僕の恋愛スケッチブック

美 倭古

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44. Deep Hatred

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 ディライトングループ本社には、役員専用の駐車場が地下1階にあった。だが、リムジン車等を利用するVIPのために、地下2階にも駐車場を用意していたのだ。しかし、殆ど利用されないためいつも閑散としていた。
 陽一は、省吾に頼まれた通りVIP専用駐車場に到着すると、駐車スペースの一番端にポツンと1台だけ停めてある省吾の車が目に入る。
「あんな端っこに停められちゃって寂しそうだな。鍵は車内か。不用心だと思ったけど、専用キーがないと地下2階に来れないし、大丈夫そうだね」
 静かな駐車場で反響する陽一の独り言をかき消すように、再び省吾からの電話が鳴る。

「もしもし、省吾さん。車ありました。今から向かいますね」
「陽一、お前に話しておきたいことがある」
「あ、はい」
「僕はな、美緒ちゃんを心の底から愛していたんだ」
 省吾の憎悪が込められた重苦しい声に陽一は足が竦み、言葉を失ってしまう。

「僕はね、颯馬君が大好きだったし男として憧れていた。だから、幼い時に抱いた美緒ちゃんへの恋心は、誰にも知られないまま諦めたんだ。だけど颯馬君が死んだ時、美緒ちゃんを支えてあげられるのは僕だけだと思ったよ。なのに、どこの馬の骨とも分からないお前が、しゃしゃり出て来て、美緒ちゃんだけでなく社長の座まで奪いとりやがった。だがな、悔しいが美緒ちゃんが幸せそうにしていたから、僕は堪えたんだ」
「省吾・・さん」
 陽一は初めて耳にする省吾の本音に背筋が凍ると携帯を持つ手に汗が滲み始める。

「美緒ちゃんは、あんな身体になってでも頑なに悠人を産むのを諦めなかった。僕は、二人が強く結ばれているからだと信じてたよ。だから反対しなかったんだ。それなのに、お前は美緒ちゃんが死んだら、直ぐに美沙ちゃんまでたぶらかしやがって! 腸が煮えくり返る思いだったよ。でも僕はお前と違って人間が出来ているからね我慢したんだ。いつかお前を蹴落とすつもりでいたからな。そんな時、例の噂のお陰で美沙ちゃんは目を覚ましてくれたし、お前が社長を首になっていればそれで良かったんだ」

 陽一は、省吾が自分を毛嫌いしているのは知っていた。それが社長に就任してから悪化したのも気付いていた。だが、美緒への想いは初耳であり、これほどまでに恨まれていた事実に愕然とする。

「僕はね、美緒ちゃんが幸せだと信じていたんだ。まさか虐げられていたとはね ・・あんなに素敵な美緒ちゃんと結婚出来て、一緒に住んでいながら性的反応が無かっただと! 心に決めた奴が男だと! バイセクシャルだと! 不能だと! 人工授精だと! 美緒ちゃんはな、お前の子供を産むためだけに利用されて死んだんだ! お前に殺されたんだ! 愛人の子供の分際で何様のつもりだ! どこまで僕をこけにすれば気が済むんだ! 美緒ちゃんがこんな奴から屈辱を受けていたのを、もっと早くに知っていれば・・僕が助けてあげたのに」

 省吾の怒りは陽一に、もし美緒との縁談を断っていたら、美緒は省吾と幸せに暮らせたのだろうかと思わせた。

「僕はお前が心底嫌いだ。お前の事を考えると毎日腹ただしい気分になる。今日、総会でお前が首になって、好きな男とやらと僕の知らない所へ行ってしまえば良かったんだ」
 全ての怒りを吐き出したからか、省吾が突然静かになる。美緒の死に関して自責の念を抱えていた陽一は、省吾に謝罪の言葉を掛けようとした時、先程までの罵倒ではなく冷え切った口調で省吾は続けた。

「僕はもう疲れたんだ、こうやってイライラすることにも、お前の顔を見るのにもな ・・だけどさ、分かったんだ ・・お前が消えれば僕の生活は元通りになるって事を。僕がこんな風になったのも全部お前が現れてからだ。それに、美緒ちゃんの屈辱も晴らしてあげないとね・・だからさぁ 陽一 ・・死んでくれよ」

 省吾からの恐ろしい一言の後、突然陽一の背中に鈍痛が走ると、なぜか生暖かい液体が背に広がっていく感触がした。
「ここってだ~れも来ないからさ、一人で寂しく死んでしまえ。見つかった時はもうあの世だ。 ざまあみろ! ウワハハハハハ」

 陽一は、電話から聞こえる省吾の笑い声が遠のいていくと、目の前が暗くなり意識が消えていく。
「直・・・・」
 
 駐車場から見知ら人影が走り去った後には、地面に横たわる陽一が一人残され、彼の辺りを赤く染めていった。

 直人は、陽一の訪問を考えると今朝から居ても立っても居られず、家の掃除に没頭していた。身体を動かしていないと頬が緩むのを制御できないでいたからだ。
 省吾の家に寄ってから直人に会いに来ると、陽一からの連絡があってから、随分の時間が経過していた。
「ちょっと遅いなぁ~ もしかして、家族と盛り上がってるのかな?」

 やっと家族の仲間入りが出来るかもしれないと、電話口の向こうで話す陽一は、本当に嬉しそうで直人も自分の事のように喜んだ。
「陽さんが8年間頑張った成果。当たり前だよ ・・本当に良かった」
 直人の雑巾を絞る手が強くなる。
 陽一の噂の動向が気になっていた直人は、今朝からテレビを付けたままにしていた。ワイドショーでは少しだけ話題になっていたが、以前ほどの勢いはなくこのまま下火になってくれればと直人は願い、また陽一が株主総会で解任にならなかった事もポジティブ要素になればいいと祈った。

「それにしても、陽さん遅いな~」
 掃除とテレビに集中していた直人が、ふと時計を見上げた時、いつの間にか多くの精霊に囲まれている事に気付く。
 直人は、絵を描く時以外、さほど精霊達の行動に意識を集中させない。天気の変化などいつもと大きく違う動きを見せている時だけ気に掛ける程度だ。そして、今までにこれ程複数の精霊が家の中に入って来た事もなかった。

「直・・」
 陽一の声が聞こえた気がして上を向く。
「陽さん?」
 直人は突如烈々しい胸騒ぎに襲われると背筋が寒くなった。
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