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第ニ章
五話 全力を受け止める全力
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「…という訳です…」
「…」
レフトたちは診療所に戻った。
アレサを休ませ一通りの説明が終わったところだ。
「アレサが出ていった時、姉さんの気配は確かに感じたわ。だけどあえて話さなかったの」
「…それをルナは指摘していました」
ため息をつくホープ。
「話したらあなたたち二人は躊躇すると思ったのよ。戦ってわかったと思うけど悪魔は手強いわ」
「…はい、それはわかりました。以前悪魔のタイプについては聞いていましたが…。実際に戦ってみると精神攻撃というか…洗脳されてしまうというか…腕輪があって助かりました」
「戦闘力が高いアレサのような悪魔は少ないわ。姉さんのような知略タイプが悪魔本来の種なのよ」
「よくわかりました。悪魔の動向には注意するよう機関に伝えます」
「レフト様、キバと周辺を調べてきます。と同時に復興機関へ悪魔の脅威を報告しておきます」
ホープは輸送車が定期的に機関を通過する旨を伝え、ついでに手紙を届けてもらうことを提案した。
「さて…あの幻獣は賢くて気が利くわね」
「ホープ先生、アレサのことで…」
レフトはロードの言っていたアレサがスパイについてホープに尋ねた。
「…ロードの言ってたことね」
「はい、アレサはスパイだと…」
「…アレサは…複雑なの」
「…複雑…?」
顔を下に向けるホープ。
重苦しい雰囲気だが、レフトは聞かなくてはならない。
「話して下さい…」
「…わかったわ」
飲み物を手に取りホープは話す。
「婚約者がいたのよ。そしてアレサの一生は決まっていた」
「カイト国の技師…でしたね」
「そう…あなたには話していたのね。どう聞いたかわからないけど…アレサはそこで本当に人を好きになってしまったの」
「…聞いた話と…違いますが?」
「…カイトの上流貴族…ウィル」
「…えっ…」
「ウィルにアレサは影響を受けたの」
飲み物を口にするホープ。
「カイトは警察など防衛手段を持たない国家で、私たちはよく周辺のモンスター退治をしていたわ。アレサをリーダーとしてオメガ、回復後方支援の私、そして人のウィル」
「ウィル…」
「明るく賢くて、完璧…それがあいつの二つ名だったわ」
「…完璧って…失礼だけど胡散臭いね…」
「アレサもそれはわかっていたわ。だからウィルを利用する命を受けた」
「軍事技術とウィルの身分…その双方を支配しようとした……」
「だけどね、あなたもわかると思うけど、アレサは真っ直ぐすぎるのよ。そもそも彼女にはスパイなど無理があったのよ」
大声を出しテーブルを叩くホープ。
驚くレフト。
「ウィルの狙いは…オメガのキューブだった。そうとは知らずアレサはウィルに献身的に尽くした。やがてそれは婚約に影響したわ。ロードやオメガはウィルの裏の顔を見抜いていた。だがアレサはウィルをかばった……」
「…」
「そのウィルにアレサは裏切られて精神が不安定となったわ。婚約を破棄し……暴走状態にてカイトを攻撃した。その重罪と婚約破棄により左遷となったのよ。それを執行したのが姉さんとドルガ」
「ドルガ?」
「…人類最大の敵ね。オメガや私は奴が嫌いで、よく衝突していたわ」
「…辺境の地で苦労したと…」
「…そうらしいわね…」
誰かを信じて恋したが…裏切られて…。
それは人間とか悪魔とか関係ないと改めて思うレフト。
その時、ガタンと音がして誰かが外へ出ていった。
「アレサ……目覚めていたのね…」
「アレサ…」
ホープは薬をレフトに渡す。
「これは?」
「記憶を消去する薬よ」
「…」
「決断は任せる…あなたは彼女の夫なのだから…」
…。
キバたちが戻ってくる。
「レフト様、奥様が飛び出していきましたが…」
「うん…」
レフトは剣を取り、アレサを追う。
「ヴァン、集落外で待機していてくれ。なるべくここから離れるが…ヤバい場合は防壁魔法で対応を…」
「はっ、承知しました」
「集落にいる魔法使いは全部召集して待機させるわ。全力で当たらないとアレサは……戻ってこない…ごめんなさい…私にはその力はないわ…あなたしか…」
膝をつき懇願するホープ。
ヴァンは彼女を起こし介抱する。
「連れ戻しますよ」
レフトは笑顔でホープを見る。
そして…。
アレサは歪なオーラを放ち、顔から出血している。
「はぁ…はぁ……私は…私は…」
そこへレフトが現れる。
「やあアレサ」
「…」
レフトはいきなり剣を構える。
その表情はいつになく真剣である。
「いつかの願いを叶えるよアレサ。真剣勝負だ」
アレサの放つオーラはより邪悪となり、おさまっていた耳は再び肥大化し、少しずつ悪魔のそれへと変異している。
その禍々しいオーラはアレサを中心に周囲へ広がっていく。
レフトは目を閉じて静かに呼吸をする。
そして幻獣の剣をアレサの方へ向けて抜刀する。
黒い炎のような衝撃波がアレサに命中した。
攻撃されたことでアレサも反撃する。腕をふるい周囲に稲妻を落とす。
何発かはレフトに直撃したがダメージは無い。
それどころか、剣をアレサに向けて同じような稲妻をアレサに放つ。
凄まじい威力の稲妻でアレサは吹き飛ぶ。
剣に魔力を込めアレサに投げつけて自身もアレサへ突撃する。
踏みとどまったアレサは拳で剣を弾き返す。剣はクルクルと回転しつつもレフトの周囲へ戻り魔力を放ち浮遊している。
距離をつめたレフトはアレサに至近距離で火炎魔法を発動する。
激しい炎によりアレサを覆う禍々しいオーラは一瞬で消失した。
反撃に転じたアレサは拳を構えレフトに正拳突き。
ガード魔法をぶち抜いた攻撃に怯み後退するレフト。
一度距離をとり様子をみる。
突かれた箇所をさすり口からは少し血がたれる。
「…くっ…」
吐血するレフト。
一方のアレサは顔は血塗れで、拳は関節がバラバラなのか指がおかしな方向へ曲がっている。
「…」
言葉を失ったアレサ。
皮膚は焼け爛れ、もはや人の姿ではない。
呼吸は荒く立っているのがやっと…といった状況である。
もはや勝敗は決している。
だが…。
レフトは魔力を解放した。
「よくみるがいいアレサ」
レフトを中心に絶大なる魔力が放出される。
アレサは必死に耐えているが、もはやオーラは消滅している。
「みえるかい?まだまだこんなもんじゃない」
さらにレフトは力を込める。
やがてレフトは浮遊し周囲は魔力の影響で緑色へと変わる。
このままだと……。
レフトは……眼を閉じた。
周囲の魔力が集束し始める。
「……こんな世界……もう…」
レフトは両手をゆっくりと上へあげ最終魔法と思われる構えをとった。
そして…眼を開き、紫色の鋭い瞳による眼光が上空を見る。
周辺は静まり異様な状況である。
これこそ世界が終わる瞬間なのかもしれない。
「ダメよレフトーーーっ今度こそあなたをっ」
アレサがレフトを抱きしめた。
すると周囲の魔力は突然弾けて消滅しパチパチと魔力の残りが辺りを漂う。
いつかの誰かのように身を挺してレフトを止めたアレサ。
「…えっ…これ…は…」
これは回復魔法である。
レフトは魔力干渉をして途中から破壊魔法を回復魔法へと転換していたのだった。
「……お帰りなさいアレサ」
「…」
状況を理解し涙するアレサ。
涙が止まらない…。
だが流れる涙を止めようともしないアレサ。
「ただいま…あなた」
次回へ続く
「…」
レフトたちは診療所に戻った。
アレサを休ませ一通りの説明が終わったところだ。
「アレサが出ていった時、姉さんの気配は確かに感じたわ。だけどあえて話さなかったの」
「…それをルナは指摘していました」
ため息をつくホープ。
「話したらあなたたち二人は躊躇すると思ったのよ。戦ってわかったと思うけど悪魔は手強いわ」
「…はい、それはわかりました。以前悪魔のタイプについては聞いていましたが…。実際に戦ってみると精神攻撃というか…洗脳されてしまうというか…腕輪があって助かりました」
「戦闘力が高いアレサのような悪魔は少ないわ。姉さんのような知略タイプが悪魔本来の種なのよ」
「よくわかりました。悪魔の動向には注意するよう機関に伝えます」
「レフト様、キバと周辺を調べてきます。と同時に復興機関へ悪魔の脅威を報告しておきます」
ホープは輸送車が定期的に機関を通過する旨を伝え、ついでに手紙を届けてもらうことを提案した。
「さて…あの幻獣は賢くて気が利くわね」
「ホープ先生、アレサのことで…」
レフトはロードの言っていたアレサがスパイについてホープに尋ねた。
「…ロードの言ってたことね」
「はい、アレサはスパイだと…」
「…アレサは…複雑なの」
「…複雑…?」
顔を下に向けるホープ。
重苦しい雰囲気だが、レフトは聞かなくてはならない。
「話して下さい…」
「…わかったわ」
飲み物を手に取りホープは話す。
「婚約者がいたのよ。そしてアレサの一生は決まっていた」
「カイト国の技師…でしたね」
「そう…あなたには話していたのね。どう聞いたかわからないけど…アレサはそこで本当に人を好きになってしまったの」
「…聞いた話と…違いますが?」
「…カイトの上流貴族…ウィル」
「…えっ…」
「ウィルにアレサは影響を受けたの」
飲み物を口にするホープ。
「カイトは警察など防衛手段を持たない国家で、私たちはよく周辺のモンスター退治をしていたわ。アレサをリーダーとしてオメガ、回復後方支援の私、そして人のウィル」
「ウィル…」
「明るく賢くて、完璧…それがあいつの二つ名だったわ」
「…完璧って…失礼だけど胡散臭いね…」
「アレサもそれはわかっていたわ。だからウィルを利用する命を受けた」
「軍事技術とウィルの身分…その双方を支配しようとした……」
「だけどね、あなたもわかると思うけど、アレサは真っ直ぐすぎるのよ。そもそも彼女にはスパイなど無理があったのよ」
大声を出しテーブルを叩くホープ。
驚くレフト。
「ウィルの狙いは…オメガのキューブだった。そうとは知らずアレサはウィルに献身的に尽くした。やがてそれは婚約に影響したわ。ロードやオメガはウィルの裏の顔を見抜いていた。だがアレサはウィルをかばった……」
「…」
「そのウィルにアレサは裏切られて精神が不安定となったわ。婚約を破棄し……暴走状態にてカイトを攻撃した。その重罪と婚約破棄により左遷となったのよ。それを執行したのが姉さんとドルガ」
「ドルガ?」
「…人類最大の敵ね。オメガや私は奴が嫌いで、よく衝突していたわ」
「…辺境の地で苦労したと…」
「…そうらしいわね…」
誰かを信じて恋したが…裏切られて…。
それは人間とか悪魔とか関係ないと改めて思うレフト。
その時、ガタンと音がして誰かが外へ出ていった。
「アレサ……目覚めていたのね…」
「アレサ…」
ホープは薬をレフトに渡す。
「これは?」
「記憶を消去する薬よ」
「…」
「決断は任せる…あなたは彼女の夫なのだから…」
…。
キバたちが戻ってくる。
「レフト様、奥様が飛び出していきましたが…」
「うん…」
レフトは剣を取り、アレサを追う。
「ヴァン、集落外で待機していてくれ。なるべくここから離れるが…ヤバい場合は防壁魔法で対応を…」
「はっ、承知しました」
「集落にいる魔法使いは全部召集して待機させるわ。全力で当たらないとアレサは……戻ってこない…ごめんなさい…私にはその力はないわ…あなたしか…」
膝をつき懇願するホープ。
ヴァンは彼女を起こし介抱する。
「連れ戻しますよ」
レフトは笑顔でホープを見る。
そして…。
アレサは歪なオーラを放ち、顔から出血している。
「はぁ…はぁ……私は…私は…」
そこへレフトが現れる。
「やあアレサ」
「…」
レフトはいきなり剣を構える。
その表情はいつになく真剣である。
「いつかの願いを叶えるよアレサ。真剣勝負だ」
アレサの放つオーラはより邪悪となり、おさまっていた耳は再び肥大化し、少しずつ悪魔のそれへと変異している。
その禍々しいオーラはアレサを中心に周囲へ広がっていく。
レフトは目を閉じて静かに呼吸をする。
そして幻獣の剣をアレサの方へ向けて抜刀する。
黒い炎のような衝撃波がアレサに命中した。
攻撃されたことでアレサも反撃する。腕をふるい周囲に稲妻を落とす。
何発かはレフトに直撃したがダメージは無い。
それどころか、剣をアレサに向けて同じような稲妻をアレサに放つ。
凄まじい威力の稲妻でアレサは吹き飛ぶ。
剣に魔力を込めアレサに投げつけて自身もアレサへ突撃する。
踏みとどまったアレサは拳で剣を弾き返す。剣はクルクルと回転しつつもレフトの周囲へ戻り魔力を放ち浮遊している。
距離をつめたレフトはアレサに至近距離で火炎魔法を発動する。
激しい炎によりアレサを覆う禍々しいオーラは一瞬で消失した。
反撃に転じたアレサは拳を構えレフトに正拳突き。
ガード魔法をぶち抜いた攻撃に怯み後退するレフト。
一度距離をとり様子をみる。
突かれた箇所をさすり口からは少し血がたれる。
「…くっ…」
吐血するレフト。
一方のアレサは顔は血塗れで、拳は関節がバラバラなのか指がおかしな方向へ曲がっている。
「…」
言葉を失ったアレサ。
皮膚は焼け爛れ、もはや人の姿ではない。
呼吸は荒く立っているのがやっと…といった状況である。
もはや勝敗は決している。
だが…。
レフトは魔力を解放した。
「よくみるがいいアレサ」
レフトを中心に絶大なる魔力が放出される。
アレサは必死に耐えているが、もはやオーラは消滅している。
「みえるかい?まだまだこんなもんじゃない」
さらにレフトは力を込める。
やがてレフトは浮遊し周囲は魔力の影響で緑色へと変わる。
このままだと……。
レフトは……眼を閉じた。
周囲の魔力が集束し始める。
「……こんな世界……もう…」
レフトは両手をゆっくりと上へあげ最終魔法と思われる構えをとった。
そして…眼を開き、紫色の鋭い瞳による眼光が上空を見る。
周辺は静まり異様な状況である。
これこそ世界が終わる瞬間なのかもしれない。
「ダメよレフトーーーっ今度こそあなたをっ」
アレサがレフトを抱きしめた。
すると周囲の魔力は突然弾けて消滅しパチパチと魔力の残りが辺りを漂う。
いつかの誰かのように身を挺してレフトを止めたアレサ。
「…えっ…これ…は…」
これは回復魔法である。
レフトは魔力干渉をして途中から破壊魔法を回復魔法へと転換していたのだった。
「……お帰りなさいアレサ」
「…」
状況を理解し涙するアレサ。
涙が止まらない…。
だが流れる涙を止めようともしないアレサ。
「ただいま…あなた」
次回へ続く
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