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9. 自分の足で立って、大好きな人に会いに行く
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まるで「森の小さなお菓子屋さん」のような雰囲気の洋菓子店。そのレトロな窓からはキラキラのお菓子が並んでいるのが見える。遥二のお気に入りのこの店は、繁華街の喧騒を抜けて住宅街に差し掛かるあたりに佇んでいる。
遥二はわくわくした気持ちで、輝くショーケースを窓から眺めた。それからドアノブに手をかけようとした、そのとき。遥二のスマホが振動した。
「はい、中島です」
「あ、藤田ですー。連絡ありがとう」
低めの落ち着いた声の女性が名前を名乗る。
「藤田さん! こちらこそ!」
遥二は道の脇に移動して、ありがたい気持ちで藤田の連絡を受けた。洋菓子店に来たのも、藤田への手土産をと思ったからなのだ。
藤田彌生は、大学の書道サークルの一代上の部長である。もちろん遥二のことも篠原のことも知っている。
梓に「考えることをサボってる」と言われた遥二は「考えた」。
でも、いきなり「考えろ」と言われても、梓との関係はこんがらがっていて、どこにどんな問題があるのか分からない。遥二からしてみれば、ヒントのない暗号文を渡されて「解読しろ」と言われた気分なのだ。
だから誰かを頼ることにした。「誰かを頼る」という行動だって、考えた末の結論なんだから、最悪ではないはずだ。
そこで思い浮かんだのが、藤田だった。
藤田は書道家だ。書道サークル自体はそれほど「ガチ」な集まりではなかったけれど、藤田は今も書道家として研鑽を続けている。
ちょうど今、藤田はグループ展を開催しているのだ。それを思い出した遥二は、展示を見に行くついでに篠原のことを少し話せないかと思って連絡したのだった。
「中島くんと話せるのは全然嬉しいよー」
ゆったりとした声で藤田は言う。
藤田は遥二より1年早く卒業したから、少なく見積もって6年ぶりに会うことになる。それでもあたたかい声で「嬉しい」と言ってもらえてありがたい。
「展示のシフト的に、今日の14時少し前に来てもらえると都合がいいんだけど」
「伺います!」
藤田には見えないのに、ぺこぺこと頭を下げて遥二は通話を切った。
知り合いに相談するのは、「考えた」ことになるだろうか。梓の考え全部が分かるわけじゃないから、そんなの判断がつかない。でも、「ぼんやりラッキーが降ってくるのを待っている状態」からは、一歩踏み出したって思ってくれないかな。
遥二は洋菓子店のドアを開け、シュガーできらきらに彩られたお菓子たちを選ぶ。今日は藤田のため。そしていつかは、梓とここのケーキを一緒に食べたいな。
小さな夢が一つ、遥二の胸に灯った。
グループ展の会場は銀座の貸し画廊で、遥二は恐る恐る重いドアを開けた。
「あ。いらっしゃい」
奥でカメラマンと打ち合わせをしていた女性が遥二に気づいて、華奢な右手を軽く上げた。
藤田だと気づくのに一瞬時間がかかった。ストンとまっすぐな黒髪を眉上で切り揃えて、薄い唇に真っ赤なルージュを塗っている。細身な全身から、和のアーティストの雰囲気が漂っているようだった。
「こんにちは」
「来てくれてありがとう。少し見ていてもらえる?」
「はい」
「ね、藤田さ~ん。ここやっぱりさぁ……」
カメラマンが藤田に話しかける。しばらくは忙しそうだ。
藤田に言われた通り、遥二は書道展を見て回る。グループ展には5人の書道家が参加している。大学時代に書道を嗜んだことを思い出し、遥二は楽しんでそれぞれの作風を鑑賞した。
「じゃあ秋山さん、田村さんと打ち合わせお願いします。中島くん、お待たせ」
カメラマンに声をかけてから、藤田は改めて遥二を歓迎した。焼き菓子の手土産も喜ばれ、場所を移して話すことになった。
遥二はわくわくした気持ちで、輝くショーケースを窓から眺めた。それからドアノブに手をかけようとした、そのとき。遥二のスマホが振動した。
「はい、中島です」
「あ、藤田ですー。連絡ありがとう」
低めの落ち着いた声の女性が名前を名乗る。
「藤田さん! こちらこそ!」
遥二は道の脇に移動して、ありがたい気持ちで藤田の連絡を受けた。洋菓子店に来たのも、藤田への手土産をと思ったからなのだ。
藤田彌生は、大学の書道サークルの一代上の部長である。もちろん遥二のことも篠原のことも知っている。
梓に「考えることをサボってる」と言われた遥二は「考えた」。
でも、いきなり「考えろ」と言われても、梓との関係はこんがらがっていて、どこにどんな問題があるのか分からない。遥二からしてみれば、ヒントのない暗号文を渡されて「解読しろ」と言われた気分なのだ。
だから誰かを頼ることにした。「誰かを頼る」という行動だって、考えた末の結論なんだから、最悪ではないはずだ。
そこで思い浮かんだのが、藤田だった。
藤田は書道家だ。書道サークル自体はそれほど「ガチ」な集まりではなかったけれど、藤田は今も書道家として研鑽を続けている。
ちょうど今、藤田はグループ展を開催しているのだ。それを思い出した遥二は、展示を見に行くついでに篠原のことを少し話せないかと思って連絡したのだった。
「中島くんと話せるのは全然嬉しいよー」
ゆったりとした声で藤田は言う。
藤田は遥二より1年早く卒業したから、少なく見積もって6年ぶりに会うことになる。それでもあたたかい声で「嬉しい」と言ってもらえてありがたい。
「展示のシフト的に、今日の14時少し前に来てもらえると都合がいいんだけど」
「伺います!」
藤田には見えないのに、ぺこぺこと頭を下げて遥二は通話を切った。
知り合いに相談するのは、「考えた」ことになるだろうか。梓の考え全部が分かるわけじゃないから、そんなの判断がつかない。でも、「ぼんやりラッキーが降ってくるのを待っている状態」からは、一歩踏み出したって思ってくれないかな。
遥二は洋菓子店のドアを開け、シュガーできらきらに彩られたお菓子たちを選ぶ。今日は藤田のため。そしていつかは、梓とここのケーキを一緒に食べたいな。
小さな夢が一つ、遥二の胸に灯った。
グループ展の会場は銀座の貸し画廊で、遥二は恐る恐る重いドアを開けた。
「あ。いらっしゃい」
奥でカメラマンと打ち合わせをしていた女性が遥二に気づいて、華奢な右手を軽く上げた。
藤田だと気づくのに一瞬時間がかかった。ストンとまっすぐな黒髪を眉上で切り揃えて、薄い唇に真っ赤なルージュを塗っている。細身な全身から、和のアーティストの雰囲気が漂っているようだった。
「こんにちは」
「来てくれてありがとう。少し見ていてもらえる?」
「はい」
「ね、藤田さ~ん。ここやっぱりさぁ……」
カメラマンが藤田に話しかける。しばらくは忙しそうだ。
藤田に言われた通り、遥二は書道展を見て回る。グループ展には5人の書道家が参加している。大学時代に書道を嗜んだことを思い出し、遥二は楽しんでそれぞれの作風を鑑賞した。
「じゃあ秋山さん、田村さんと打ち合わせお願いします。中島くん、お待たせ」
カメラマンに声をかけてから、藤田は改めて遥二を歓迎した。焼き菓子の手土産も喜ばれ、場所を移して話すことになった。
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