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第5話 「いま」と「さき」/「さき」と「いま」
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僕と衣真くんの前にどんぶりが威勢よくドンと置かれた。スープは口に含む前から濃厚さを予感させるクリーム色。そこから覗く細麺がすごく上品だ。チャーシューは豚ではなく鶏で、しっとりと柔らかそうな見た目に感心する。シャキシャキの水菜が添えてあり、彩りもバッチリ。
「おいしそう~! 連れてきてくれてありがとう!」
「いえいえ。ぼくも食べたかったから」
返事をしながら衣真くんは割り箸をパチンと割って、早速食べ始める。僕も衣真くんに続く。
「わ、おいしい!! 鶏白湯ラーメンってこういう味なんだ」
「食べるの初めて?」
はふはふと飲み込んでから質問する衣真くんがかわいい。食べながらしゃべらないところがお行儀がいいんだよな。
「初めて食べた。地元は広島でも田舎だから、よくあるラーメンしかないんだよ。醤油とか、味噌とか」
「そうか。じゃあ初めての鶏白湯を東京で一番おいしいところにご案内できてよかった」
衣真くんは至極満足げに笑う。こういう些細なセリフでまた衣真くんを好きになる。「広島は田舎だねえ」なんて言ったりしないと信頼できるところ。
「東京で一番だなんて、嬉しいねぇ」
ガタイのいい店主が衣真くんの褒め言葉を聞きつけて割り込んでくる。
「今日もおいしいです! 大学に入学したから、また新しい友人を連れてきます」
「ああ、衣真くんも大学生か! おめでたいなぁ! チャーシュー付けちゃおうかね」
ということで、衣真くんと僕のどんぶりにチャーシューが2枚追加された。
衣真くんと店主の会話を黙って聞く。僕はまたモヤモヤの虜になってしまう。衣真くんに東京一のラーメン屋に「ご案内」してもらえるのは別に僕だけじゃないんだ、とか。店主にも「衣真くん」って呼ばれてるなんて、衣真くんは年上の人に好かれすぎて危なっかしい、ほらあのバンドマンがそうだった、とか。
今日はバンドマンに振られた衣真くんを元気付ける会、という趣旨のはずだけど、衣真くんは普段通りの明るい笑顔だ。
もう割り切ったんだろうか。その方がありがたい。だって僕はこれからデートを重ねて、衣真くんに「これはデートなのでは?」と思ってもらうまでお誘いを続けて、そうしてから衣真くんにきちんと告白をしなきゃいけないんだ。
「もう割り切ったの?」なんて聞けないけど。衣真くんの恋愛ステータスは、今は「好きな人募集中」なんだろうか。ちらりと不安になる。
衣真くんの横顔を眺める。はふはふと、すすらずに麺を口に運んでいる。小さめだけど表情豊かな口が、つるつると麺を飲み込むのを見つめてしまう。
「ん?」
不意に衣真くんが僕の視線に振り向く。
「……アッ、いや、綺麗に食べるなと思って……」
咄嗟の言い訳に僕の衣真くんへの好意が滲んでしまった気がした。
「そう? すするのが苦手なんだよ」
「あー……難しいよね」
一瞬、僕の頭をいやらしい考えがよぎって、もう僕は自分が恥ずかしくてどうにもならなくて、麺を一気に箸で掴んで口に入れた。めちゃくちゃ熱い。僕の顔が真っ赤になっているのも、ラーメンが熱いせいって思ってもらえますように。
言葉少なに食べながら考える。東京の大学生で、ラーメン屋の次のデートはどこなんだろう。どこに誘ったら「伊藤くんはぼくが好きかもしれない」って思ってもらえるんだろう。
「お兄さんは? 衣真くんの同級生?」
店内が空いて暇になったのか、今度は店主が僕に話しかける。
「あ、そうです。伊藤早暉と言います」
なんとなくフルネームを名乗ってしまった。
「へぇー! 二人揃って秀才だ。え? 下の名前は?」
「『早暉』です」
「ええ? 『今』と『先』じゃない。いいコンビになりそうだなぁ」
衣真くんはケラケラ笑う。僕も少し呆れて笑ってしまった。ベタすぎて今まで誰にも言われなかったことを、衣真くんと出会って1ヶ月半でようやく言われたからね。
「おいしそう~! 連れてきてくれてありがとう!」
「いえいえ。ぼくも食べたかったから」
返事をしながら衣真くんは割り箸をパチンと割って、早速食べ始める。僕も衣真くんに続く。
「わ、おいしい!! 鶏白湯ラーメンってこういう味なんだ」
「食べるの初めて?」
はふはふと飲み込んでから質問する衣真くんがかわいい。食べながらしゃべらないところがお行儀がいいんだよな。
「初めて食べた。地元は広島でも田舎だから、よくあるラーメンしかないんだよ。醤油とか、味噌とか」
「そうか。じゃあ初めての鶏白湯を東京で一番おいしいところにご案内できてよかった」
衣真くんは至極満足げに笑う。こういう些細なセリフでまた衣真くんを好きになる。「広島は田舎だねえ」なんて言ったりしないと信頼できるところ。
「東京で一番だなんて、嬉しいねぇ」
ガタイのいい店主が衣真くんの褒め言葉を聞きつけて割り込んでくる。
「今日もおいしいです! 大学に入学したから、また新しい友人を連れてきます」
「ああ、衣真くんも大学生か! おめでたいなぁ! チャーシュー付けちゃおうかね」
ということで、衣真くんと僕のどんぶりにチャーシューが2枚追加された。
衣真くんと店主の会話を黙って聞く。僕はまたモヤモヤの虜になってしまう。衣真くんに東京一のラーメン屋に「ご案内」してもらえるのは別に僕だけじゃないんだ、とか。店主にも「衣真くん」って呼ばれてるなんて、衣真くんは年上の人に好かれすぎて危なっかしい、ほらあのバンドマンがそうだった、とか。
今日はバンドマンに振られた衣真くんを元気付ける会、という趣旨のはずだけど、衣真くんは普段通りの明るい笑顔だ。
もう割り切ったんだろうか。その方がありがたい。だって僕はこれからデートを重ねて、衣真くんに「これはデートなのでは?」と思ってもらうまでお誘いを続けて、そうしてから衣真くんにきちんと告白をしなきゃいけないんだ。
「もう割り切ったの?」なんて聞けないけど。衣真くんの恋愛ステータスは、今は「好きな人募集中」なんだろうか。ちらりと不安になる。
衣真くんの横顔を眺める。はふはふと、すすらずに麺を口に運んでいる。小さめだけど表情豊かな口が、つるつると麺を飲み込むのを見つめてしまう。
「ん?」
不意に衣真くんが僕の視線に振り向く。
「……アッ、いや、綺麗に食べるなと思って……」
咄嗟の言い訳に僕の衣真くんへの好意が滲んでしまった気がした。
「そう? すするのが苦手なんだよ」
「あー……難しいよね」
一瞬、僕の頭をいやらしい考えがよぎって、もう僕は自分が恥ずかしくてどうにもならなくて、麺を一気に箸で掴んで口に入れた。めちゃくちゃ熱い。僕の顔が真っ赤になっているのも、ラーメンが熱いせいって思ってもらえますように。
言葉少なに食べながら考える。東京の大学生で、ラーメン屋の次のデートはどこなんだろう。どこに誘ったら「伊藤くんはぼくが好きかもしれない」って思ってもらえるんだろう。
「お兄さんは? 衣真くんの同級生?」
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「ええ? 『今』と『先』じゃない。いいコンビになりそうだなぁ」
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