[完結]婚約破棄されたけど、実は最強魔術師でした。ざまぁしなさいませ、殿下

桃源 華

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第三部:恋と未来と魔術師

第23話 再び砦へ

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名誉の回復が正式に決まった翌朝、
王都の空はどこまでも澄み渡っていた。

王宮の一室。
大きな荷箱に私物を詰めながら、
レティシアはふと手を止めた。

(……終わったわけじゃない。むしろ、
これからが本番)

ソフィア姫の国外追放、アルノルト
王子の王位継承権剥奪。
確かに、すべては終わった――けれど、
それは“過去の清算”に過ぎない。

王都の貴族たちが手のひらを返した
ように敬意を見せても、レティシア
の心はすでにそこにはなかった。

(私は……ここに、戻るために戦ったん
じゃない)

扉をノックする音が響いた。

「入って」

扉の向こうから現れたのは、
見慣れた顔。
クラウスだった。

「迎えに来た」

「随分と早いのね」

「……おまえが、こっちで泣いてるかと
思って」

「ふふ。誰が?」

レティシアは荷物の一部を魔術で
浮かせながら、涼やかに笑った。

「泣くような女だったら、あの場に
立ててないわ」

「それは、確かに」

二人は短い会話だけで、互いの空気を
取り戻していく。

まるで――あの砦の静寂を、既に二人とも“帰る場所”として認識しているかの
ように。

🪄ྀི🪄ྀི🪄ྀི☆≡。゚✩.*˚🌟

出発の準備は静かに整えられた。

王都の門の前には、豪華な見送りの
一行が揃っていたが、レティシアは
最低限の挨拶だけでそれをくぐった。

「レティシア様、今後とも王宮にて
のご協力を――」

「ご用の際は、“正式に”依頼を
いただければ、検討いたします」

言葉だけは丁寧に。けれど、その
態度は明らかに距離を保っていた。

かつて冷笑と裏切りに満ちたこの都に、心を預けるつもりはもう一切なかった。

🪄ྀི🪄ྀི🪄ྀི☆≡。゚✩.*˚🌟

王都を離れ、馬車が広い街道を走る。
遠くに見えるのは雪解け始めた山脈。
そこに、レティシアは懐かしい“冷た
さ”を感じていた。

「……やっぱり、あの砦の空気の方が
落ち着くわね」

「変わり者だな。大抵は王都の方が
住みやすいと感じる」

「私は“大抵”じゃないのよ。あそこ
には、嘘も皮肉もない」

「……ああ。剣と風と静寂しかないな」

二人の間に、言葉では言い表せない
“理解”が静かに満ちていく。

以前ならば、互いに言葉を選び、
探り合うようにしていたこの空気も――
今では、ほんの少しの言葉で済む。

「――ありがとう」

不意に、レティシアが呟いた。

「……何に対してだ?」

「全部に。助けてくれたことも、
信じてくれたことも……こうして、
迎えに来てくれたことも」

「珍しく素直だな」

「後悔させないように、今後も努力
するつもりよ。――私の力は、もう誰
にも奪わせない」

その言葉に、クラウスは小さく目
を細めた。

「……なら、頼りにさせてもらう」

🪄ྀི🪄ྀི🪄ྀི☆≡。゚✩.*˚🌟

砦が見えてきたのは、陽が傾きかけた
頃だった。

北の風が雪を巻き上げる。けれど、
その冷たさが懐かしい。

馬車から降り立ったレティシアを、
兵たちは一斉に迎え入れる。

「レティシア様、お帰りなさい
ませ!」

その声に、彼女はふと立ち止まり、
少しだけ目を見開いた。

「……今、“お帰りなさい”って
言った?」

「はっ……はい、砦はもう、“あなたの
帰る場所”ですので」

そう言った若い兵士の笑顔は、
どこまでも素朴で、どこまでも
真っ直ぐだった。

レティシアはその場に立ち尽くし、
そっと唇を引き結ぶ。

「……ふふ。そう。なら、ただいま」

呟いたその声に、誰もが静かに
頭を下げた。

彼女の凱旋を祝うかのように、
砦の鐘が、遠く高く鳴り響いた。

🪄ྀི🪄ྀི🪄ྀི☆≡。゚✩.*˚🌟

✡️キャラクター紹介🪄◝✩
≡目次からどうぞ☪︎⋆。˚✩
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