ファンタジー/ストーリー3

雪矢酢

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第二章

二話 二つの後始末

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「やれやれ…」

防壁魔法を解除し客に事情を説明するレフト。
そんなレフトの行動に納得できないアレサ。

「結局私たちが後始末か…やれやれ」

ぶつぶつと小言というか文句を放つ。
そんなアレサの足元には粉々になって小石と化した宝珠があった。

「…まあ…少々やりすぎたわ…」

その破片を拾うアレサ。

「…ん、これは…」

わずかだが力が残っているようだ。
すぐにレフトを呼ぶアレサ。

「どうしたの?」

「幻獣の剣で宝珠を再生できるかも」

「えっ」

「宝珠とその剣は似たような性質だろうから…試してみたら?」

ニコニコ笑うアレサ。


…何考えているんだ…全くわからない…。
もしダンがまた…。


「んっ」

「何よ、早く試してみてちょうだいよ」


ああ、ダンを再生させてこの始末を…ということか…。
実に縦割り社会で生きてきた者の考えというか…。
責任をとらせるって訳ね。


「ちょっとレフト? 聞いてるの?」

「ごめんごめん」


ダンは見事に再生した。
ダンだけでなく砕いた宝珠は多くの従業員を形成。
人海戦術で宿はあっという間に建て直され、以前よりアップグレードしたような豪華な外観と内装である。

レフトたちはある程度協力した後、ダンに任せようやく静養といったところである。

「待つことね。ベルーナの帰るとこはここだから」

「そうだね、ダン、君は己をコントロールしたほうがいいよ」

「はい、あのようなことは二度しないっす」

「あんた……砕いたら性格まで砕いた感じよ…」

笑う三人。
ここは賑やかな宿になるだろう。





復興機関本部


「…この世のものとは…」

「そうか」

ジダヌは上層部へ今回の顛末を報告していた。
その内容はベルーナや宝珠の件ではなくレフトとアレサについてである。


「躊躇なく機関の者へ攻撃するとは、もはや世界の脅威と言えるでしょう」

「ふむ、だが、その攻撃は反撃であり、先にそなたが仕掛けたと報告書にある。さらに無抵抗な者への追撃だとか?」

「私は確実に任務を遂行したかっただけです」

「…」

「捕らえた二人を拷問し、裏切り者と憎きアレサとかいう人物の逮捕を…」

「よさぬか」

「はっ…申し訳ない」

「レフトーラについては審議中だ。それにレフトーラはそなたとは戦わないだろう」

「戦わない…ですか?」

「そうであろう?何故戦うのだ?レフトーラが街を破壊しておるのか?その宿の客を襲っていたのか?」

「それは…」

「ジダヌよ、今回の作戦は再構成されたシーキヨ支部との共同作戦であった」

「はっ、そのような作戦の指揮官は光栄でありました」

「アレサ殿はシーキヨ軍部の特殊部隊長であるぞ。つまり立場はそなたと同じ」

その事実を知り、ジダヌは事の重大さを理解した。

「…なんと…な、何故そのようなお方が…」

「よいかジダヌよ、あの作戦に武力は必要がなかったのだ。状況の把握ができ、冷静に対処する人選であった」

「…」

上層部はジダヌに淡々と話す。
ジダヌは拳を強く握って聞いている。

「アレサ殿が事実上、事態を解決させ、戦闘から一般人を守ったのはレフトーラではなかったのか?」

「それは…」

書類に目を通し、ジダヌに確認する。
戦闘になった場合、一般人を避難させることが復興機関ではとても重要である。

「そなたに指揮官を任命した者は自ら厳罰を願い出た」

「……」

「下がれ、休むがよい」

「…失礼します」


静かに部屋を去るジダヌ。
ため息をつく上層部。

「復興機関の底が見えた…か」

不可視の魔法を解くドナン。
上層部は水を飲み応える。

「いや、危険分子がいるのだよ。それを発見せねばならん」

「危険分子か…」

「考えたくもないが、レフトーラがいなくなり機関は荒れている」

「現場でレフトーラを見たが、あれはどう見ても機関の人間だ、動きでわかった」

「…」

「我々九人の誰よりも復興機関の人間って感じがした。正直あの人と組みたいとすら思った」

「なるほど…」

「アレサ殿は申し訳ないが…二度と会いたく…」

「ほう」

「詳しくはミラに聞いて下さい」

一礼して部屋を出るドナン。
部屋の外にはソロモンとニナ、オメガがいた。


「やあドナン、珍しいね上層部のところにいるとは」

陽気に話すソロモン。
立ち止まり腕組みするニナ。
手で挨拶するオメガ。

「お疲れ様です、お三方」

そんな三人に頭を下げるドナン。

「あんたも大変ね」

そんなドナンの顔を上げるニナ。

「うむ、だがカラーズの二人を逮捕したことは見事である」

「オメガ、カラーズはもう存在しないよ、ベルーナとアッカだっけ?」

ソロモンはニナに確認する。

「ええ、あの狂人アッカを抑え込むとは…やるじゃないの」

パチパチと手をたたくニナ。

「はい…なんというかあの二人は真逆でして…」

「え」

ドナンの言葉に戸惑う三人。
もともとアッカは実力者であるが狂人。
優しく温厚なベルーナ。
カラーズから情報を得ていた機関の人間はそういう認識であった。事実、レフトもそうであった。
だが事実は逆であった。

「それにあの二人はアレサ殿が…」

「アレサ?なんであの軍人が…」

「うむ、宿で休んでいたか」

「ならレフトーラさんもいたとか」

「レフトーラ殿は…誰よりも復興機関の人間でした」

その言葉に反応する三人。

「というと?」

「はい、真っ先に一般人の安全を確保しており、一切戦っていませんでした」

「うむ」

「さすがですね」

「ならばあの軍人が場を制圧したんでしょ」

オメガとソロモンは変わらぬレフトに安心したようだが、ニナは一瞬で状況を理解した。

「その通りです」

話し込むのが悪いと察したドナンは一礼し走り去っていった。

「アレサと魔術師の相性は最悪だ」

「指揮官がポンコツだったのよ。レフトがいたなら事情を聞くべきだった」

「うむ、協力は難しいが情報さえあれば任務はスムーズであろう」

「レフトーラさんは優しいですものね」

「二人とも、ベルーナと結界士のところへ行くわよ」


次回へ続く。
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