[完結]おっさん、異世界でスローライフ はじめます 2 〜猫耳少女とふしぎな毎日~

桃源 華

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第一章:異世界でもう一度、スローライフ

第9話初収穫はバジルと惨劇

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朝からレオンの畑にざわざわと
猫耳が揺れていた。
「ついにこの日が来たにゃ!」
 ミュリが尻尾をブンブン振り回し
ながら、バジルの苗に顔を近づけて
いた。目がキラキラしてる。

「ミュリ、それ以上近づくと
葉っぱ取れちゃうぞ」
「大丈夫だよレオンっ! ミュリは
今日はやる気満々なのにゃ!」

 そう宣言して彼女が踏み出した
一歩が、まさかバジル畝の中だった
のは想定外だった。

「ミュリィィィィ! 
そこ、畝の中ーッ!!」
「あっ、あれっ!? あれれれれ!? 足が、バジルにっ!?」

 ミュリの猫耳がしょぼんと折れ、
しっぽがだらんと落ちる。
 案の定、三株が彼女の足の下で
ぺしゃんこになっていた。

「……初っ端からやらかしたわね」
 ツンデレ猫耳のリンが腕を組んで
呆れている。

 チャチャが火属性ハーブの作業を
中断して、遠くからボソッと呟いた。
「べ、別に……心配してたわけじゃない
けど……またレオンが頭抱えるって
思ってただけよ!」

「……バジル、強く生きて」
 スイが水をあげながら呟く。
葉にしみじみと水を滴らせている。

「にゃーん! バジルちゃん、
ごめんなさいにゃ! でも大丈夫、
ミュリには最終兵器があるのにゃ!」

 そう言って取り出したのは、
なぜかスパイスの瓶。
「これは……“香りで誤魔化す”
作戦なのにゃっ!」

「それもう収穫関係ないだろ!!」
とレオンがツッコミを入れると、
「むしろ加工後じゃねぇか」と
ノアが冷静にメガネを直した。

「そもそも、バジルの香りを
嗅がせたいのに別の香りで
上書きしたら本末転倒では……?」
 ノアの理論的指摘に、ミュリの
耳がさらに折れる。

「うぅ……ミュリ、農業には向いて
ないのかもにゃ……」
「今さら気づいたの?」
「ぐぅぅ、リン、ミュリの心に
クリティカルヒットにゃ……」

 そのとき、元気爆発のビビが
泥まみれで突進してきた。
「バジル取れたよー!! 
あっ……あれ? これ、ミント?」

 手にしているのはどう見ても
別のハーブだった。

「おまえ、また違う畝から刈ったのか!?」
「やっちまった~☆」

 レオンが頭を抱えていると、
チャチャが火属性ハーブの管理
から戻ってきて、
「でもこのミント、なんか
元気ないね……」

 スイが無言でそっと水をかける。
ミントが急にシャキッと立ち直る。

「スイ……やっぱすげえな……」
「……水、あげた」

「よし、もう収穫作業はスイに
任せよう」
「異議なしにゃ!」

 その後、レオンが仕分けたバジル
の束は立派な見た目で、村の市場
でも人気を博すことになる。

 だがその裏で、ミュリがこっそり
混入させた“秘密のスパイス”入りの
瓶がひとつ、そっと積まれていた
ことを……このとき誰も知らなかった。

 ──その夜、村のスープ屋で異様に
辛いバジルスープが話題になったのは、
また別のお話。
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