ファンタジー/ストーリー3

雪矢酢

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第一章

十七話 覚醒方法

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「うわ…」

「…もう最悪ね」

アレサとレフトは駆け足でベルーナの宿に戻ってきた。

「お帰りなさい」

酒場のカウンターからベルーナが二人に声をかける。

「ベルーナ、雨が降ってきたわ」

素っ気なくアレサが声をかける。

「んっ?…雨ですか……この時期に珍しい」

雨に驚くベルーナは外の様子を見に行った。
アレサたちは酒場にとどまり席につく。

「…気味が悪いわ、夢の光景と全く同じみたい…」

「アレサ大丈夫。信じて」

夢の光景が目の前で繰り広げられ恐怖するアレサ。

「この雨は不吉な前兆なんかじゃないんだ。この雨こそがアッカの策略開始の合図なのさ」

「ねえレフト…それはどういうこと?」

と、その時、真っ赤に染まったベルーナが帰ってくる。

「…雨が…赤い雨が…」

賑やかだった酒場は静まり、皆ベルーナをみている。


「…」


アレサが立ち上がり、外に出ようとするが、レフトはそれを止める。

「どういうことなの?」

するとレフトは目の前にある箸を手に取る。
そして、いきなりその箸で自らの胸を刺す。

「ちょっとレフト…」

その行為に驚くアレサ。
だがなんとレフトは全くダメージを受けていない。
そして今度はその箸を血塗れのベルーナに突き立てる。

「レフトっ!!」

絶句するアレサ。
だが箸が刺さっても無表情のベルーナ。

「…もう…私には…」

非現実な光景にもはや思考力を失ったアレサは座り込んでしまう。

「アレサ落ち着いて聞いてほしい」

そういって手を差し出すレフト。
アレサは廃人のように朽ちている。

「もう…私…」

「大丈夫、ここは現実じゃないんだ。この世界に引き込むことがアッカの策略なんだ」

「えっ」

その言葉を聞き活力が戻るアレサ。

「さあここから脱出しよう」

アレサはレフトの手を握る。
宿には雷が落ち、三人組が酒場へと侵入してくる。
だが、レフトは一切動こうとせずじっとしている。

「ねえ」

「もう少し…雨が浸水して宿が爆発した瞬間こそが現実へと戻れるチャンスなんだ」

「どういうこと?」

「爆発するエネルギーを取り込んでそのパワーで現実へと戻る」

「…」

「分かりやすく説明すると、刺激を与えて…ショックで目覚めるという…」

「…ああ…麻酔状態なのを解除するってことかしら…」

うなずくレフト。
ため息をつくアレサだが手を取り笑みを返す。
そうこうしているうちに三人組みは酒場を荒らし赤い雨は宿へと浸水していく。

「こんな手の込んだ策をアッカが一人で展開できるとは思えない」

「赤い宝珠の力…」

「そうだね。目覚めたらアッカは間違いなく動揺する。動けるかはわからないけどすぐに奴を拘束する」

「わかったわ。アッカの特徴は?」

「赤い髪…」

「まんね…」


そして周囲に爆発の予兆となる変化が起こる。
浸水した水が小さな水滴となり浮遊する。


「ここだ、アレサ、目を閉じて!」



二人は目を閉じると宿は爆発した。



爆発したまま時間が停止し二人はゆっくり目を開ける。


「さあいこう、あそこが出口だよ」

「成功したのね」


宿の出口は空間が裂けており一目で出口と認識できる。二人はその出口へ走り空間を脱出した。






「んっ、なんだ」

「どうしたアッカ?」

「空間が破壊された…」

「なんだと」



はっ…。


レフトは目を覚ます。


「…ここは…客室…か」

隣りにはアレサがおりレフト同様に目を覚ます。

「うぅん、ここは部屋…かしら」

「そうだね。どうやらアッカは宿をまるごと封印したみたいだわ」

「へえ、やるじゃないの。そいつは確かに実力者だわ」

「…」

言葉こそ冷静ではあるが、アレサはカンカンに怒っている。

「ただ下調べしなかったのが命取りだったわね」

「とりあえず規模はわかったけど種類はわからない。向こうは破られたことを知っているだろうから…」

「一発殴らないと気がおさまらないわ。正面突破か、夢と同じようにここを爆破すればいいじゃないの?」

「…」

悪魔だわ…。
アレサは悪魔そのものだわ…。


と、冷静にならないとね。


「レフト」

「ん」

「大丈夫?具合が悪いの?」

「大丈夫よ。正面突破したい気持ちはわかるけど、まずはアッカの目的を把握しよう」

「もう…またそんなゆるいことを…」

「んっ!」


レフトは探知魔法の気配を感じた。
すぐにアレサを抱きしめ不可視の魔法を発動。
突然の出来事に目をキョロキョロさせるアレサ。


 
これは…アッカ、一人だけの騒動ではないな。
協力者ならぬ強力者がいる…。

…これをニナやシーキヨのみんなの前で使おう。
なかなかのギャグだよね…。


と自画自賛しているレフト。
アレサはバタバタと動いているので、正面をみると召喚された魔獣が目の前にいた。


ああ、相方は召喚士か。
なるほど、納得したよ。


何らかの方法で赤い宝珠を手にした召喚士とアッカが組んだのか。
だけど…目的は…。
考え込むレフト。


すると不可視の魔法は効果が切れて魔獣の前に姿を晒してしまう。

「あ、いけね」

「レフトっーーー!」

魔獣は雄叫びをあげ二人に襲いかかる。
鋭い爪がレフトに迫るが、アレサはなんとその腕ごと吹き飛ばした。

「考え事は後にしてちょうだい。戦闘を許可してくれるかしら?」

「はい、もちろん…」

ニコと笑い魔獣をボコボコにするアレサ。
…完全に気が緩んだわ。
まあこれでここに覚醒者がいるってことがバレる。


「こっちは済んだわ。魔獣は服従させたわ」

「えっ…」

「待って、人の気配よ」

雄叫びを聞き召喚士らしき人物がレフトたちの部屋へ侵入してきた。


「んっっ!」

「あれっ」


召喚士は高貴なローブを纏う優男。
レフトの顔を見た瞬間、顔色が豹変。
そして一目散に逃亡してしまった。


「ちょっとレフト…」

「スペース、あいつはスペース、復興機関の人間だよ」

「復興機関?」

「…」

「復興機関の人間がどうしてアッカと組んでいるのよ」

「…わからない。けど、捕まえて話を聞かないと」



現実に戻ったレフトたちであったが、事態はより混迷を極めた。

宿をまるごと封印している意味は?
アッカの目的はいったい何なのか?
そして召喚士スペース。
復興機関が何故この場にいるのか?


様々な謎が浮上しているベルーナの宿。
ベルーナの本当の姿をまだ誰も知らない。


次回へ続く。


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