[完結]クミホの恋はつづくよ～天狗の恋は神さえ惑わす時～

第2章：結婚適性試験スタート！

24話：天狗の寿命問題

くみほは、くらまと並んで
天狗界の庭園を歩いていた。

天狗の世界に来てしばらく
経つが、試練は次々と
続いている。

くらまの母・天狗姫からも
試されたが、彼女なりに
認めてもらえたような気が
する。

だが——

「……くらま」

「ん？」

「天狗って、
どのくらい生きるの？」

くらまは唐突な質問に
少しだけ眉を動かし、
淡々と答えた。

「まぁ、千年やそこらは
普通に生きるな」

「千年……」

その言葉に、くみほは
ふと立ち止まる。

千年——
人間の寿命の十倍以上。

自分が生きるのは、
せいぜい八十年。

もしも、くらまと一緒に
いたとしても、自分が
年老いたとき、くらまは
まだ若いままなのだ。

（……そんなの、
不公平じゃない？）

くらまの隣で、しわくちゃ
の自分がいる姿を想像して
しまい、思わず苦笑する。

（私が年老いた時、
くらまは……どう思うん
だろう）

⸻

寿命の違いを超えることは
できる？

「お前、人間の寿命のことを
考えているな」

くらまはくみほの表情から、
彼女の考えをすぐに見抜いた。

「……うん」

隠すことなく、正直に頷く。

「くらまは、気にならないの？」

「何が？」

「私が先に老いて、くらまが
ずっと若いままだったら……」

「そんなことは関係ない」

くらまは即答した。

まるで、迷うことすらない
ような口ぶりだった。

「お前はお前だ。年を取ろうが、
人間だろうが、それが俺の
気持ちを変える理由には
ならない」

「でも……」

「お前はどうなんだ？」

「え？」

「お前は、俺が千年以上
生きることが気になる
のか？」

「それは……」

言葉に詰まる。

くらまと一緒にいるのが
楽しい。

もっと彼のことを知り
たいし、彼と過ごす時間を
大切にしたいと思う。

でも、その未来が長く続か
ないと分かっていたら——

「お前は今を考えろ」

くらまが言った。

「俺はお前といることを
選んだ。それだけで十分
だろう？」

「……うん」

くらまの言葉に安心しな
がらも、くみほの心の
奥には、まだ迷いが
残っていた。

⸻

大天狗からの
告げられた“制約”

その夜、大天狗が二人を
呼び出した。

「そろそろ話しておくべき
ことがある」

くみほは不安を抱え
ながら、大天狗の前
に正座する。

「天狗と人間が結ばれる
場合、避けて通れない
問題がある」

「それは……
やっぱり寿命のこと
ですか？」

大天狗はゆっくりと
頷いた。

「そうだ。しかし、
それだけではない」

「え？」

「天狗と人間の婚姻には、
ある“制約”があるのだ」

くらまが眉をひそめる。

「そんな話は聞いたこと
がないが？」

「昔からの掟だからな。
滅多に起こることでは
ないため、知る者も少ない」

大天狗は静かに語り始めた。

「天狗と人間が結婚する場合
——人間側の寿命が変化する
可能性がある」

「……え？」

くみほは息をのんだ。

「どういうことですか？」

「天狗の力の影響を受け、
人間の寿命が延びること
がある」

「じゃあ、私は……
くらまと同じくらい
生きられるってこと？」

「可能性としては、な」

それは、思いもしな
かった事実だった。

（私が、くらまと同じ時間
を生きられるかも
しれない……？）

だが——

「しかし、それには
大きな代償が伴う」

「代償……？」

「天狗の力を受け入れる
ことは、人間であること
を捨てることと同じだ」

「……！」

「お前は、
それを受け入れられる
のか？」

くみほの心が大きく
揺れる。

⸻

くみほの迷い

「人間であることを
捨てる……？」

その言葉が、くみほの
頭の中で何度も反響した。

「それはつまり、
普通の人間の生活が
できなくなるってこと
ですか？」

「そういうことだ」

くらまがくみほを
見つめる。

「お前が人間のままで
いたいなら、無理に
天狗の力を受け入れる
必要はない」

「でも……」

もし、自分がくらまと
同じ寿命を持てたら——

ずっと一緒にいられる。

でも、それは同時に、
人間としての生を捨てる
ことになるのだ。

（そんな選択、すぐには
できないよ……）

迷いを隠せないまま、
くみほは夜空を見上げた。

満天の星が、まるで
彼女の心の迷いを映して
いるようだった。

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