ファンタジー/ストーリー2

雪矢酢

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第一章

十九話 誘う聖女

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レオが拉致された。


隠居し静養していた二人だったが、再生会という謎の組織が接触してきた。


「…ごめん…冷静にならないとね…しかし再生会がこんなところにまで…」

「お二人は再生会をご存知でしたか」

「ご存知というか…名は知っているけど…実態はわからないわ」

「四属性を操る魔法剣士がおり、世界を再生させるべく暗躍している」

ジジは手帳のようなものを取り出し読み上げた。

「住民が噂していたのをメモした情報です」

「ああ、確かに魔法剣士はいたわね」

「…うん」

「引き渡し場所は……」

アレサは手紙を確認する。

「…闘技大会の…会場…」


やはり…。


二人はこの大会は怪しいと思っていた。

「どのように対応されますか」

「事を荒立てたくないわ。私とレフトで出向き穏便に解決してくるわ」

「穏便って…」

「かしこまりました。お気をつけて」

ジジはアレサの決定に従った。
レフトは内心、穏便にいくわけがないと思った。

「アレサ、もし相手が武装していたり、要求に応じなかったら…」

「交渉は難しいと思うわ。それに再生会とレオの関係が気になるわ」

「…つまり…レオは再生会のメンバーの可能性があると…」

「レオかミーナか、それはわからない。ただレフト、あなたがここにいるという事実を再生会は知ったわ」

「それは…」

「私どもはお二人がどのような方でもここに住むことを認めますぞ」

「ちょっとジジ、その言い方は私たちが罪人みたいでしょう」

「これは失礼」

「いこうアレサ。事実がどうあれ、レオとミーナを信じたい」

アレサの肩に優しく手をおくレフト。

「わかったわ。いきましょう」



大会はよくわからないまま閉会した。関係者はイベント下請けの業者であり士気は低く、そこから主催者を聞き出し、運営組織を特定することはできなかった。

「再生会がどの程度の力があるかわからないから過信は禁物か…」

「レフト…」

「…魔法を使わずに済むだろうか」

「ふふっ」

「アレサ?」

「ずいぶんと弱気ね。オメガやニナが聞いたら驚くわね」

「…」

「大丈夫よレフト。あなたは私が守る。もし魔力が暴走しても止めてみせるわ」

「暴走…」

「戦いたくないのなら私が解決するわ。よくわからない団体なぞどうでもよいけど、あなたを苦しめるなら…滅ぼすわ」

「…でもアレサだってしばらく戦っていないから…」

「心配ないわ。戦えばすぐに感覚は戻る。それはあなたも同じだと思うわ」


不安なレフト。
アレサは心配ないと諭す。
そうこうしているうちに取引先に到着する。
人がいない会場は少し不気味で近寄りがたい雰囲気がする。


「…こそこそ隠れるのはうってつけね」

「うん。あそこに人がいる」


二人は既に到着している者のところへ行く。

「レフト…大丈夫よ」

再生会と思われる人物は二人。
すらりとした細身の男性と、大人しそうな美しい女性、聖女、女神といった言葉がふさわしい。

その横には拘束されたレオがいる。


「…」


「レフトーラさんですね、私は再生会のユニオン。そしてリバス様。リバス様は再生会を統括するお方です」
 

「…」


アレサは周囲を確認し、辺りを包囲されていることに気づく。

「再生会は魔法の可能性を信じ、あらゆる分野に魔法を使用する団体です」

リバスが話す。

「まず一部の部署が破壊、危険行為をし、ご迷惑をかけたことを謝罪します」

リバスたちは頭を下げた。

「レフトーラさんを襲撃した者たちや破壊活動などの過激な行動をとる輩は最近力をつけた武力派によるものです」

「武力派…ですか」

「はい、再生会はヘルゲートに本拠地があり、志があるものや有名になりたいものなどを雇い成長した企業なのです」

「ヘルゲートの方針そのものね。勢いがあり魔法を使える者を片っ端から雇い夢を見させる。そんな人を消耗品のように扱って企業とはよく言ったものね」

アレサがリバスの話にかぶせる。

「あなたはレフトーラさんの付き人ですか。おっしゃる通り規模が多くなり、テロ活動する者を放置してしまった責任は私にあります」

「再生会の思想やあなた方がなにをやろうが私はどうでもいいわ」

「くっ…無礼な」

アレサの挑発に反応するユニオン。
だがリバスはそんな反応をする彼を制止。

「ユニオンが失礼を。では単刀直入に伝えましょう。私はレフトーラさんが欲しいのです」

「帰れっ」

即答するアレサ。
急展開についていけないレフト、ユニオン、レオ。

「リバス様、そのようなお話は…」

「ユニオン、黙っていなさい」

ユニオンを退けレフトに迫るリバス。

「これ以上近づくと…」

レフトの前に出て徹底抗戦するアレサ。その様子は一触即発の緊張感がある。

「再生会も復興機関も目的は同じです。世界を復興、再生させることです。ただ機関は細かい規則があり、再生会にはそれがない。あなたは望むことの全てを行動にすることできる」

「帰れと言っている」

「復興機関との連携もあなたがいれば可能となります」

「…」

沈黙するレフト。

「リバス様、いかにこの者が優秀であろうが、多くのメンバーを納得させるのは難しいかと…」

「だからこそ私たちは一つとなるのです」

「な…」

突然の発言に周囲は凍りつく。
リバスはレフトと結婚し再生会を盛り立て、復興機関を取り込んだ巨大な団体を創設することが目的のようだ。

そう…全ては世界を復興再生させるため。

だが…。

「さあレフトーラさん、私の手をとって下さい。私の全てをあなたに捧げます」

リバスは手を伸ばしレフトに迫る。
アレサはすぐに反応するがレフトはそんな彼女を制止した。

「レフト…」

「リバスさん、私は今、機関の人間ではありません。すぐにレオを解放して下さい」

「レフトーラさん、私はそう言うあなたの全てを包んであげたい。機関に属していなかろうと関係ないのです。さあ手を、私の全てはあなたのものです」

「…くっ…」

必死に行動に出ないように我慢するアレサ。

「リバス様……すぐに…撤退を…」

レオがいきなり話す。

「ん、レオよ。撤退と?」

リバスは合図しユニオンがレオの拘束を解く。

「リバスさん、私はただの一般人です。レオさんを解放してお帰り下さい。あなたは多くの者を導いていけるでしょう」

レフトはアレサの手を握りゆっくりと後退する。
アレサはその行為に冷静を取り戻し状況を確認する。

「アレサ…レオを連れて退避しよう」

「それは危険。逃げたら集落が報復されてしまうわ。トップが出てきたのは好都合、ここで再生できぬよう叩いておくべきだわ」

「…ニナ…みたいな発言だね…」

「ふふ、あの子は本当に男運が無いのよね」

そんな二人の会話をみてリバスは言う。

「その女性と離れたくないのなら連れてくるといいわ。私はあなたの全てを肯定致します」

「くっ…言わせておけば…」


と、その時突然レオを解放するリバス。
身構えたレフトたちの前にレオを差し出す。
さらに周囲の伏兵に合図をした。


「な…」


「少し時間をと…突然の出来事でしたので。明後日、もう一度ここで同じ時間にお会いし答えをお聞かせ下さい」

押しと引きを把握しているリバス。
アレサは構えを解きレオを確認する。少々衰弱しているが命に別状はないようだ。


「リバス様、よろしいのですか」

「ユニオン、レフトーラさんに直接お会いして良かったわ。そしてますます彼がほしくなった」

「レフトーラより、あの女のほうが…危険かと…」

「あの女性も連れていくわ。その方が彼は安心しそうだし」

「はい、おぞましい殺気を感じました…人ではない…のかもしれないです」

「姉か機関が送ったガードかもしれないわ。苦楽を共にしている者を引き裂くのは気が引けるわ」


「慈悲深きリバス様」


リバスはレフトに視線を送り去った。


「……レフトさん…聖女リバスは…」

レオが苦しそうに話す。

「帰ってから話そう」

そう言いレオを運ぶ。


「リバスは…悪魔です…」


二人はお互いに顔を見る。


次回へ続く




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