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40. This is real ME
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陽一が、年末年始に行われる様々な行事について社員達とミーティングをしていると、秘書の柏木が慌てた様子で会議室に現れた。
「社長!」
「どうしたの? 珍しいね、そんなに慌てて」
「会長が、結城会長がご自宅で倒れられて病院に搬送されたと連絡がありました」
驚いた陽一は、思わず座席を立ってしまう。
「東都病院です。すぐに行ってください」
「わ ・・分かった。皆はこのまま会議を続けて。後はよろしくお願いします」
「ここは大丈夫です。社長急いでください」
陽一は、会議のテーブルに着く社員の思いやりを受け止めると、慌ててその場を立ち去った。
父、亮平が救急搬入された病院の廊下を小走りに進む陽一の耳に、子供達と父の声が聞こえてくる。
病室のドアを簡単にノックすると、応答を待たずにドアを開けた。
「パパぁ~」
「パパ パパ」
亮平のベッド脇で遊んでいた美来と悠人が満面の笑みで陽一の元に駆けてきた。
「あの・・お父さんが倒れたって聞いたのですが」
「おお、陽一ではないか」
「あらやだっ! 私、ホッとして家政婦の音無さんに電話するの忘れてたわ」
「相変わらず、忘れん坊だなぁ、蒼ちゃんは」
「ほんとね~」
陽一は、倒れたはずの父が元気に母といちゃついているのを眺めていた。
「パパ ・・お爺ちゃん、骨折れちゃったんだって」
「いたいでちゅね~」
美来と悠人が、陽一に事情を説明する。
「骨?」
陽一は話が掴めぬまま病室の入口で突っ立っていると、美沙がドアを開けた。
「あら、陽一君、来ちゃったのね」
「そりゃ来るよ。父親が倒れたって聞いたら」
「さっき陽一君の携帯に電話したんだけど、一足違い」
「どういうこと?」
「いや~、階段から落ちてね。頭を打って気を失っただけなのに大騒ぎになってしまって、すまなかったね」
「階段から落ちた?! 大丈夫なんですか?」
「ああ、異常は無いようだが、念のために暫く入院して精密検査をしてもらうよ。ついでに、蒼ちゃんと人間ドックもしようかとね」
「そう ・・だったんですか。良かった」
陽一は胸を撫でおろした。
「そうだ、美来、悠人、ここの上に美味しいケーキがあるみたいだぞ」
「ケーキ!」
「美来、ケーキ食べたい!」
亮平の言葉に美来と悠人は盛り上がる。
「美沙さん、すまないが孫達を上のカフェまで連れて行ってくれませんか? 私はちょっと陽一に話があるのでね」
「あ、はい。亮平おじさま。美来、悠人、美味しいケーキ食べに行きましょう」
「うわ~い」
「やった~」
「パパは?」
「パパはね、お爺ちゃんとお話があるから、終わったら美来と悠人の所に行くね。それまで美沙ちゃんの言う事をよく聞くんだよ」
「は~い!」
「は――い」
美来と悠人は勢いよく返事をすると病室を後にした。
子供達が居なくなった病室は一気に静けさを取り戻した。
「美緒さんも本当に素晴らしい女性だったけれど、美沙さんも素敵な人だ。なぁ、そう思うだろ陽一」
「本当にね~。美来も悠人もあんなに懐いているし、今ではお母さんみたいに可愛がってくれて、感謝しかないわ」
陽一には、亮平と蒼乃の話の着地点が見えていた。
【今度こそ強くなる】
陽一は、心で呟くと身体の脇にある両手をグッと握りしめた。
「陽ちゃん、美緒さんが亡くなってから、他にいい人っているの?」
「幸助さんから話があってね。もし、陽一に好きな人がいないのなら、美沙さんとの再婚を真剣に考えて欲しいと頼まれたのだよ」
「美沙さん、陽一の事を好きみたいよ」
亮平と蒼乃の言葉の1つ1つを口を挟まずに聞いていた陽一は、1つ深呼吸する。
「あの、僕からもお話があります」
「何だ。何でも話してみなさい」
「僕には、美緒さんと結婚をする前から心に決めた人がいます」
「何・・」
「陽ちゃん、そんな人がいるの、どうして今まで黙ってたの。どんな人?」
「画家で、とても可愛い人です。僕にとって、この世でたった一人、心から愛せる人です」
「そうか・・そういう事なら・・美沙さんとは」
「でも、決して、お父さんとお母さんには許して貰えない恋人です。だから美緒さんとの縁談を断れなかった。だけど・・僕はもう自分の気持ちに嘘をつきたくありません」
「陽ちゃんがそんなに好きな人を、どうして私達が許さないと思うの?」
「その人に問題があるのか?」
陽一は、唇をギュッと噛み締める。
「何故なら、僕の愛する人は、男だからです」
蒼乃の林檎を剥き始めた手が止まる。亮平は微動だにしない。
病室の空気が一気に凍りついた。
「なんて ・・なんて事だ! お前はゲイなのか!」
「違います」
「そうよ、亮平さん、だって美来と悠人が居るじゃない」
「母さん、それも違う!」
「どういう意味だ」
「僕は、彼以外の人には ・・不能なんです。あんなに美しい美緒と一緒に暮らしていても、たった一度も性的反応はありませんでした」
「馬鹿な! 何て事を! そんな屈辱を美緒さんに与えていたなんて!」
「でも、陽ちゃん ・・美来と悠人はどうやって?」
「人工授精です。今まで黙っていた事を心からお詫びいたします。母さんも、ごめんなさい」
陽一は、深々と亮平と蒼乃に頭を下げる。
亮平は怒りを露わにすると、蒼乃から林檎を奪い取り謝罪した状態の陽一に投げつけた。
「気分が悪い! 出ていけ! その顔を二度と見せるな!」
「・・・・陽ちゃん」
罵倒される陽一に対して、蒼乃は亮平に取り次ぐ事はしなかった。
陽一は、一旦下げていた頭を上げる。
「どのような処分も受ける覚悟は出来ています。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
そう言い残すと、陽一はもう1度深々と頭を下げ、病室を後にした。
先程まで、亮平の病室前に立っていた人影は、陽一が亮平に追い出される前には消えていた。
「社長!」
「どうしたの? 珍しいね、そんなに慌てて」
「会長が、結城会長がご自宅で倒れられて病院に搬送されたと連絡がありました」
驚いた陽一は、思わず座席を立ってしまう。
「東都病院です。すぐに行ってください」
「わ ・・分かった。皆はこのまま会議を続けて。後はよろしくお願いします」
「ここは大丈夫です。社長急いでください」
陽一は、会議のテーブルに着く社員の思いやりを受け止めると、慌ててその場を立ち去った。
父、亮平が救急搬入された病院の廊下を小走りに進む陽一の耳に、子供達と父の声が聞こえてくる。
病室のドアを簡単にノックすると、応答を待たずにドアを開けた。
「パパぁ~」
「パパ パパ」
亮平のベッド脇で遊んでいた美来と悠人が満面の笑みで陽一の元に駆けてきた。
「あの・・お父さんが倒れたって聞いたのですが」
「おお、陽一ではないか」
「あらやだっ! 私、ホッとして家政婦の音無さんに電話するの忘れてたわ」
「相変わらず、忘れん坊だなぁ、蒼ちゃんは」
「ほんとね~」
陽一は、倒れたはずの父が元気に母といちゃついているのを眺めていた。
「パパ ・・お爺ちゃん、骨折れちゃったんだって」
「いたいでちゅね~」
美来と悠人が、陽一に事情を説明する。
「骨?」
陽一は話が掴めぬまま病室の入口で突っ立っていると、美沙がドアを開けた。
「あら、陽一君、来ちゃったのね」
「そりゃ来るよ。父親が倒れたって聞いたら」
「さっき陽一君の携帯に電話したんだけど、一足違い」
「どういうこと?」
「いや~、階段から落ちてね。頭を打って気を失っただけなのに大騒ぎになってしまって、すまなかったね」
「階段から落ちた?! 大丈夫なんですか?」
「ああ、異常は無いようだが、念のために暫く入院して精密検査をしてもらうよ。ついでに、蒼ちゃんと人間ドックもしようかとね」
「そう ・・だったんですか。良かった」
陽一は胸を撫でおろした。
「そうだ、美来、悠人、ここの上に美味しいケーキがあるみたいだぞ」
「ケーキ!」
「美来、ケーキ食べたい!」
亮平の言葉に美来と悠人は盛り上がる。
「美沙さん、すまないが孫達を上のカフェまで連れて行ってくれませんか? 私はちょっと陽一に話があるのでね」
「あ、はい。亮平おじさま。美来、悠人、美味しいケーキ食べに行きましょう」
「うわ~い」
「やった~」
「パパは?」
「パパはね、お爺ちゃんとお話があるから、終わったら美来と悠人の所に行くね。それまで美沙ちゃんの言う事をよく聞くんだよ」
「は~い!」
「は――い」
美来と悠人は勢いよく返事をすると病室を後にした。
子供達が居なくなった病室は一気に静けさを取り戻した。
「美緒さんも本当に素晴らしい女性だったけれど、美沙さんも素敵な人だ。なぁ、そう思うだろ陽一」
「本当にね~。美来も悠人もあんなに懐いているし、今ではお母さんみたいに可愛がってくれて、感謝しかないわ」
陽一には、亮平と蒼乃の話の着地点が見えていた。
【今度こそ強くなる】
陽一は、心で呟くと身体の脇にある両手をグッと握りしめた。
「陽ちゃん、美緒さんが亡くなってから、他にいい人っているの?」
「幸助さんから話があってね。もし、陽一に好きな人がいないのなら、美沙さんとの再婚を真剣に考えて欲しいと頼まれたのだよ」
「美沙さん、陽一の事を好きみたいよ」
亮平と蒼乃の言葉の1つ1つを口を挟まずに聞いていた陽一は、1つ深呼吸する。
「あの、僕からもお話があります」
「何だ。何でも話してみなさい」
「僕には、美緒さんと結婚をする前から心に決めた人がいます」
「何・・」
「陽ちゃん、そんな人がいるの、どうして今まで黙ってたの。どんな人?」
「画家で、とても可愛い人です。僕にとって、この世でたった一人、心から愛せる人です」
「そうか・・そういう事なら・・美沙さんとは」
「でも、決して、お父さんとお母さんには許して貰えない恋人です。だから美緒さんとの縁談を断れなかった。だけど・・僕はもう自分の気持ちに嘘をつきたくありません」
「陽ちゃんがそんなに好きな人を、どうして私達が許さないと思うの?」
「その人に問題があるのか?」
陽一は、唇をギュッと噛み締める。
「何故なら、僕の愛する人は、男だからです」
蒼乃の林檎を剥き始めた手が止まる。亮平は微動だにしない。
病室の空気が一気に凍りついた。
「なんて ・・なんて事だ! お前はゲイなのか!」
「違います」
「そうよ、亮平さん、だって美来と悠人が居るじゃない」
「母さん、それも違う!」
「どういう意味だ」
「僕は、彼以外の人には ・・不能なんです。あんなに美しい美緒と一緒に暮らしていても、たった一度も性的反応はありませんでした」
「馬鹿な! 何て事を! そんな屈辱を美緒さんに与えていたなんて!」
「でも、陽ちゃん ・・美来と悠人はどうやって?」
「人工授精です。今まで黙っていた事を心からお詫びいたします。母さんも、ごめんなさい」
陽一は、深々と亮平と蒼乃に頭を下げる。
亮平は怒りを露わにすると、蒼乃から林檎を奪い取り謝罪した状態の陽一に投げつけた。
「気分が悪い! 出ていけ! その顔を二度と見せるな!」
「・・・・陽ちゃん」
罵倒される陽一に対して、蒼乃は亮平に取り次ぐ事はしなかった。
陽一は、一旦下げていた頭を上げる。
「どのような処分も受ける覚悟は出来ています。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
そう言い残すと、陽一はもう1度深々と頭を下げ、病室を後にした。
先程まで、亮平の病室前に立っていた人影は、陽一が亮平に追い出される前には消えていた。
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