[完結]おっさん、異世界でスローライフ はじめます 2 〜猫耳少女とふしぎな毎日~

桃源 華

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第五章:畑と未来と、ちょっぴり成長

第43話:スイ、超絶品ハーブティーを無言で淹れる

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「……」

「お? スイ、何してるんだ?」

レオンがそう声をかけた相手は、例のごとく黙ってティーポットにお湯を注いでいる、灰猫耳の無口少女・スイだった。

「水、あげた……から、今は……お茶」

「なるほど。相変わらず情報量が少ねぇ!」

レオンが苦笑すると、スイはポットから立ちのぼる湯気をじっと見つめていた。

「これ、ミント……と、レモングラス……と、ちょっとだけ……秘密の葉」

「秘密!? ちょっと待て、飲んで平気なやつかそれ!?」

「……たぶん」

「たぶん!? “たぶん”って一番怖ぇんだよ!」

そこへ、元気よく駆け込んでくる足音。

「スイ~! なになに!? また怪しいお茶作ってんのー!? わたしもー!」

ドロドロの足でキッチンに突撃してきたのは、テンション高めの泥んこ猫耳、ビビだった。

「ビビ! お前、その足! キッチンに泥持ち込むなーっ!」

「だってスイのお茶ってさ、なんかこう、心がバクハツする感じでさ! いや、鼻が爆発したこともあるけど!」

「それは“香りが強い”とかそういう次元じゃないだろ!」

スイはその騒ぎをよそに、静かにカップにお茶を注ぎ、ビビに差し出した。

「……飲む?」

「飲むぅっ!」

ビビは満面の笑顔でカップを両手で持ち、ぐいっと一口。

「……!? う、うまぁぁぁぁっ!? なにこれ!? 鼻が! 鼻が通るゥゥゥ!」

「スースー系か?」

「いや、もう鼻の奥までミントに支配された感ある! ハーブ界の革命! 革命が起きたよスイ!」

スイは無表情のまま、ほんの少しだけ尻尾を左右にフリフリ。

「……よかった」

そこへ、スイの親友でもある黒猫耳ツンデレ、リンが入ってきた。

「な、なによその騒ぎは……って、またあんたたち変なもの飲んでるでしょっ!」

「違うよ~、スイのお茶だよっ! 飲んでみ、人生変わる!」

「い、いいわよ別に……ちょっとだけ、味見程度に……」

カップを受け取ると、リンは慎重に一口。

「……っ! な、なんなのこれ……!? 苦くない、けど香りが深いっていうか……」

「うんうん、ビビ語でいうなら“鼻が覚醒した”って感じだね!」

「いや、わかんないわよそれ!」

レオンは一連のやりとりを見ながら、眉をひそめる。

「おいスイ、その“秘密の葉”っての、まさか村の裏手で勝手に採ってきたやつじゃ……」

「……ハーブ畑。育てた」

「そ、そうか。じゃあ安全か。いや、安全だよな? な?」

「……たぶん」

「またそれかーーーっ!」

場に爆笑が巻き起こる中、スイは静かにおかわりを注ぎ始めた。テキパキとした手つきで、まるで儀式のようにお茶を淹れる。

「……レオン、飲む?」

「んー、じゃあ一杯だけ」

差し出されたカップを受け取り、レオンが口をつける。

「……っ!? な、なんだこれ……」

「おお、レオンも開眼の時か!? 鼻が覚醒!?」

「違う、舌が……舌が浄化されていく……!」

「それもうハーブティーじゃなくて浄化の儀式じゃない!?」

その時、ミュリがドアを勢いよく開けて登場。

「おまたせ~! あっ、お茶会してるの!? わたしも飲むにゃっ!」

「ミュリ、それさっきスイが秘密の葉入れたやつ……」

「そんなの関係にゃいっ! スイのお茶、飲むの初めてにゃっ!」

ミュリがごくごくとお茶を飲み干した次の瞬間。

「にゃああああああああっ!? な、なんか……鼻から草が生えそうな味がするにゃああっ!」

「えぇぇぇ!? どういう味だそれ!」

「やっぱりミュリには刺激が強すぎたか……」

「うぅぅ、でもなんか……元気になってきたにゃ! このまま料理も作れる気が……!」

「それはダメだあああああっ!!」

レオンとリンとビビの三重のツッコミが炸裂。ミュリの手から鍋がこぼれ落ちそうになる。

スイはそんな騒ぎの中でも、静かに次のお茶を淹れ続けていた。猫耳がぴくりと動き、しっぽが少しだけ立ち上がる。

「……今日も、おいしくできた」

そう呟いたその横顔は、まるでマスターのような威厳すら感じさせた。

「スイ……お前、実はこの村の“お茶の魔女”なんじゃないか……?」

レオンがぽつりと呟くと、スイは珍しく目を丸くした。

「……魔女、いや。水やりマスター」

「いや、そこは受け取っていいとこだろーーー!」

今日も村は、にぎやかで平和で、ちょっぴりハーブの香りに包まれていた
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