ファンタジー/ストーリー3

雪矢酢

文字の大きさ
上 下
33 / 34
第二章

十一話 悪魔崇拝

しおりを挟む
トップオブザワールド。
機関の最高司令がエンデ人。
空飛ぶ船。
魔造鏡。

これだけでも頭はぐちゃぐちゃなのに、カイザーとミレーネ子のデルタ? 
つまりこの青年らしき人物は悪魔と人の子。
そして悪魔カイザーは師匠に魔封剣を託した悪魔。

もう頭の整理が追いつかない…。


「レフトーラさんたちがドルガさんに致命傷を負わせたので、私が出向いたというわけです」

淡々と話すデルタだが、四人はこの状況に激しく混乱している。

何故、この子が登場するんだ?

オメガとニナは思う。
一体何があったのだと…。


「わかった。ところで坊やの望みは何?この悪魔崇拝組織はとても危険な集団。子供の遊びじゃすまないわよ」


アレサがデルタに切り込む。
状況を確認せねば…。
情報が不足している。
この若く幼いデルタならちょっと工夫すればきっと口を割る。
今までの経験と場数ので駆け引きで勝負に出たのだ。


「アレサさんならわかると思ったのですが…」

「まさか人類を滅ぼすとかエンデに攻め込むとか言うじゃないでしょうね…」

「そのまさかですよ。私は人類を滅ぼします」

「…バカなことを……組織の狙いは悪魔を崇拝することよ?その崇拝者を滅ぼしてどうするのよ…」

アレサはデルタが踊らされていることに気づいた。
だが、混乱しているレフトはそれどころではなかった。

どうなっているんだ。
人を信じた悪魔……その子が人を滅ぼすだ?

「バカなことを考える暇があるなら復興機関に協力するなどして世界の役に立ちなさい」

「復興機関なぞ……人の組織なぞ信じられないっ」

デルタは右手を払う。
すると衝撃波が放たれアレサを除く三人は吹き飛び、黒ローブの者たちに拘束される。

「正論を言われて逆上するって…まさに子供ね」

「うるさいっ、まずはあなたからだ。人類に味方した悪魔など存在価値はない」

アレサはその言葉を聞き笑う。

「ふふ」

デルタは黒ローブを強引に下がらせる。

「一対一です、受けてくれますね?アレサさん」

「人類を滅ぼしてもあんたの気は晴れないわ」

「えっ」

「子供の相手なぞする気はなかったけど…あんたには少しげんこつが必要ね」

「後悔しますよ」

デルタは闘気らしきものを解放する。
その気迫を受けアレサは確信した。
それはオメガたち三人も同じだ。


この子は敵ではない。
組織に使われているんだ。


対峙する二人をみて冷静になったレフト。

「オメガ、あの子はアレサに任せよう。キューブはあるかい?」

「うむ、わかった。キューブはここある」

「ちょっと、この状況で何をするのよ」

「黒ローブを倒し、この飛空艇を墜落させる」

レフトはゆっくりと体勢を変えてすぐに行動できるよう構えた。

「うむ、ならば動力炉を制圧にいく」

「ありがとう。制圧したらすぐに破壊して合流を。ここに落下対策のぬいぐるみがある」

「うむ」

「はっ?ぬいぐるみ?」

ぬいぐるみに激しく反応するニナ。

「ニナ、これ渡しておくわ。地面に投げるらしいよ」

「ちょっと気になるじゃないの」

「ニナ、レフトを頼むぞ」

「わかった。レフト、援護するわ」


異様な圧により攻撃に踏み込めないデルタ。
実力はあるが精神は子供、そこを瞬時に見抜いたアレサ。冷たい視線でデルタを追いつめる。

「見なさい、地上はほぼ片付いたみたいよ。もうすぐヘルゲートが総力でこの飛空艇を撃墜にくるわよ。ここにいる連中は逮捕され組織のことを尋問されるわよ」

アレサはデルタにゆっくり近づき語りかける。

「ちっ……おい」

黒ローブ四人にモンスター召喚を指示するデルタ。
だが、それを待ってましたとばかりにレフトが飛び出す。

「いくぞニナっ!!」

「鏡は私が抑える、レフトお願いっ!」

レフトはニナに高速魔法をかけ自分は剣を抜刀。
鏡を構えた黒ローブは胴に斬撃を受け、切り口から黒い炎が吹き出し炎上。
落とした鏡をニナはキャッチする。

「鏡確保成功、レフト破壊を」

レフトに鏡を投げるニナ。
抜群の連携である。
その動きにも表情を変えないアレサ。
デルタは精密かつ統率ある二人の動きに言葉ができない。

レフトは身構え集中し、飛んできた鏡を切断。
割れた鏡に左手を向け消滅させる。
…これは魔法を跳ね返す効果があるため切断して機能を潰す必要がある。
これであとは魔法で消せる。

「お、おのれ、どいつもこいつも役に立たないじゃないかっ」

デルタの怒りは頂点に達した。
憎しみがオーラに影響し禍々しい瘴気を放つ。
だが最初に感じていた独自のオーラは既に消滅しておりただ見た目だけ派手な弱々しいオーラだ。
自分が弱体化したとは知らずデルタはアレサを攻撃する。
力と勢いの攻撃は単調で、アレサは難なく攻撃を躱しカウンターを決める。

「力はあるけど、当てなきゃ意味がないのよ?坊や」

腹部をとらえた一撃にデルタは激しく吐血し後退。

「うがぁっ……」

「あら、もうダウンなの?」

デルタの頭を掴み持ち上げる。
口から血がポタポタと落ちる。
抗う力がないようでぐったりとしている。

「ふふ、内臓が破裂したようね。このままだとあんたは終わりよ」

「がが…」

「ほら、抵抗しないとあんたが滅ぶわよ」

レフトは残りの三人をニナと倒していた。
そしてその様子を確認したアレサはレフトにデルタを投げる。

「デルタだっけ?その程度で済んだことをアレサに感謝しなさい」

「さすがに子供の相手は手加減しないとね」

じゃれあう女性二人。

「もう大丈夫」

「…ごめん…なさい」

レフトはデルタに治癒魔法をかける。
安心したデルタは気絶した。

「ねえ、ちょっといい?」

ニナが二人に話す。

「ここを制圧したのに墜落させる必要があるの?」

墜落という言葉に過剰反応するアレサ。

「墜落させるって誰がいったの?」

冷ややな視線で無言にてレフトを指差すニナ。
オメガがいないことに慌てるアレサ。

「ねえ、ヴァンに言った説得するって話は?」

「……」

「オメガを動力炉へ向かわせたら、徹底的に破壊するわよ。この飛空艇はこの先……」

その時、ボンという音が響く。
すると船体が大きく傾いた。

「ちょっと、なんで地上に魔術師が集結しんのよ」

ニナが地上を確認、アレサも下を見る。

「あいつ……ちくしょう」

地上ではフラットがニタニタ笑いながら手をあげている。
アレサの荒れ方とホープの荒れ方は似ていると思うレフトだった。
すぐにヴァンが浮遊魔法でかけつける。

「お疲れ様です。オメガ殿は動力炉を制圧後、操縦室の制圧も頼みました。飛空艇はとりあえず平野に着陸させるようお願いしております」

「いいね、優秀ちゃん」

優秀って…そのままじゃん。
ニナのセンスに心の中で突っ込むレフト。

「あら、レフト。なんか言いたそうね?」

鋭いニナは逆にレフトに突っ込んでくる。

「いや、それより墜落しないでよかった」

「ヴァン、私たちはもう行くわよ、後はニナたち復興機関とヘルゲートに任せましょう」

「はっ、奥様、承知しました」
 
アレサは下のフラットを見る。
フラットは多くの兵士と魔術師を率いている。
腕組みしながら上空のアレサを見る。

「ふん」

アレサは挨拶もせずヴァンの前に手を出し転移を待つ。

「協力か…」

「フラット様、どうかされましたか?」

「いや、残存する者は生きたまま捕らえよ」

地上では捕虜を並べヘルゲートへと連行が始まっている。
これにより悪魔崇拝の実態が判明することを願う。


「……ん、傷が…」

デルタは治癒魔法による応急措置にて意識が回復。

「これで大丈夫。後は病院でみてもらうといいよ」

レフトは立ち上がり地上を見る。

「ドラゴンマスターがヘルゲートを率いているのか…さらに機関との連携もある……」

「行くわよレフト。私たちは部外者、これ以上は…」

アレサの声でヴァンに駆け寄るレフト。

「うん、帰ろう」

ニナは笑顔で手をふっている。

「オメガによろしくと…またねニナ」

「わかった。元気でね」

「皆さま、失礼します」

そう言うとヴァンは転移を発動、三人は飛空艇から去った。



「…私は…この先どうすれば……」

自分を否定されうなだれるデルタ。
そんな彼に歩み寄るニナ。

「組織は敗走したあんたを消しにくるわよ。それにドルガの傷が回復したら、大陸全土で蜂起するかもしれない」

「…世界…大戦…か」

「組織に戻るなら行くがいいわ、だけど次は…ないよ…」





大陸の各国歩み寄りにとの主旨で開催された会合は、悪魔崇拝なる危険な地下組織に襲撃された。
太古の技術飛空艇まで登場し組織の規模や戦力はかなり大きいと思われる。
この集団が蜂起し表に出ると各国を巻き込んだ世界大戦となる可能性がある。
本部を襲撃され、謎のエンデ人だった最高司令を失った復興機関はこの危機にどう対応するのか。
レフトたちはどう動くのか。
この会合の終わりはレフトの物語の新たなる始まりとなる。
しおりを挟む

処理中です...