ファンタジー/ストーリー3

雪矢酢

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第一章

十八話 封印された宿

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「動ける?追いかけるわよ」

「うん、注意しながら追いかけよう」

「もう私たちの事はバレてるわよ」

アレサはすぐさま部屋を飛び出し召喚士を追う。
ため息をつきレフトも部屋を出る。
部屋の外は物音ひとつなく静かである。このことから結界が宿全体に展開していることがわかる。

「みんな眠らされているのね」

「アッカとスペースがこれを仕掛けたとは思えない…」

「詮索は後よ」

アレサは周囲を注意深く調べた。

「こっちね、走り去った跡があるわ」

「ああ、これね」

追跡を始める二人。
不気味なくらい静かな宿を走り抜ける。

「この感じだと、二人はおそらくロビーにいる可能性があるわね」

「なるほどね。ロビーなら宿の状況を監視できるものね」

アレサの機転でロビーに近づく二人。
ロビーに人の気配を感じ隠れて様子をうかがう。

「あの赤い髪の男がアッカかしら」

「うん…みたところ二人だけのようだね」

ロビーにはアッカとスペースがおり不気味な祭壇がつくられている。


「血相変えてどうした?」

「すぐに撤退だ、まだ間に合う」

「どういうことだ?とりあえず落ち着け」

スペースは復興機関の者であり当然ながらレフトの事を知っている、その実力含めた全てを知っているのだ。

「客の中にレフトがいる」

「レフト?」

「レフトーラだ」

「なんだとっ!あいつはシーキヨへ派遣されたのではなかったのか」

「詳細はわからないがレフトはこの宿にいる。それに連れがいた。その連れの戦闘力も我々とは桁違いだ…」

「おいおい、何でそんな強者がこんな辺境の宿にいるんだよ…」

「知るか。悪いが俺は逃げるぞ」

「待て、途中で放棄することはできない。せめて宿泊客だけでも目覚めさせる」

「そんな暇はない、やるならここでお別れだアッカ」

「くっ…」


なにやら仲違いしているようである。


「ねえ、アッカって優男は性格破綻者っぽくは見えないわよ?」

「うん。どういうことなんだろう」

「ともかく二人を締め上げて事情を聞く、それでいい?」

「いや、ちょっと待って、もう一人いる」

「あら」

言い争いになる二人を制止するかのように大柄の男が酒場からロビーへやって来た。


「二人とも止めよ、いったいどうしたのだ」

「ザック、スペースが抜けるというんだ。レフトーラがいたと…」

「レフトーラ?復興機関のレフトーラか?」

「そうだ。もう宝珠どころの話ではない。悪いがしばらく姿を消す」

「待て、いくらレフトーラとはいえ結界を展開している我々のほうが圧倒的に有利。そうであろう、アッカ」

「そうだ。それに目的は争いではないだろう。状況によっては彼に助力を願えばよいだろ、復興機関ならそれができよう」

「…わかった。ならさっさとベルーナを探せ。それかここでレフトを迎え撃つか?」


どうやら三人は目的がありこの宿を封印したようだ。
そしてその目的にはベルーナと赤い宝珠が関係しているようだ。
腕を組み状況を整理するアレサ。
難しい顔をしているレフト。

「どうやら…ベルーナさんが怪しいね」

「ふん、最初からベルーナは胡散臭かったわよ。この感じだとベルーナが隠している赤い宝珠をかつての仲間と復興機関が捜索に来たということっぽいわね」

「そうだね。ベルーナさんと接触する前にいろいろ聞いたほうがよさそうだ」


すると二人はゆっくり立ち上がりロビーへと歩く。


「ふふ、揃いも揃って似たような面ね」


アレサたちはその声を聞きすぐに反転、事態が急変した。


ベルーナがロビーに現れたのだ。


「…うわ、ちょっとレフト、どうすんのよ、これ」

「ベルーナさんも結界を突破してきたんだね」



三人組は一斉に戦闘モードへ。
アッカは祭壇に陣取り、術士のローブを纏う。
スペースは魔法の剣を複数召喚、浮遊剣のように展開している。
大柄なザックは長剣を抜刀しベルーナを迎え撃つ。
緊張感があるロビー。


「うふふ、三人とも勇ましいわね」


微笑みながら身構えるベルーナ。
三人を同時に相手しようということのようだが…。


「ベルーナ…まるで…別人ね」

アレサの直感がベルーナの変化をとらえる。

「なるほど…この宿には秘密がありそうだ…ベルーナさんにも…」

名乗り出て、騒動の鎮圧は容易。
だが、アレサたちにとっては宿泊客たちが寝ているほうが都合は良いのである。

戦闘が始まった。
祭壇から火の玉が放たれ、スペースが召喚した、数本の剣とともにベルーナを攻撃する。
それに動じることなくベルーナは高笑いをする。

「うふふ、あはは、はっはははっ!」

そして両手をあげると下から無数の短刀が召喚され、三人に襲いかかる。 

「くっ」

「おいおい」

「なんと」

ロビーは無数の短刀が雨のように降り注ぐ。
三人はなんとか耐えたが、祭壇は破壊されてしまう。

「スペース、お前に託す。この小瓶を持って逃げろ」

「えっ」

「小瓶を持って表に出れば宿泊客は現実に戻る」

二人が会話をしている時間をザックがつくっている。
大柄ながらスマートな動きでベルーナに拮抗する実力者だ。

「客を解放したらレフトーラにでも頼むのだな」

あばよという感じの挨拶をスペースにするアッカ。


「あの三人はそこそこ強いけどベルーナはまだ真価をみせていないわね、このままだと全滅するわよ」

「…」

「レフト?」

「宿泊客を助けよう」

「ふふ」

アレサは優しく微笑む。
その様子とは対照的にベルーナの攻撃はどんどんエスカレートしていく。
ザックは吹き飛ばされスペースには無数の短刀が襲いかかる。
その身を盾にしてかばうアッカだったが、ダメージが大きく膝をついてしまう。
仲間が倒れたことでスペースは戦意を喪失してしまう。


「くっ…ここまでか…」


戦局が決したことで攻撃を中止するベルーナ。
武装を解除して三人に近づく。

「宝珠のなんたるかを知らない者には渡すわけにはいかないわ」

「ベルーナ、宝珠はとても危険なんだ」

突然ベルーナとアッカの口喧嘩となる。

「なるほど…分かってきたよ。ベルーナさんは宝珠を所持している。それを引き渡してもらうため機関やアッカが動いた、ということだね」

納得するレフトであったが…。

「どうでもいいわよ、そんなこと。さっさとベルーナを説得して機関に宝珠を回収させましょう」

「そうだね」

レフトたちはゆっくりと口論する二人の元へ向かう。
ザックは戦闘不能で倒れ、スペースはうなだれている。

「ベルーナ、そこまでよ」

アレサの声がロビーに響く。
軍人の号令のような声に一同すくみあがった。


「お、奥様…」

「ん…んっーっ!」

アッカとベルーナは二人の姿を見て言葉を失った。

次回へ続く。
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