ファンタジー/ストーリー3

雪矢酢

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第二章

五話 異形の魔女

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「…」

「はははのは…」

珍しくギャクを言うアレサ。
目の前にはホープとヴァンがいる。

「あのね、私は出張医じゃないからね?」

怒っているホープ。

「ヴァンがいたからいいけど」

「奥様、お見事です。レフト様はこうでもしないと休んでくれません。さすがは夫婦」

「確かにそれはわかるわ」

「ははは…」

笑うしかないアレサ。

「この葉っぱを刻んで飲ませれば、記憶を代償に目覚めるわよ」

「えっ…記憶?」

「先生?」

「嘘よ。ただの薬よ」

ジーっとホープを睨むアレサ。
レフトとはまた違ったギャクというか、独自な感覚があるホープ。

「まあまあ奥様、それより先生、アレを」

「ああ、そうだった。診療所のポストに入っていたのだけど…ちょっとお願いがあるのよ」

「お願い?」

ホープは依頼書のようなものをアレサに渡す。
丁寧な文字で書かれており、下の部分が不自然に切り取られている。

「何よこれ」

「ねえ、ちょっとは読んでから言ってちょうだいよ」

「えーと、化け物?徘徊?」

集落の近辺でみたことがない化け物が徘徊しているらしく、その討伐依頼のようだ。
報酬は…という先が切り取られている。

「私が周囲の調査をした時はそんな化け物は確認しておりません……が…」

「ん?…が?」

アレサが鋭い眼光をヴァンにむける。

「荒れ地の魔女です」

「何よそれ、そんな奴が登場して大丈夫なの?」

「きわどいところね」

ホープが腕組して話す。

「…えっと…レフト様にはお話しましたが、その時は特に問題はないと…ですが今回はその魔女が関係している可能性があるのでは?」

「わかったわ。土地勘のあるベルーナたちにも聞いてみるわ」

「まだこここにいるつもり?」

「レフト次第よ、この前、危うく復興機関とやり合うところだったわ」

真剣な表情になるアレサ。
ヴァンはすぐに何かが起きるかもしれないと察した。

「機関のほうは引き続き注意しておきます。奥様、これをお持ち下さい」

そう言うとヴァンは札をアレサに渡す。
札にまじないをかけるヴァン。

「なるほど、緊急転移の札…かしら?」

「さすが奥様、その通りです」

「緊急事態になったら周囲の者を一時的に転移させ全力を出せ…ということ?」

「そういう使い方もございますね」

動じぬヴァン。
クスクスと笑うアレサ。
そんなの知らねーよと思うホープ。


「では」


転移魔法で集落へ帰還する二人。


「魔女に化け物…か…」

考え込むアレサ。
どうも引っ掛かるわね。
この近辺で最強は間違いなくあの薬草だった。
あれは悪魔でも討伐は困難だったと思う。
モンスターの気配や盗賊みたいのは確かに多いけど、不思議と猛者もこの地域は多い気がするわ。
闘技大会に出場していたエルオーネと同じ剣術の老人など、隠れているのか理由があるのかわからないけど…強者はまだゴロゴロいそうね。

「う~む」

腕組みをしながら歩くアレサ。
宿屋に戻るとベルーナがロビーにいる。

「ベルーナ、ちょっと聞きたいのだけれど?」

珍しそうに眼をパチパチするベルーナ。

「はい、私にわかることなら」

「荒れ地の魔女って知ってる?」

「ああ、フレイアのことかしらね」

「フレイア?」

「ええ、確かさっき酒場にいましたよ」

「えっ…ちょっとどの方か教えてちょうだい」

二人はすぐに酒場へ行きベルーナは指差す。

「あの人ですよ。ちょくちょくこの宿屋に…って奥様?」

ゆっくりそのフレイアに歩み寄るアレサ。

「ちょっと聞きたいことがあるだけよ。忙しいとこありがとうベルーナ」

手を振るアレサ。


「さて…」

後ろを向いて座っているフレイア。
どうやらアレサに気づいているようだ。

「何の用でしょうか?」

「へえ、あんた後ろに眼でもついているのかしら?」

挑発するアレサ。
だが、次の瞬間、魔女らしき人物の首がくるりと回転しアレサを睨む。
姿勢は変わらず首だけ回転する様はホラーそのものである。

「挑発はムダよ。一体何の用だ」

そんな気味の悪い存在にも一切動じないアレサ。

「外で話そう。あんたからは殺気を感じる」

「よく言うわ。あなたこそ…」

するとフレイアは席を立ち外へ。
スラリとした体型にロングヘアー。
瞳は赤と青のオッドアイである。


なるほど…瞳に宿した魔力を使うようだわ。
赤は炎、青は水ってとこかしら。
あの髪も武器っぽいわ。


「どこまでいくのよ、この辺でいいかしら?」

突然立ち止まるフレイア。

「いいわよ、ここならあんたが戦いやすいんでしょう?」

「へえ、どうやら…何もかもお見通しってことかしらね…お前は何者だ?」

冷静さを失いつつあるフレイア。
瘴気がじわじわ効いているようだ。

「ただの宿泊客よ。私はあんたに聞きたいことがあるだけよ?」

「ちっ…」

なんなのよ、この圧というか空気というか…。

「この近辺を徘徊する化け物はどこにいるのかしら?」

「えっ」

アレサの言葉にびくりと反応するフレイア。

「その反応…どうやら何か知ってるようね」

「くっ…」

するとアレサは右手を振り下ろし衝撃波でフレイアの左腕を吹き飛ばした。

「ぐっ…」

いきなりの攻撃に驚くフレイア。
そんなことは関係なく今度は右腕を吹き飛ばすアレサ。

「…きさま…何者だ」

「黙れ、あんた人じゃないね、質問に答えないのなら次は…首だぞ…」

「…」

沈黙するフレイアにアレサはゆっくり腕を上げる。

「…わかったわ…」

その言葉を聞いたアレサは突然フレイアを殴り飛ばす。

「…ぐっ……な…何なのだ…」

「身体が軟体化しているみたいだから、この程度でダメージはないでしょう」

フレイアの身体はぐにゃぐにゃしており、あのウエポンのようである。

「それを知って攻撃するってことは…よほどの実力があるってことよね」

立ち上がり戦闘モードになるフレイア。
その彼女を鋭い眼光で圧倒するアレサ。

「…」

対峙する二人。
フレイアは目つきが変わり、吹き飛んだ両腕がいきなり動きアレサを拘束する。

「これで動きは封じた」

アレサは抵抗することもなくつぶやく。

「なるほど…私の攻撃手段ではダメージは与えられず、あんたの勝ちのようね」

「ふっ…今さら気づいたとてもう遅いわ。実験体が不足していたので丁度よいわ」

ジリジリとフレイア本体へ引き寄せられるアレサ。

「実験体?あんたはここで何をしているの?」

「…思い出したわ」

フレイアはアレサを見て何か思い出したようだ。

「あんたは以前、仲間の科学者が造った実験体を討ちにきた一人」

「実験体を討ちに?」

「そうだ、強化個体を討伐にきた連中の一人であろう」

「…記憶に…ない」

ついにフレイアの目の前へと引き寄せられたアレサ。

「まあいいわ、とりあえず吸収させてもらおうか」

するとフレイアは大きく膨らみ巨大化。
そのままアレサを丸飲みにした。
モコモコと動くフレイアだったが、急に動きが止まる。


「うごご…ふがあーっ」


突如苦しみ出すフレイア
ゴロゴロともがき苦しみ、そして肥大化した身体は破裂。
飛び散った身体は蒸発するかのように消滅した。

「愚か者が」

闘気を纏ったアレサが言い放つ。
コアらしき球体を持ち、それに話しかける。

「これは悪魔が造りしモノ。きさま、悪魔と接触した者だな」

すると機械音声がそれに回答する。

「悪魔の復活は近い。人よ恐怖するがいい」

「…」

「さあ、人よ、とっとと破壊しろ。悪魔に魂を売った事に未練はない」

「そんな状態でもわかるように、恐怖を与えよう」

アレサはそう言うと纏ったオーラがみるみる変化していく。

「…なっ…そんな…」

その時フレイアはアレサの正体を知った。
そしてアレサはそのコアをゆっくりと下に投げた。
フレイアはすぐに元の女性の姿へと再生。
アレサは闘気を払い、フレイアを睨み付ける。

「私はヘルゲートでモンスターの研究をしていました」

知っていることを話し出すフレイアであったが、アレサはそれを止める。

「明日、私の夫と一緒に話しを聞く」

「…承知しました…」

「私は手荒なマネはしない。逃げたければ好きにするがいい」

「いえ、あなたは何かが違う。全てお話致します」


そして二人は宿屋へ戻った。


「あれ、ずいぶん遅かったですね?大丈夫ですか」

ベルーナが心配そうに話す。

「はい、いろいろ盛り上がってしまって…」

下手な芝居をするフレイア。

「大丈夫よベルーナ。レフトが心配だから部屋へいくわ」

そう言うとアレサは駆け足で宿屋へ入った。

「レフト?…レフトって……まさか…」

急に顔色が悪くなるフレイアをみてベルーナは察した。

コイツも奥様にたてついて…指導されたか…。
そしてその旦那がレフトさんと知って恐怖を…

「ベルーナさん」

「はい?」

「アレサさんの旦那様って…」

「フレイアさんの想像の通りですよ」



次回へ続く。

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