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第25話 一年に一度のこと
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「お2人は、博士課程修了後にばらばらの土地でポストが見つかったらどうする予定だったんですか?」
ケーキのスポンジをつつきながら、今の自分がこっそり気にしていることを訊く。
「私はなんとしても首都圏のポストを見つけるつもりだった。衣真くんは東京の実家にしか預けられないし」
「僕の実家も東京なんだよ。もっと町田の方だけどね。だから首都圏のポストしかありえなかった。僕は3年非常勤をやったよ。美都里さんはすぐに見つけたけどね。あの頃は経済的に厳しかった。衣真くんは小学生になったのに本もたくさんは買ってあげられなくて悪いことをした」
「いいんだよ。おばあちゃんがこっそり本をたくさん買ってくれたからね」
「まあ、そんなわけで両親に頼って子育てしてたの。習い事も両親が勝手に通わせてくれたしね。どうして? 早暉くんは就活でお悩み?」
「えっと、そうなんです」
お母さんに言い当てられてたじろぐ。
「私はゼミの子たちを見てるから、今の時期みんな悩んでるのが分かるの」
「僕は、フルリモートできるところを優先してエントリーしてるんです。衣真くんが研究者になるなら、どんな土地でも付いて行きたいし」
「あら! よかったね衣真くん!」
「衣真くんとのことをしっかり考えてくれてありがとう」
「いえ、僕が勝手に……」
僕は恥ずかしくなって俯いた。酔いすぎて余計なことを言ったのだ。衣真くんはまつ毛を伏せて頬を染めて何も言わない。反応が芳しくないから不安になる。僕が勝手に先走って将来を思い描いているだけなのだ。
「ありがとう」
衣真くんはそれだけを言った。失望を誤魔化すように食べたブッシュドノエルはやっぱりちょっと苦かった。
おそらく牡蠣の値段以上にご馳走になって、洗い物はいいからと、衣真くんと放り出されるように家を出た。21時過ぎの微風が、ワインで火照った頬を冷ましていく。
「早暉くん、大丈夫?」
「だいぶ酔った。普段ワイン飲まないから」
楽しい食卓に、ついついグラスを重ねてしまったのだ。
「おうちに帰ったら休んでね」
「うん」
電車のシートに座って、衣真くんの肩に身体を預ける。片手をきゅっと恋人繋ぎにすると、もう片方の手でよしよしと頭を撫でてくれる。
「僕は衣真くんもご両親もすごく好き」
自分が何を言っているのかいまいちわからないまま、なめらかなチョコレートみたいにつるつると言葉が滑り出てゆく。
「嬉しいな。僕も早暉くんが好き」
「うん。ずっとこのままがいいな」
「……ん」
「来年こうじゃなかったら悲しいな」
「ん。早暉くんと、一緒にいたいね」
衣真くんの返事で、自分が結構ぎりぎりのことを言ったと気づいた。でも衣真くんはまんざらでもなくて……。
でも、就職の話をしてしまったとき、衣真くんが目を伏せて何も言わなかったのを思い出して、すっかり自信をなくしてしまう。
酔いを言い訳に、衣真くんの首筋にちょん、とキスをした。
「ひゃ!」
「ごめんごめん」
「もう。だめですよ」
なんて言いながら赤い顔の衣真くん。
ねえ、あなたにふさわしい指輪を買ったら、受け取ってくれますか。受け取ってくれないんですか。その前に、一週間は消えない印をつけさせてもらえますか。見えないところがいいと思うんだけど。
ケーキのスポンジをつつきながら、今の自分がこっそり気にしていることを訊く。
「私はなんとしても首都圏のポストを見つけるつもりだった。衣真くんは東京の実家にしか預けられないし」
「僕の実家も東京なんだよ。もっと町田の方だけどね。だから首都圏のポストしかありえなかった。僕は3年非常勤をやったよ。美都里さんはすぐに見つけたけどね。あの頃は経済的に厳しかった。衣真くんは小学生になったのに本もたくさんは買ってあげられなくて悪いことをした」
「いいんだよ。おばあちゃんがこっそり本をたくさん買ってくれたからね」
「まあ、そんなわけで両親に頼って子育てしてたの。習い事も両親が勝手に通わせてくれたしね。どうして? 早暉くんは就活でお悩み?」
「えっと、そうなんです」
お母さんに言い当てられてたじろぐ。
「私はゼミの子たちを見てるから、今の時期みんな悩んでるのが分かるの」
「僕は、フルリモートできるところを優先してエントリーしてるんです。衣真くんが研究者になるなら、どんな土地でも付いて行きたいし」
「あら! よかったね衣真くん!」
「衣真くんとのことをしっかり考えてくれてありがとう」
「いえ、僕が勝手に……」
僕は恥ずかしくなって俯いた。酔いすぎて余計なことを言ったのだ。衣真くんはまつ毛を伏せて頬を染めて何も言わない。反応が芳しくないから不安になる。僕が勝手に先走って将来を思い描いているだけなのだ。
「ありがとう」
衣真くんはそれだけを言った。失望を誤魔化すように食べたブッシュドノエルはやっぱりちょっと苦かった。
おそらく牡蠣の値段以上にご馳走になって、洗い物はいいからと、衣真くんと放り出されるように家を出た。21時過ぎの微風が、ワインで火照った頬を冷ましていく。
「早暉くん、大丈夫?」
「だいぶ酔った。普段ワイン飲まないから」
楽しい食卓に、ついついグラスを重ねてしまったのだ。
「おうちに帰ったら休んでね」
「うん」
電車のシートに座って、衣真くんの肩に身体を預ける。片手をきゅっと恋人繋ぎにすると、もう片方の手でよしよしと頭を撫でてくれる。
「僕は衣真くんもご両親もすごく好き」
自分が何を言っているのかいまいちわからないまま、なめらかなチョコレートみたいにつるつると言葉が滑り出てゆく。
「嬉しいな。僕も早暉くんが好き」
「うん。ずっとこのままがいいな」
「……ん」
「来年こうじゃなかったら悲しいな」
「ん。早暉くんと、一緒にいたいね」
衣真くんの返事で、自分が結構ぎりぎりのことを言ったと気づいた。でも衣真くんはまんざらでもなくて……。
でも、就職の話をしてしまったとき、衣真くんが目を伏せて何も言わなかったのを思い出して、すっかり自信をなくしてしまう。
酔いを言い訳に、衣真くんの首筋にちょん、とキスをした。
「ひゃ!」
「ごめんごめん」
「もう。だめですよ」
なんて言いながら赤い顔の衣真くん。
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