[完結]おっさん、異世界でスローライフ はじめます 2 〜猫耳少女とふしぎな毎日~

桃源 華

文字の大きさ
45 / 61
第四章:スパイスの旅と異世界の謎

第34話 カイの正体と“元の世界”の影

しおりを挟む
「お、おかしいにゃ……カイが火を怖がってない……だと?」

ミュリが尻尾をぶんぶん振りながら、畑の隅で火を焚くカイを遠巻きに見つめていた。レオンがスコップ片手に近づく。

「なあ、カイ。お前、火が怖いんじゃなかったのか?」

「うむ、かつてはそうだったが……今は違う。これは、心の成長というやつだ」

「って、どこの武士!?」

レオンが思わず突っ込むと、カイは口元だけでふっと笑い、スコップで火を弄って見せる。

「昔の話だ、レオン。そろそろ、話しておくべきかもしれんな……我が“正体”を」

ミュリの耳がぴこぴこ動いた。

「え!? まさか、カイって……スパイスの精霊だったとか!? それとも、前世でレオンの猫だったとか!?」

「どっちにしても微妙すぎるだろ」

レオンが真顔で突っ込む中、カイは少し間を置き、口を開いた。

「俺は……“異世界から来た者”だ」

「……」

「…………」

「レオンー!? いまの聞いた!? またひとり転生者!? 異世界人来すぎじゃない!?」

ミュリの猫耳が逆立ち、尻尾がぐるぐる高速回転している。

「落ち着けミュリ。まず深呼吸だ。ほら、しっぽで地面掃いてるぞ」

「うにゃーっ! だって! 異世界ってレオンだけの特権じゃなかったのー!?」

レオンはカイを見て、眉をしかめた。

「それ、本当なのか?」

「本当だ。もっとも、俺は“転生者”ではなく、“召喚者”だがな」

「召喚だと……?」

カイは焚火に小枝を放り込みながら、ぽつぽつと語り始めた。

「俺がこの世界に来たのは、十数年前。研究中の事故でこの世界に飛ばされ、気づけば猫耳をつけられていた」

「猫耳つけられてたってなに!? だれがそんなことを!?」

「……知らん。だが、気づけば“ベンガル種の猫耳獣人”として戸籍ができていた」

「行政仕事はやっ!!」

レオンが素で驚く中、ミュリがじわじわとカイに近寄る。

「でも……じゃあ、カイもレオンと同じ、元の世界に家族とか……好きなものとか……あったの?」

「あるには、あった。……だが今は、この世界が俺の居場所だ」

その言葉に、ミュリの耳がふにゃっと下がる。

「……それって、ちょっとさみしいにゃ」

「それでいいんだよ、ミュリ」

レオンがやさしく笑ってミュリの頭をぽんぽんとなでると、猫耳が元気よくぴくんと立ち直った。

「にゃはーっ! 元気出た! じゃあ、さっそく“カイ歓迎・正体バレパーティー”開催だー!」

「おい、待て。歓迎されるような話だったか?」

「細けぇことはいいにゃ!」

その夜、村の広場では“転生者と召喚者の奇跡の出会い記念祭”と銘打たれた宴が開かれた。

もちろん、主催はミュリ。そして料理担当は……。

「ミュリ、包丁はもういいから、スイに交代しろ。お前が野菜切ると、繊維じゃなく世界が壊れる」

「ひどいにゃ! レオンの言葉の刃の方が鋭いにゃ!」

「せっかくの祭りが“胃腸地獄祭”になる前に止めてるだけだ」

その横ではスイが静かに「……水、あげた」とだけ呟きながら、野菜を洗っていた。

ノアはカイの話に興味津々で、すでに“異世界召喚理論と猫耳進化過程”という論文草案をメモしている。

チャチャとリンは、なぜか焚火の火加減についてバトル中。

「この火力は違うでしょ! ほら、ハーブ焦げてる!」

「う、うるさいなっ! べ、別に焦がしたって、香ばしさが増すんだから!」

その隣では、ビビがひとり雑草と格闘していた。

「どっちだ!? こっちが雑草!? それともあっち!? わからーん!!」

レオンは一歩離れてその騒がしい宴を見ながら、ふっと息をついた。

「まさか、カイまでこっち側だったとはな……」

「ま、“異世界人がハーブ育てて猫耳たちとスローライフ”なんて状況、すでに常識なんて意味ないけどね」

カイが並んで腰を下ろし、同じように宴を見渡す。

「レオン。俺は、ここに来れてよかったと思ってる」

「……俺もだよ。こっちに来て、ミュリたちに会えて……本当に、毎日が面白い」

「まさか“料理禁止令”出されるほどの猫耳少女がいるとは、誰も思わなかっただろうがな」

「ほんとにな……あいつが包丁持っただけで村人逃げたからな……」

ふたりは、同時にくすくすと笑った。

こうして、異世界の片隅で――
またひとつ、不思議な日常が積み重なっていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた! 「この力があれば、家族を、この村を救える!」 俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。 「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」 孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。 二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。 優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

追放勇者の土壌改良は万物進化の神スキル!女神に溺愛され悪役令嬢と最強国家を築く

黒崎隼人
ファンタジー
勇者として召喚されたリオンに与えられたのは、外れスキル【土壌改良】。役立たずの烙印を押され、王国から追放されてしまう。時を同じくして、根も葉もない罪で断罪された「悪役令嬢」イザベラもまた、全てを失った。 しかし、辺境の地で死にかけたリオンは知る。自身のスキルが、実は物質の構造を根源から組み替え、万物を進化させる神の御業【万物改良】であったことを! 石ころを最高純度の魔石に、ただのクワを伝説級の戦斧に、荒れ地を豊かな楽園に――。 これは、理不尽に全てを奪われた男が、同じ傷を持つ気高き元悪役令嬢と出会い、過保護な女神様に見守られながら、無自覚に世界を改良し、自分たちだけの理想郷を創り上げ、やがて世界を救うに至る、壮大な逆転成り上がりファンタジー!

処理中です...