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本編
この男、結納に自信アリ
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「葉介。ずいぶん待たせて、曖昧にしてすまなかった。今さらとは思うが、私と交際を」
「いや! そこは交際ゼロ日婚一択でしょ! 頼むよ波鶴拉ちゃん~! ウケるから。ウケるネタたくさん持ってる方がのし上がれる業界だからさ~。あのチャラい永山が謎の潜伏期間を経て交際ゼロ日婚! この話題で名前覚えてもらって人脈作れるからさ~!」
苦笑してるけど、別に嫌でもなさそうな波鶴ちゃん。ゲスい業界でごめんねぇ~……。
「え、公務員はゼロ日婚まずい? てかおれの仕事、公務員と結婚できる? え?」
「いや、前科はないだろう?」
「ないない! いや、路駐の切符は……? え、路駐……」
うそ。やらかした? おれの愚かな過ちのせいで全てが破談に……?
「路駐? くだらん……。その程度ならば支障はないが、業務の障害になるから今後はくれぐれもないように頼む」
「ごめんなさい!!」
これはおれが悪い!!
おれが悪いのに、バスの中で頭をよしよしってしてくれる。長髪ヒゲ三十路男ですけど、全然嬉しいのでオッケーです!
「え、もしかして元奥さんが最終決定するの? 波鶴ちゃんの再婚にゴネたり」
波鶴ちゃん、波鶴ちゃんのことが嫌いな元奥さんがトップを務める組織に勤務してるんだもんねー。すごいよ。おれだったら即辞めるよ~……。
「そんなことはさせない。あれもそんなくだらない人間ではない。万が一ゴネたら、そうだな……。芸能界デビューして処理班の全てをぶっちゃけると脅そう。それで全てつつがなく通るはずだ」
「おっ……。おれの職業を、生かすんだね~」
エグい脅しをカジュアルに提案されて、一瞬言葉に詰まる。普段からこれくらいのことはやってんのかな~? うん。むしろイケてるね! エグい脅しも辞さない男、いいねぇ~!
「最終手段だ。こう見えて、つつがなく通すだけの政治はしている」
あー、この笑い方。どこまで本気でどこまで冗談か、教えるつもりのないときの笑い方じゃん。ほんとに、いろんな表情見せてくれるようになったね。
「ゼロ日婚な。構わない。婚姻届はどこで出すんだ? どちらかの住民票のある区役所なのか? 今日出すのだろう? 印鑑はいるのか? であれば一度家に戻らないと……」
「あ、波鶴ちゃん、あれ名古屋城じゃん」
「城? ああ……。あれは完成当時から評判だったな。再建なのか? 印鑑は必要ないそうだ。証人をふたり? 何を証明するんだ。くだらん……」
「桜見えてるよ! めっちゃ綺麗なのに~!」
名古屋城が綺麗に見えてるのに婚姻届の出し方を検索するのに夢中だし、昔は『今話題のお城』みたいな噂話とかあったの!?
もうめちゃくちゃだし、おれはこのめちゃくちゃな男を愛してるんだからしょうがないね~。
「桜見なよ~」
仕方ないな、って波鶴ちゃんは顔を上げて桜がちらほら見える名古屋城を見て、目を細める。
「いいな。桜は八重の方が好みだ」
「ふーん……」
「ああ、すまない。八重のを見に行こう、と言うつもりだった」
「ふーん? 見に行きたいの? 八重桜」
「ああ。だがきみが好まなければ、」
「実家の庭に百年ものが生えてるんだけど」
「ほう。いいな」
「東京行きの『こだま』で途中下車して、ひたすら山の方に行くとあるんだけど。どう? 今からおれの実家デート。八重桜付き。まだ七分咲きだろうけど」
「ああ……。ご家族は私をお気に召すだろうか?」
え?? 波鶴ちゃんって、おれの家族に気に入られるか心配だな、って心は持ってんの!? 「世界の中心は私だ。気に入らない奴は去れ」じゃないの~? 意外すぎる! かわいすぎるよぉ~!
「バカ息子がとんでもない上品ないい男を連れてきたって大喜びするよ。ね、親もおれが三十路半ばでフラフラしてんの本気で心配してるから、ね、頼む!」
「いや……。私は嬉しい」
はにかんだ、としか言いようがない、嬉しくて嬉しくて照れちゃった顔でおれにちょっとだけ肩を寄せてくれる波鶴ちゃん……!!
嬉しい!! めちゃくちゃ自慢しよう!! 親戚全員集合かけさせて……いやいやそれは騒がしくなるから、まずは親とばあちゃんにじっくりみっちり自慢する方が賢い選択と言えるだろう。賢い男としてしっかり計画を……。
「ご家族は何人でお住まいなんだ? 和菓子はお好みだろうか? 結納の丁重さが必要だろうか? ああ、ちなみに結納は三度経験があるから任せてくれ」
あ、結納を三度経験した男に、だいたいを委ねよう。うん。結納じゃないけどね。
「結納じゃないよ~! 顔出すだけだよ。そもそも結納ってなに? お菓子ちょっと持ってけばいいよ~。父さんと母さんとばあちゃんの3人で住んでる。甘いものならなんでも好きだと思うし」
「なるほど。ここは? 昔は名古屋と言えばここの最中だったが」
スマホで見せてくれたのは、なんかめっちゃ老舗っぽい和菓子屋のホームページ。老舗に詳しい男、やっぱエロいね~。
「助かる! そこにしよう。名古屋駅でも買えるね。あ、犬いるけど。犬苦手だったりする?」
「私は犬が好きだが、犬は私が嫌いだ。怯えるかもしれない」
「えっ?」
「私は動物に嫌われるんだ。生物として圧倒的に強いからな。人間は呑気だから気付かないが」
「えっ」
「ああ、だから動物園デートと水族館デートと、あらゆる動物が絡むデートは諦めてくれ。すまないな」
「えっ」
今まで動物園デートと水族館デートがさりげなく却下されてきたのは、波鶴ちゃんが強すぎるから……? どんだけエロい男なの!?
「玄関先で手土産をお渡ししておいとましよう。犬にストレスがかかるとよくない」
「そ、そんな……」
結納を三度経験した男の、流れるような実家訪問が見たすぎる……! 犬、おれの煩悩のせいですまんが、どこかに預けられてておくれ~!!
「14時過ぎのこだまでいいか? 婚姻届は全国どこでも出せる。ほら、次で降りて徒歩で引き返して名古屋市役所で出すぞ。証人なんて適当にふたり捕まえて書かせればいい。そこから地下鉄で名古屋駅だ。最中も新幹線乗り場からそう遠くないところで買える。同じ階だし迷うこともないだろう。完璧だ。これで行くぞ」
おれが頷く前に降りますボタンを押す、おれの愛しい男。結納を三度こなし、650年を生き抜いた男の中の男に、全てを委ねるのが正解でした! ありがとう! 愛してるよ~!
(おわり)
「いや! そこは交際ゼロ日婚一択でしょ! 頼むよ波鶴拉ちゃん~! ウケるから。ウケるネタたくさん持ってる方がのし上がれる業界だからさ~。あのチャラい永山が謎の潜伏期間を経て交際ゼロ日婚! この話題で名前覚えてもらって人脈作れるからさ~!」
苦笑してるけど、別に嫌でもなさそうな波鶴ちゃん。ゲスい業界でごめんねぇ~……。
「え、公務員はゼロ日婚まずい? てかおれの仕事、公務員と結婚できる? え?」
「いや、前科はないだろう?」
「ないない! いや、路駐の切符は……? え、路駐……」
うそ。やらかした? おれの愚かな過ちのせいで全てが破談に……?
「路駐? くだらん……。その程度ならば支障はないが、業務の障害になるから今後はくれぐれもないように頼む」
「ごめんなさい!!」
これはおれが悪い!!
おれが悪いのに、バスの中で頭をよしよしってしてくれる。長髪ヒゲ三十路男ですけど、全然嬉しいのでオッケーです!
「え、もしかして元奥さんが最終決定するの? 波鶴ちゃんの再婚にゴネたり」
波鶴ちゃん、波鶴ちゃんのことが嫌いな元奥さんがトップを務める組織に勤務してるんだもんねー。すごいよ。おれだったら即辞めるよ~……。
「そんなことはさせない。あれもそんなくだらない人間ではない。万が一ゴネたら、そうだな……。芸能界デビューして処理班の全てをぶっちゃけると脅そう。それで全てつつがなく通るはずだ」
「おっ……。おれの職業を、生かすんだね~」
エグい脅しをカジュアルに提案されて、一瞬言葉に詰まる。普段からこれくらいのことはやってんのかな~? うん。むしろイケてるね! エグい脅しも辞さない男、いいねぇ~!
「最終手段だ。こう見えて、つつがなく通すだけの政治はしている」
あー、この笑い方。どこまで本気でどこまで冗談か、教えるつもりのないときの笑い方じゃん。ほんとに、いろんな表情見せてくれるようになったね。
「ゼロ日婚な。構わない。婚姻届はどこで出すんだ? どちらかの住民票のある区役所なのか? 今日出すのだろう? 印鑑はいるのか? であれば一度家に戻らないと……」
「あ、波鶴ちゃん、あれ名古屋城じゃん」
「城? ああ……。あれは完成当時から評判だったな。再建なのか? 印鑑は必要ないそうだ。証人をふたり? 何を証明するんだ。くだらん……」
「桜見えてるよ! めっちゃ綺麗なのに~!」
名古屋城が綺麗に見えてるのに婚姻届の出し方を検索するのに夢中だし、昔は『今話題のお城』みたいな噂話とかあったの!?
もうめちゃくちゃだし、おれはこのめちゃくちゃな男を愛してるんだからしょうがないね~。
「桜見なよ~」
仕方ないな、って波鶴ちゃんは顔を上げて桜がちらほら見える名古屋城を見て、目を細める。
「いいな。桜は八重の方が好みだ」
「ふーん……」
「ああ、すまない。八重のを見に行こう、と言うつもりだった」
「ふーん? 見に行きたいの? 八重桜」
「ああ。だがきみが好まなければ、」
「実家の庭に百年ものが生えてるんだけど」
「ほう。いいな」
「東京行きの『こだま』で途中下車して、ひたすら山の方に行くとあるんだけど。どう? 今からおれの実家デート。八重桜付き。まだ七分咲きだろうけど」
「ああ……。ご家族は私をお気に召すだろうか?」
え?? 波鶴ちゃんって、おれの家族に気に入られるか心配だな、って心は持ってんの!? 「世界の中心は私だ。気に入らない奴は去れ」じゃないの~? 意外すぎる! かわいすぎるよぉ~!
「バカ息子がとんでもない上品ないい男を連れてきたって大喜びするよ。ね、親もおれが三十路半ばでフラフラしてんの本気で心配してるから、ね、頼む!」
「いや……。私は嬉しい」
はにかんだ、としか言いようがない、嬉しくて嬉しくて照れちゃった顔でおれにちょっとだけ肩を寄せてくれる波鶴ちゃん……!!
嬉しい!! めちゃくちゃ自慢しよう!! 親戚全員集合かけさせて……いやいやそれは騒がしくなるから、まずは親とばあちゃんにじっくりみっちり自慢する方が賢い選択と言えるだろう。賢い男としてしっかり計画を……。
「ご家族は何人でお住まいなんだ? 和菓子はお好みだろうか? 結納の丁重さが必要だろうか? ああ、ちなみに結納は三度経験があるから任せてくれ」
あ、結納を三度経験した男に、だいたいを委ねよう。うん。結納じゃないけどね。
「結納じゃないよ~! 顔出すだけだよ。そもそも結納ってなに? お菓子ちょっと持ってけばいいよ~。父さんと母さんとばあちゃんの3人で住んでる。甘いものならなんでも好きだと思うし」
「なるほど。ここは? 昔は名古屋と言えばここの最中だったが」
スマホで見せてくれたのは、なんかめっちゃ老舗っぽい和菓子屋のホームページ。老舗に詳しい男、やっぱエロいね~。
「助かる! そこにしよう。名古屋駅でも買えるね。あ、犬いるけど。犬苦手だったりする?」
「私は犬が好きだが、犬は私が嫌いだ。怯えるかもしれない」
「えっ?」
「私は動物に嫌われるんだ。生物として圧倒的に強いからな。人間は呑気だから気付かないが」
「えっ」
「ああ、だから動物園デートと水族館デートと、あらゆる動物が絡むデートは諦めてくれ。すまないな」
「えっ」
今まで動物園デートと水族館デートがさりげなく却下されてきたのは、波鶴ちゃんが強すぎるから……? どんだけエロい男なの!?
「玄関先で手土産をお渡ししておいとましよう。犬にストレスがかかるとよくない」
「そ、そんな……」
結納を三度経験した男の、流れるような実家訪問が見たすぎる……! 犬、おれの煩悩のせいですまんが、どこかに預けられてておくれ~!!
「14時過ぎのこだまでいいか? 婚姻届は全国どこでも出せる。ほら、次で降りて徒歩で引き返して名古屋市役所で出すぞ。証人なんて適当にふたり捕まえて書かせればいい。そこから地下鉄で名古屋駅だ。最中も新幹線乗り場からそう遠くないところで買える。同じ階だし迷うこともないだろう。完璧だ。これで行くぞ」
おれが頷く前に降りますボタンを押す、おれの愛しい男。結納を三度こなし、650年を生き抜いた男の中の男に、全てを委ねるのが正解でした! ありがとう! 愛してるよ~!
(おわり)
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