稼ぎます」

エルオーネは起き上がりグランデルへ向かう。
だが彼女の剣はレフトが破壊してしまったために武器はない。
丸腰でも敵に向かうエルオーネ。

「…これを」

レフトはバザーで見つけた剣をエルオーネに渡す。

「ちょっレフトさん、怪我人に闘わせるんすか」

「彼女はうちらに負傷者を逃がしたり治療対応をする時間をつくるため、奴と闘うと言っているんだと…思う」

「…そういうことか…」

「…お願いする」

レフトは回復魔法をかける。
癒されたエルオーネは鋭い眼光となる。

「エル、無事かい…」

予選で会った男性がエルオーネに近づく。

「カイル…来てくれたのね」

人が集まる様子を見て不機嫌になるグランデル。

「こそこそ集まり悪口か。お前たちはまとめて始末してやる」

「巨大化暴走しても自我を保つとは…」

レオは冷静にグランデルを分析していた。そんな相手に、いくら治癒の魔法をかけたとはいえ怪我人が挑む。
グランデルはエルオーネに狙いを定めた。

「なるほど…予選で見せた神速の抜刀か…」

「…」

予期せぬ展開に運営の演出と勘違いした観客は席についた。激しいバトルを期待するが、歓声はなく沈黙し静寂である。その異様な空気が不気味な緊張感となり会場をつつむ。

「お前を倒し再び栄光を」

グランデルは巨大化した腕を力任せに叩きつけた。飛び散った小石がエルオーネに当たる。
額に直撃した石に一瞬怯む彼女。
流血しているが抜刀術の構えを維持している。

「レフトさん、エルオーネさんが…」

「大丈夫ですよ。見た目ほど傷はひどくないです」

カイルがレオを諭す。
彼女は深呼吸しグランデルを睨みつけた。
その視線を不快感に思ったグランデルは雄叫びをあげエルオーネに突撃する。
強烈な一撃が彼女に迫る。

「砕け散れっ」

絶体絶命のエルオーネだが、彼女は右足で踏み込んできたグランデルの足を強く踏んだ。
まさかの一撃に怯むグランデル。

「抜刀三連撃…」

両腕に上下の斬撃。
そして胴に横一文字。
神速の三連撃がグランデルに命中する。
両腕が落ち大きく怯み片膝をつくグランデル。

「ぐふ…」

勝負は決したようだ。

「エル、やったね」

舞台にあがりエルオーネを支えるカイル。
気が抜けてぐったりする彼女をしっかり支えて舞台から降りる。

「すぐに離れて下さい」

レフトは二人をこの場から去るように告げる。

「くっくっく」

不気味に笑いゆっくりと立ち上がるグランデル。

「…すごい再生能力だ…」

思わず呟くレオ。
再生した腕と胴への一撃は回復し再び戦闘態勢になる。

「逃がさんぞ」

グランデルは大きく飛び上がり二人の退路を妨害した。

「くっ…」

すぐに反応するレフトだが、グランデルのほうが一手早い。

「仲良く散るがいい」

右手をなぎ払う。
エルオーネは剣で防御するが、勢いのある攻撃に剣は砕け、二人は大ダメージを受けてしまう。

「脆い。脆すぎる」

レフトとレオ、残った医療班が二人を救出しようとするが、グランデルは衝撃波でそれを阻止する。

「これでは…」

全員が怯み後退したところでグランデルはとどめの一撃を二人に放つ。

「これでとどめだ」

だが、突如現れたベルドが攻撃を受け止めた。
一撃は重く、受けたベルドの地面は陥没し彼は衝撃で吐血する。

「あなたは…」

「な…」

二人はベルドに驚く。

「これで帳消しに…なるかな…」

そう言い放つと力尽き倒れるベルド。

「ご苦労様。それでは」

グランデルはベルドを投げ飛ばし二人を再度攻撃する。
しかし不意の一撃が顔面に命中して倒れるグランデル。

セーラムだ。

今度は彼の一撃がグランデルにクリーンヒットした。
直ぐ様レフトたちは負傷した三人を奥へ運ぶ。

「ここは任せろと言いたいが………時間は稼ぐ」

セーラムは不意打ちでダウンを奪ったが真っ向勝負では部が悪いと思っていた。

「不意打ちとは…キサマ許さんぞ」

巨大な身体だが動きは早く、一気にセーラムとの距離をつめて攻撃する。
時間稼ぎが目的であるため、防御に集中しているセーラムは攻撃を見事に防いでいる。

「ほう…守りの構えというわけか」

「この程度ならダメージは受けない」

一方的にグランデルが攻撃しているが、それを難なく防いでいるセーラム。互角の闘いにいきをのむ観客たち。


激しさを増す攻撃のグランデルか。
耐えてカウンターで粉砕するセーラムか。
共に決め手を欠けており勝敗はつかない。

「この武装では勝てないか」

そう言うとグランデルは巨大化を解除した。
元のスラリとした体格になり、両腕は小型の盾みたいなものがついている。その盾は鋭くなっておりまさしく攻防一体といった感じである。

「待たせたな。いくぞ」

「動きが…」

スピードが巨大化した時の倍以上となり、セーラムはグランデルの姿をとらえることができない。
目で追うことを諦め、相手の気配や殺気から攻撃を見切ろうとしたがダメージを受けてしまう。
急所を狙った一撃はかろうじて防いだセーラム。

「さすが強者」

「…おのれ…」

「だが次はどうかな」

再び消えるグランデル。
セーラムは防御を捨てた。
闘気を解放し身構える。

グランデルは怯むことなく彼の目を攻撃する。
しかし命中する瞬間に、脅威の反射神経でその腕を掴むセーラム。

「しまった」

「もう逃がさないぞ」

連続して強烈な打撃が決まる。
硬化していようが、闘気を解放したセーラムの一撃はそれを突き破ってダメージを与えている。
立っていることができず膝をつくが尚も攻撃は止まらない。

「ぐはぁ…」

休む暇を与えぬ怒涛のラッシュだ。
額にある小さな宝珠を砕いたことで再生能力が消滅する。
そんなことを知らず攻撃を続けるセーラム。
そしてまさにとどめと思われる攻撃をする瞬間、後方より剣が飛んできてセーラムに直撃する。


「…なん…だと…」


闘気は消え倒れるセーラム。
ナックルは連続攻撃により消耗しボロボロと崩れ落ちた。

「ぐふ…ボコすかやってくれたな」

剣を回収するグランデル。

「惜しかったがここまでだ」

グランデルの小型の盾は崩れ硬化能力も消滅した。
額を触り宝珠が砕けていることを知る。

「コアを破壊されるとはな……狙ったのか偶然か…ともかくこいつは危険だ」

「…くそぅ…もう少しだったのに」

「ああ、お前は私より強い」

「…」

「くっくっく心配するな。私は十分満たされた」

舞台を降りるグランデル。

「闘技大会は私の勝利により幕を閉じる。さらばだ」

場内は突然の事態に誰もが言葉を失った。演出だったのか、事故だったのかすらわからない。
謎を残したまま大会は終わった。




「傷ついてはいますがここは大丈夫です」

「よかった…」

「レフトさん、あのグランデルとかいうやつを…」

「わかった、いこう」

「舞台へ戻りましょう」

二人は急いで舞台へ戻った。




「さっさと支払いなさいよ」

「ちょ、アレサさんやめて下さいよ」

大会運営に詰め寄るアレサ。

「申し訳ないですが、ご本人様でないと…」

「私はレフトの妻よ」

「奥様でも…規則がございまして…」

「規則…」


それぞれ想うことはあるが、大会は閉会した。
舞台に戻り言葉を失ったレオとレフト。
満足したというが、本当は再生能力を失ったことで撤退するしかなかったグランデル。
賞金がもらえないアレサ。
健闘したセーラム。
そして…何とも言えぬ不完全燃焼の観客たち。



大会関係者は対応に追われている。



次回へ続く
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