ニアリー・シンメトリー・ハート——お前の手だけだよ……こんなゾクゾクさせられるの……

街田あんぐる

文字の大きさ
18 / 44
9. 自分の足で立って、大好きな人に会いに行く

1

しおりを挟む
 まるで「森の小さなお菓子屋さん」のような雰囲気の洋菓子店。そのレトロな窓からはキラキラのお菓子が並んでいるのが見える。遥二のお気に入りのこの店は、繁華街の喧騒を抜けて住宅街に差し掛かるあたりに佇んでいる。
 遥二はわくわくした気持ちで、輝くショーケースを窓から眺めた。それからドアノブに手をかけようとした、そのとき。遥二のスマホが振動した。

「はい、中島です」
「あ、藤田ですー。連絡ありがとう」

 低めの落ち着いた声の女性が名前を名乗る。

「藤田さん! こちらこそ!」

 遥二は道の脇に移動して、ありがたい気持ちで藤田の連絡を受けた。洋菓子店に来たのも、藤田への手土産をと思ったからなのだ。
 藤田彌生やよいは、大学の書道サークルの一代上の部長である。もちろん遥二のことも篠原のことも知っている。

 梓に「考えることをサボってる」と言われた遥二は「考えた」。
 でも、いきなり「考えろ」と言われても、梓との関係はこんがらがっていて、どこにどんな問題があるのか分からない。遥二からしてみれば、ヒントのない暗号文を渡されて「解読しろ」と言われた気分なのだ。

 だから誰かを頼ることにした。「誰かを頼る」という行動だって、考えた末の結論なんだから、最悪ではないはずだ。

 そこで思い浮かんだのが、藤田だった。

 藤田は書道家だ。書道サークル自体はそれほど「ガチ」な集まりではなかったけれど、藤田は今も書道家として研鑽けんさんを続けている。

 ちょうど今、藤田はグループ展を開催しているのだ。それを思い出した遥二は、展示を見に行くついでに篠原のことを少し話せないかと思って連絡したのだった。

「中島くんと話せるのは全然嬉しいよー」

 ゆったりとした声で藤田は言う。
 藤田は遥二より1年早く卒業したから、少なく見積もって6年ぶりに会うことになる。それでもあたたかい声で「嬉しい」と言ってもらえてありがたい。

「展示のシフト的に、今日の14時少し前に来てもらえると都合がいいんだけど」
「伺います!」

 藤田には見えないのに、ぺこぺこと頭を下げて遥二は通話を切った。

 知り合いに相談するのは、「考えた」ことになるだろうか。梓の考え全部が分かるわけじゃないから、そんなの判断がつかない。でも、「ぼんやりラッキーが降ってくるのを待っている状態」からは、一歩踏み出したって思ってくれないかな。

 遥二は洋菓子店のドアを開け、シュガーできらきらに彩られたお菓子たちを選ぶ。今日は藤田のため。そしていつかは、梓とここのケーキを一緒に食べたいな。

 小さな夢が一つ、遥二の胸に灯った。

 グループ展の会場は銀座の貸し画廊で、遥二は恐る恐る重いドアを開けた。

「あ。いらっしゃい」

 奥でカメラマンと打ち合わせをしていた女性が遥二に気づいて、華奢な右手を軽く上げた。
 藤田だと気づくのに一瞬時間がかかった。ストンとまっすぐな黒髪を眉上で切り揃えて、薄い唇に真っ赤なルージュを塗っている。細身な全身から、和のアーティストの雰囲気が漂っているようだった。

「こんにちは」
「来てくれてありがとう。少し見ていてもらえる?」
「はい」
「ね、藤田さ~ん。ここやっぱりさぁ……」

 カメラマンが藤田に話しかける。しばらくは忙しそうだ。
 藤田に言われた通り、遥二は書道展を見て回る。グループ展には5人の書道家が参加している。大学時代に書道を嗜んだことを思い出し、遥二は楽しんでそれぞれの作風を鑑賞した。

「じゃあ秋山さん、田村さんと打ち合わせお願いします。中島くん、お待たせ」

 カメラマンに声をかけてから、藤田は改めて遥二を歓迎した。焼き菓子の手土産も喜ばれ、場所を移して話すことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

処理中です...