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第四章:スパイスの旅と異世界の謎
第35話スパイスを届けに来ただけなのに
しおりを挟む「うおおおっ!? なんで追いかけられてるんだ俺!?」
レオンは全速力で畑道を駆け抜けていた。両腕には大切なスパイスの小瓶がぎっしり詰まった木箱。そして、その背後には──
「このぉ~っ!この前の激辛地獄鍋の復讐をさせろぉっ!」
「わ、悪かったって言ってるだろ!? あれはミュリが勝手に配合変えたんだってば!」
「レオンさーん!辛さで口から火が出た村人のおばあちゃん、まだ咳き込んでるよぉ~!」
「ミュリのせいだってばぁああ!」
レオンの叫びも空しく、村の住人が何人か松明片手に追いかけてくる。いや、なんでスパイス届けに来ただけで追われるんだ、俺!?
──数時間前。
「レオン、お願いにゃっ!」
猫耳少女ミュリが、ぴょこんと耳を立てながらレオンに詰め寄った。
「頼まれたスパイス、村の人に届けてきてにゃ! この前の『パッション・レッド・ブレンド』、再評価されてるにゃ!」
「は?あの口から火が出るレベルのやつ?」
「そうにゃ!おばあちゃんが“腰痛が治った気がする”って言ってたにゃ!」
「副作用の範囲が広すぎるだろ!」
「むしろ効能にゃ!」
全く説得力のないミュリの押しに負け、レオンは渋々スパイスを届けに出かけたのだった──が、結果は追いかけられている今に至る。
🐈🐾 🐾 🐾
「はあっ……はあっ……やばい、そろそろ体力の限界……!」
ようやく森の外れまで逃げ込んだレオンは、スパイスの箱を抱えて木の陰に身を潜めた。
「……ふふ。やっぱり、届けてきて正解だったにゃ」
「ミュリ!? なんでこんなとこに!?」
木の上から顔を覗かせたミュリは、満足げにしっぽをふわふわ揺らしていた。
「実はね、今回のスパイス……新作にゃ! 名前は『パッション・レッド・ブレンド改・改』!」
「改めすぎだろ!なんだよ“改・改”って!」
「前の失敗から学んだにゃ。今回は“ちょっとピリ辛”くらいに抑えたはずにゃ」
「“はず”っておい!まさか試食してないのか!?」
「……味見はチャチャに任せたにゃ」
「チャチャってあの火属性のツンデレ猫!? 絶対味覚バグってるだろ!!」
「べ、別にあんたのために味見したわけじゃないしっ! ただ、ちょっと舌が焼けただけよっ!」
「やっぱり辛すぎたんじゃねえかああああっ!」
レオンは天を仰いで倒れこんだ。猫耳仲間の味覚がバラバラすぎるこのチーム、もう少し統一してくれ……。
🐈🐾 🐾 🐾
その後、騒動の原因となったスパイスは、実は「風邪予防に効くらしい」と村の老婆ネットワークで広がり、「スパイス風呂」として再利用されることに。
「……おかげで、今日は村中スパイスの香りにゃ」
「なんだこのカレー風呂みたいな香り……風呂から出たら飯が食いたくなるな……」
「“飯テロ風呂”って呼ばれてるにゃ」
「それもう完全に罰ゲームだろ!」
と、そこへ猫耳仲間のノアがやってきた。メガネをくいっと上げながら、冷静に口を開く。
「記録しておこう。“スパイス風呂、発汗作用に優れるが、夜中にカレーを食べたくなる副作用あり”」
「やめてくれそのメモ帳! 村人のダイエット計画が崩壊する!」
「……水、あげた」
突然現れたのは無口猫スイ。手にはジョウロ、目線は畑のハーブ苗に向けられている。
「うん、スイはいつも通りで安心するな……」
「ってことで、またスパイス作りがんばるにゃっ!」
「……あのさ、俺、本当はのんびりスローライフを送りたかったんだけど」
「今のがスローライフにゃ!」
「どこがああああ!?」
──こうして、レオンの“スパイス配達騒動”はなんとか幕を下ろしたが、村ではまた新たな“香辛料ブーム”が巻き起ころうとしていたのだった。
次回、「ハーブの香りとトラブルの予感」お楽しみに──にゃっ!
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