[完結]クミホの恋はつづくよ～天狗の恋は神さえ惑わす時～

第2章：結婚適性試験スタート！

25話：善狐様の過去と決意

くみほは、くらまとともに
天狗の世界での試練を
乗り越えてきた。

しかし、前回の試練で突き
つけられた現実——
「天狗と人間の寿命の差」が、
彼女の心を大きく揺さぶって
いた。

もし、くらまと同じ寿命を
持てるとしたら？

しかし、それはつまり、
人間であることを捨てること。

自分は本当に、その覚悟が
あるのだろうか？

⸻

善狐様の突然の誘い

「悩んでいるようだな」

くみほが一人、湖のほとりで
物思いにふけっていると、
優雅な声が響いた。

「善狐様……？」

そこにいたのは、くみほの師
とも言える存在、善狐様
だった。

「珍しいな。お前がこんなに
考え込むとは」

「……善狐様なら、妖怪と
人間の違いをどう考え
ますか？」

「ふむ……」

善狐様はくみほの隣に
腰を下ろし、静かに湖を
見つめた。

「そうだな。昔、私も
似たような悩みを抱えた
ことがある」

「え？」

「……私も、かつて人間の
女性を愛したことが
あったのだ」

⸻

善狐様の過去

くみほは驚きのあまり、
思わず善狐様を見つめた。

「善狐様が、人間を？」

「意外か？」

「だって、善狐様はいつも
『人間なんて脆いもの』とか
『妖怪と人間が深く関わる
のはリスク』って言って
たのに……」

「それは、私自身が身を
もって知ったからだ」

善狐様は苦笑しながら、
静かに話し始めた。

「彼女は、美しく、賢く、
そして私を恐れない
強い心を持っていた」

「……まるで、
お前のようだったな」

くみほの胸がドキリと
鳴る。

「しかし——
彼女は人間だった。私は
妖怪だった。それだけで、
私たちは結ばれることは
なかった」

「……どうして？」

「人間の時間は、妖怪より
もはるかに短い。彼女は
年老い、私は若いまま。
やがて彼女は気づいた
のだ——私の時間は、
彼女とは違うという
ことに」

善狐様は目を閉じ、
かすかに笑った。

「彼女は最後に言った。
『あなたが私を愛しても、
私の人生は限られている。
でも、あなたはこの先、
ずっと生きていく。
その時、あなたの中で
私はただの思い出になって
しまうのが怖い』と」

「……」

「そして、彼女は去った。
それ以来、私は『人間を
愛すること』に否定的に
なった」

善狐様の声には、どこか
寂しさが滲んでいた。

⸻

くみほの決意

「だから、お前にも言おう」

善狐様はくみほを
じっと見つめる。

「お前は人間だ。天狗とは
違う時間を生きる。それを
受け入れた上で、くらまと
一緒にいる覚悟があるのか？」

「……私は……」

くみほはぎゅっと拳を握った。

くらまの隣にいたい。

彼と過ごす時間が楽しい。

彼といると、自分が
自分らしくいられる——。

（だったら、答えは
決まってるじゃない！）

くみほはゆっくりと
善狐様を見上げた。

「私は、くらまと一緒に
いたいです」

「……」

「寿命の差があったって、
人間のままだったって、
くらまと一緒にいることを
諦めたくない。だから、
私は……私の選択をしたい！」

善狐様はしばらく
くみほを見つめた後、
ふっと微笑んだ。

「……お前も変わったな」

「え？」

「最初は計算高くて、
恋愛なんてくだらないと
言っていたくせに」

「うっ……」

くみほは顔を赤くする。

「……善狐様が、昔の恋を
後悔してるなら……」

「いや」

善狐様は軽く首を振った。

「私は、後悔していない。
愛したことも、彼女が
去ったことも、すべて
含めて“事実”だ。
だが——もし、もう一度
選べるなら、私は彼女を
手放さなかったかも
しれない」

「……」

「だから、お前は悔いの
ないようにしろ。どんな
選択をしてもな」

善狐様は立ち上がり、
くみほの頭をポンと
軽く叩いた。

「さあ、行け。
くらまが待っているぞ」

「……はい！」

くみほは晴れやかな
気持ちで立ち上がる。

（もう迷わない）

私は、くらまと一緒に
いたい。

そのために、自分の
答えを見つけるんだ——！

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