不吉な双子と呼ばれた妹ですが、巫女になって兄をざまぁします〜迷信を打ち破ったら、なぜか溺愛されました〜

第5章 双子の救済と溺愛の果て

第42話 エリナ、神託を公表するか迷う

夜の神殿は静まり返っていた。
月光が祭壇を照らし、白い石床に
冷たい光を落とす。
エリナは膝を抱え、古文書を胸に
抱きしめたまま震えていた。

――この真実を公にすれば、双子を
呪う迷信は崩れる。
――けれど、それは兄アルトリウス
の権威をも打ち砕く。

彼の傲慢な支配を支えてきたのも、
この迷信。
守られるものもあったのだ、と
理解してしまう自分が悔しかった。

「私は……どうすれば……」

小さな声が、月光に溶ける。

そこへ、老神官セリウスがゆっくり
と歩み寄ってきた。
その瞳には憂いが宿っていたが、
同時に揺るぎない信念があった。

「真実を語ることは、勇気であり……
罪でもある」

「罪……？」

「権力を失う者は必ずお前を憎む。
だが、語らねば、民はこの先も
迷信に縛られ、苦しみ続ける」

エリナは唇を噛んだ。
脳裏に浮かぶのは、領民の怯えた顔。
兄に膝を折りながら、心では泣いて
いた母子。

そして……兄の横顔。
かつて優しかった頃のアルトリウス
の記憶が、胸を痛めた。

「兄様は……どうなるのでしょう。
もし真実を告げれば、全てを失って
しまう……」

セリウスは深く息を吐き、エリナ
の肩に手を置いた。

「選ぶのはお前だ、エリナ。兄を守るか、民を救うか。あるいは――両方を
救う道を探し出すか」

両方を救う道。
そんなものがあるのかと、エリナは
目を伏せる。
だが胸の奥に、小さな灯がともるの
を感じた。

「私は……逃げません。兄も民も、
この手で……」

言葉は最後まで続かなかった。
それでもセリウスは満足そうに
頷いた。
月明かりが差し込む中、エリナは
古文書を固く抱きしめる。

――決断の時は、すぐそこに迫って
いた。

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