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14. The Idea
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北海道ニセコにあるディライトンホテルグループのMIYABIを無事にグランドオープンさせた陽一は、KEYの店があるディライトンプラザ2階、YFAフロア3周年記念イベントの準備に早速取り掛かっていた。
陽一は、イベントを企画する社員達との会議に参加しており、積極的に自分の意見を述べた。
YFAは、陽一が社長に就任する以前に立ち上げた事業で、無名なアーティストの作品を高級ホテル系列の商業施設で取り扱う事で当時世間の注目を浴びた。
「これで良いと思う。きっと素晴らしいイベントになるよ。楽しみだね。よろしくお願いします」
「はい」
ミーティングを終えた社員達は会議の内容を口々に確認しながら、会議室を後にした。すると、彼等と入れ替わるように陽一の秘書である柏木元が入室して来る。
「会議お疲れ様です」
「柏木君、お疲れ様」
1人会議室に残り、資料に目を通していた陽一が顔を上げると柏木に挨拶をする。
「会議、盛り上がっていたようですね。皆とても良い顔をしてましたよ」
「そうだね、今回のイベントはアーティストと同年代の若手社員達に任せる事にしたからね。頑張っているデザイナー達のサポートがしたいって張り切ってくれているよ」
「流石、社長!」
「僕を褒めに来てくれた訳じゃないよね?」
「あ、実はまたこんなのが経理から回ってきまして・・・・」
柏木はあまり気の進まない様子で1枚の書類を陽一の前に差し出した。
「? ・・・・198万円? 僕宛に? ニセコから? え? どういう事?」
「副社長が先月3日程ニセコのホテルに宿泊されたらしく、スイートルーム利用料と飲食代金等々の様です」
「また?!」
「は・・い」
陽一は、再度請求書に目を通す。
「・・オープンしたてのニセコでスイートって・・しかもお盆休みに ・・ですか」
副社長の結城省吾は、陽一の父、現会長である結城亮平の実弟、結城喜久の息子で、陽一の従兄だ。
陽一の父が社長であった頃、副社長であった弟の喜久が力を注いで立ち上げた事業が、リゾートホテル開発だった。喜久は、北海道、宮崎、沖縄の老朽化したディライトンホテルを、多額の資金を投入して高級会員制リゾートMIYABIに生まれ変わらせたのだ。だが、オープン当初から赤字経営が続いたため、一時は売却も検討されたが社長に就任した陽一が経営再建させた。
しかし、リゾート開発に心血を注いだ喜久親子からは賛同を得られず、初めから陽一の存在を快く思っていなかった彼等の心情に、火に油を注ぐ結果となってしまう。
陽一は、請求書を机上に置いた。
「明日、取締役会があるから副社長にそれとなく注意しておくよ。ま、視察と言われて経費扱いされると思うから、柏木君悪いけどまた処理しておいてくれる?」
「社長が、そうおっしゃると思って、もう経理にはそれとなく言ってあります。経理部長怒ってましたけど!」
「柏木君、いつも嫌な役させてごめんね。はぁ~経理の怒りたい気分、痛い程分かるよ~」
「社長のご心労お察しします」
「痛みいります」
「アハハハ それは余計な出費でしたが、ニセコ順調みたいですよ。それにニセコ限定 ‘KEYウィズ’ 橘さんとのコラボ商品即完売だったみたいで、問い合わせが殺到しているようです」
陽一は、ディライトンホテル限定商品を圭にお願いしているのだ。そして、その目玉となっているのが、各都市の名所や名物を少しだけデザインに忍ばせた地域限定商品で、KEYらしくシックな仕上がりのTシャツやトートバックが人気なのだ。
「それは、嬉しい知らせだね。イベントの良い宣伝にもなるよ」
陽一の脳裏に直人が浮かぶと無意識に少し頬が緩んでしまう。だが、すぐに浮かない表情になった。直人と会う機会が増える事を喜んでいいのか戸惑っていたからだ。
陽一のそんな面持が柏木には疲れに見えた。
「社長、ニセコから帰って来られてから、美来ちゃんの始業式以外、1日もお休み取られてないですよね。明日の取締役会の資料も出来上がっていますし、今日はもう何もありませんから、お帰りください」
「え? いいの?」
「はい。たまには、美来ちゃん達と食事にでも行かれてください」
「本当にいいの?」
「問題ありません。それにきっと隣で食事されるでしょ? 何かあったら呼びに行きます」
「本当に柏木君は僕の完璧すぎる秘書です」
「有難うございます」
柏木は、満面の笑顔で応えた。
陽一は、運転手の鮫島に早い帰宅を知らせると、美来達をディライトンホテルに連れて来るように頼んだ。
何故なら、陽一が食事をするのは決まってディライトンホテル最上階に位置するスカイラウンジ ‘サミット’ だったからだ。ラウンジと呼ばれるが、食事を取る事も可能で個室もあったため、陽一は家族でよく利用する。また‘サミット’のオーナー枇々木斗真は、大学時代からの友人だったのだ。
陽一は、サミットに予約の電話をすると、社長室の窓から外を眺めた。
夕日に照らされた街並みは、まるで燃えているかの如く赤く染まっていた。
直人は、コラボ用のデザインについて圭と彼の事務所で話合っていた。
「うわ! もうこんな時間! でもまぁまぁ進んだな」
「うん。ここまで結構良い感じだね。あとは、鞄とか小物をどうするか・・。ってそう言えば今日は別の男とデートだったね」
「そんな言い方するなよ。圭も一緒に来て良いって言ってるだろ」
「遠慮しとく。どうせ昔話とかで盛り上がって、僕を1人にさせるから」
「そんな事しないよ。フランスの話とか聞けてきっと勉強になると思うけどな」
「今回は ・・・・3年振りだっけ?」
「そ」
「じゃあ、やっぱりお邪魔だし、遠慮しとく。仕事も溜まってるしね」
「そっか。じゃ悪いけど、俺は先に帰らせてもらうよ」
「ヴァ ベーネ (OK)」
直人は、圭の事務所を後にすると、ディライトンプラザの隣に位置するディライトンホテルに向かった。
『ここの社長かぁ』
直人は、ホテルのロビーに足を踏み入れた途端、陽一の姿が頭に浮かぶ。
そして辺りを不自然ではない程度にキョロキョロと見渡した。
陽一に偶然会える事を期待しているのか、避けたいのか、自問自答をしながらホテルのエレベーターに乗り込んだ。
『しっかし何でいつも、ここのホテルに泊まるんだよ~ ってもしかして陽さんがここの社長だって知ってる? ・・まさか・な』
エレベーターには他の同乗者もいたため、どんどんと上に昇って行く階数表示板を眺めながら心で呟いた。
直人が、サミットに到着するとタキシード風の制服に身を包み、イヤホンとマイクを付けた案内係に声を掛けられた。
直人は、ここサミットの雰囲気が嫌いじゃなかった。それは、最上階からの眺めだけでなく壁の所々に見知らぬ画家が手掛けた作品が飾ってあるからだ。
『これも陽さんの提案なのかな?』
YFAフロアーを陽一が手掛けた事を知った直人は、ふとそう思った。
「あちらでございます。どうぞ」
直人は、店員に促されるままに窓側の方に進む。すると、見覚えのある男性が着席のままで手を振った。
「橘」
まだ、時間も早く混雑していないラウンジであったが、場の雰囲気を壊さない程度に抑えたトーンで直人に声を掛けた。
「先生、お久振りです」
直人は、高校時代の美術教師であった宇道の隣に並んだ。
陽一は、イベントを企画する社員達との会議に参加しており、積極的に自分の意見を述べた。
YFAは、陽一が社長に就任する以前に立ち上げた事業で、無名なアーティストの作品を高級ホテル系列の商業施設で取り扱う事で当時世間の注目を浴びた。
「これで良いと思う。きっと素晴らしいイベントになるよ。楽しみだね。よろしくお願いします」
「はい」
ミーティングを終えた社員達は会議の内容を口々に確認しながら、会議室を後にした。すると、彼等と入れ替わるように陽一の秘書である柏木元が入室して来る。
「会議お疲れ様です」
「柏木君、お疲れ様」
1人会議室に残り、資料に目を通していた陽一が顔を上げると柏木に挨拶をする。
「会議、盛り上がっていたようですね。皆とても良い顔をしてましたよ」
「そうだね、今回のイベントはアーティストと同年代の若手社員達に任せる事にしたからね。頑張っているデザイナー達のサポートがしたいって張り切ってくれているよ」
「流石、社長!」
「僕を褒めに来てくれた訳じゃないよね?」
「あ、実はまたこんなのが経理から回ってきまして・・・・」
柏木はあまり気の進まない様子で1枚の書類を陽一の前に差し出した。
「? ・・・・198万円? 僕宛に? ニセコから? え? どういう事?」
「副社長が先月3日程ニセコのホテルに宿泊されたらしく、スイートルーム利用料と飲食代金等々の様です」
「また?!」
「は・・い」
陽一は、再度請求書に目を通す。
「・・オープンしたてのニセコでスイートって・・しかもお盆休みに ・・ですか」
副社長の結城省吾は、陽一の父、現会長である結城亮平の実弟、結城喜久の息子で、陽一の従兄だ。
陽一の父が社長であった頃、副社長であった弟の喜久が力を注いで立ち上げた事業が、リゾートホテル開発だった。喜久は、北海道、宮崎、沖縄の老朽化したディライトンホテルを、多額の資金を投入して高級会員制リゾートMIYABIに生まれ変わらせたのだ。だが、オープン当初から赤字経営が続いたため、一時は売却も検討されたが社長に就任した陽一が経営再建させた。
しかし、リゾート開発に心血を注いだ喜久親子からは賛同を得られず、初めから陽一の存在を快く思っていなかった彼等の心情に、火に油を注ぐ結果となってしまう。
陽一は、請求書を机上に置いた。
「明日、取締役会があるから副社長にそれとなく注意しておくよ。ま、視察と言われて経費扱いされると思うから、柏木君悪いけどまた処理しておいてくれる?」
「社長が、そうおっしゃると思って、もう経理にはそれとなく言ってあります。経理部長怒ってましたけど!」
「柏木君、いつも嫌な役させてごめんね。はぁ~経理の怒りたい気分、痛い程分かるよ~」
「社長のご心労お察しします」
「痛みいります」
「アハハハ それは余計な出費でしたが、ニセコ順調みたいですよ。それにニセコ限定 ‘KEYウィズ’ 橘さんとのコラボ商品即完売だったみたいで、問い合わせが殺到しているようです」
陽一は、ディライトンホテル限定商品を圭にお願いしているのだ。そして、その目玉となっているのが、各都市の名所や名物を少しだけデザインに忍ばせた地域限定商品で、KEYらしくシックな仕上がりのTシャツやトートバックが人気なのだ。
「それは、嬉しい知らせだね。イベントの良い宣伝にもなるよ」
陽一の脳裏に直人が浮かぶと無意識に少し頬が緩んでしまう。だが、すぐに浮かない表情になった。直人と会う機会が増える事を喜んでいいのか戸惑っていたからだ。
陽一のそんな面持が柏木には疲れに見えた。
「社長、ニセコから帰って来られてから、美来ちゃんの始業式以外、1日もお休み取られてないですよね。明日の取締役会の資料も出来上がっていますし、今日はもう何もありませんから、お帰りください」
「え? いいの?」
「はい。たまには、美来ちゃん達と食事にでも行かれてください」
「本当にいいの?」
「問題ありません。それにきっと隣で食事されるでしょ? 何かあったら呼びに行きます」
「本当に柏木君は僕の完璧すぎる秘書です」
「有難うございます」
柏木は、満面の笑顔で応えた。
陽一は、運転手の鮫島に早い帰宅を知らせると、美来達をディライトンホテルに連れて来るように頼んだ。
何故なら、陽一が食事をするのは決まってディライトンホテル最上階に位置するスカイラウンジ ‘サミット’ だったからだ。ラウンジと呼ばれるが、食事を取る事も可能で個室もあったため、陽一は家族でよく利用する。また‘サミット’のオーナー枇々木斗真は、大学時代からの友人だったのだ。
陽一は、サミットに予約の電話をすると、社長室の窓から外を眺めた。
夕日に照らされた街並みは、まるで燃えているかの如く赤く染まっていた。
直人は、コラボ用のデザインについて圭と彼の事務所で話合っていた。
「うわ! もうこんな時間! でもまぁまぁ進んだな」
「うん。ここまで結構良い感じだね。あとは、鞄とか小物をどうするか・・。ってそう言えば今日は別の男とデートだったね」
「そんな言い方するなよ。圭も一緒に来て良いって言ってるだろ」
「遠慮しとく。どうせ昔話とかで盛り上がって、僕を1人にさせるから」
「そんな事しないよ。フランスの話とか聞けてきっと勉強になると思うけどな」
「今回は ・・・・3年振りだっけ?」
「そ」
「じゃあ、やっぱりお邪魔だし、遠慮しとく。仕事も溜まってるしね」
「そっか。じゃ悪いけど、俺は先に帰らせてもらうよ」
「ヴァ ベーネ (OK)」
直人は、圭の事務所を後にすると、ディライトンプラザの隣に位置するディライトンホテルに向かった。
『ここの社長かぁ』
直人は、ホテルのロビーに足を踏み入れた途端、陽一の姿が頭に浮かぶ。
そして辺りを不自然ではない程度にキョロキョロと見渡した。
陽一に偶然会える事を期待しているのか、避けたいのか、自問自答をしながらホテルのエレベーターに乗り込んだ。
『しっかし何でいつも、ここのホテルに泊まるんだよ~ ってもしかして陽さんがここの社長だって知ってる? ・・まさか・な』
エレベーターには他の同乗者もいたため、どんどんと上に昇って行く階数表示板を眺めながら心で呟いた。
直人が、サミットに到着するとタキシード風の制服に身を包み、イヤホンとマイクを付けた案内係に声を掛けられた。
直人は、ここサミットの雰囲気が嫌いじゃなかった。それは、最上階からの眺めだけでなく壁の所々に見知らぬ画家が手掛けた作品が飾ってあるからだ。
『これも陽さんの提案なのかな?』
YFAフロアーを陽一が手掛けた事を知った直人は、ふとそう思った。
「あちらでございます。どうぞ」
直人は、店員に促されるままに窓側の方に進む。すると、見覚えのある男性が着席のままで手を振った。
「橘」
まだ、時間も早く混雑していないラウンジであったが、場の雰囲気を壊さない程度に抑えたトーンで直人に声を掛けた。
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