ニアリー・シンメトリー・ハート——お前の手だけだよ……こんなゾクゾクさせられるの……

街田あんぐる

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11. 甘酸っぱい間接キスにはぴったりの午後

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「あーずさ。あーん」

 遥二はパフェのひとすくいを梓に差し出し、明るい声で梓を呼んだ。
 普段なら恥ずかしくて「あーん」なんて言わないが、梓とのデートということで浮かれている。

「ん?」

 スプーンを差し出された梓は一瞬戸惑ってから、ぱくりと食いついた。

 食べてくれたー! 間接キスに成功!

 スプーンには遥二が厳選した大きめのイチゴを乗せておいたので、梓はいつまでも頬を膨らませてもぐもぐしている。かわいい。

 昨日、遥二は清水に梓を巡った宣戦布告を受けたところだ。穏やかに進めるはずの恋に、2週間のタイムリミットが設定されてしまった。今日無理にでも梓とデートしたいのは当然である。

 昨晩すぐに遥二は「パフェを食べるのに付き合ってほしい」とメッセージを送った。「デートじゃない。リサーチだから」と屁理屈を添えて。

 遥二の担当は「パフェまつり」(仮称)でパフェの擬人化イラストを描くことだから、パフェを食べるのは立派なリサーチだ。ただ、遥二の下心が強すぎるため、屁理屈に分類される。

 男ひとりでパフェを食べに行くのは緊張する、最初の1回でいいから同伴してほしいと頼んだら、すんなり了承の返事が届いた。
 飛び上がるほどに喜んだ遥二は、デートのつもりだ。梓がデートのつもりかリサーチのつもりかは、分からない。

「おいしい?」

 大きなイチゴをようやく飲み込んだ梓に聞く。

「おいしいね!」
「だよなー! 最近のパフェって、進化してる」

 男2人でパフェに目を輝かせるのも、想像したほど珍しい光景ではなかった。店内では、男性グループも老夫婦も、みなきらびやかなデザートを楽しんでいる。

 2人の知らない間に、パフェも変わっていくのだ。これはきちんと定期的に食べ歩かなければ、と真面目な仕事モードで遥二は考える。

「あーん。ほら、遥二」

 リサーチの計画をしていたところにスプーンを差し出されて、遥二は驚きでニマニマしてしまった。好きな人が差し出してくれるさくらんぼのパフェ。そのひとすくいを頬張る。
 もぐもぐしながら梓を見たら、バッチリ視線が合った。梓は慌てた顔で視線を逸らす。

「見てたの?」
「……見てました」
「なんで」
「遥二がかわいいから」

 思わず笑ってしまった。クール系の顔立ちの遥二は「かっこいい」と言われることはあれど「かわいい」とは滅多に言われない。遥二の中には、ある法則がある。

『おれを「かわいい」って言うやつは、結構おれに惚れてる』

 その法則は、梓に関してもあながち外れていない気がして、遥二はニヤニヤが止まらない。

「なんで笑うんだよ~!」
「嬉しいから」
「ふーん?」

 めっちゃデートじゃん。いい感じじゃん。この調子で梓のトゲトゲも少しずつやわらいで、あと2週間でなんとか……!
 そんな期待が膨らむ雰囲気で、二人の会話は進む。

「遥二は、このリサーチをどう作品に活かすの?」
「写真は撮りまくったじゃん? 資料なしでは描けないし……。この、細かーい層のグラデーションを絵にしたら綺麗かな、ってインスピレーションを得たり、かな」

 すらすらと解説する遥二は、実際きちんとリサーチもしている。紙のメモを用意して、アイデアを書き留めているくらいだ。

「へえー! すごいなあー!」
「キャッチコピーって、どうやって作るの?」
「候補を100個考えて、絞る」
「……100個は盛ってる?」

 遥二は梓の真面目な声音が信じられなくて、恐る恐る訊ねた。

「ふふ。盛ってないんだな、これが」
「えー!? なんで!?」

 遥二が抱いていたコピーライターのイメージはもっと華麗で、安楽椅子に座ってポポポンと素敵な言葉をいくつも紡ぎ出すものだと思っていた。だから思わず理由を訊ねる。

「最初の30個はロクなのが出ない。脳をギュウギュウに締め付けて搾り出した中に、キラッと光るコピーが見つかるんだよ。人間の脳の不思議って感じ」
「すげー……」
「今回は僕のデビュー案件だから、300個くらい案を出したよ」

 ふふん、と得意そうに横目で見てくる梓を、遥二は撫で回して讃えたいくらいだった。

「すげー!!」
「ありがとう。遥二もすごいよ。プロフェッショナリズムを感じた」
「それはお互い様じゃん!」

 友人としてだけでなく、プロとしても認め合った瞬間だった。お互いに、「こいつがいるなら」とプロジェクトの成功を想像して笑い合った。

「ほら、梓、あーん」
「もういただいたよ」
「なんかおいしいジュレが出てきたから食べて」
「ええ~! じゃあいただこうかな」

 甘酸っぱい間接キスにはぴったりの、よく晴れた午後だった。
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