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第一章 恐怖のテンシ
第6話 魔王城
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「え……この城……」
乙和を見送った後、旋は魔王城の方へ視線を向け……小首を傾げた。
城と呼ぶには控え目なサイズの、外壁の色はアリスブルーのシックな西洋風の建物。それはいつ作ったのか思い出せないままの、幻想的な世界観のジオラマの中にあった、城の模型と全く同じ見た目をしている。
その事に旋は驚いて不思議に思いながらも、魔王城の扉に近づくと鍵穴に鍵を挿して回す。
開いた扉から旋が魔王城の中へ入ると、手を前に組んで項垂れた状態で玉座に座る銀髪の男性が目に入った。彼はワイシャツやネクタイ、ベストも全て黒色のスーツを着用し、金色の王冠の刺繍が入ったマントを羽織っている。
「……随分と遅かったではないか」
男性は顔を上げながら、低い声でぶっきら棒に一言そう呟く。美しい顔立ちのその男性は旋を視界に捉えると、切れ長の目を一瞬だけ見開き、短いため息をついた。そして、どこか愁いを帯びた表情で旋を見据える。
「えっと……あの……」
男性は立ち上がると、戸惑いの声を上げる旋に近づき、滅紫色の瞳で彼を見下ろした。
旋は男子高校生の平均身長を超えており、決して背は低くない。だが、男性は百九十以上の長身であるため、目の前に立たれると旋でも中々の迫力を感じる。男性の圧に押され、旋は思わず一歩、後退る。そんな彼の頭に、男性は手を伸ばす。
「契約者がなかなか現れないから何かあったのではないかと……兎に角、無事で良かった」
「へ……?」
男性はぎこちない手つきで旋の頭を撫でながら、安心したような顔をする。その言動から男性は怒っているのではなく、心配してくれていたのだと旋は気がついて胸を撫で下ろす。
「その……心配かけてすみませんでした。ジブンは鳴無旋です。アナタの名前は……」
旋が名乗ると男性は小さく頷いた後、目線を合わせるように屈んだ。
「我はレイ・サリテュード=アインビルドゥング。一応、『魔王』だ。呼び方はレイでいい。敬語も堅苦しいから止め給え」
「分かった。これからよろしくな、レイさん」
「『さん』も必要ない。鳴無旋……いや、旋。こちらこそ、よろしく頼む」
レイは一瞬だけ惑う表情をして……すぐに意を決したような顔で、優しく『旋』と呼んだ。
「分かった。改めてよろしく、レイ」
「うむ……ではまず、このゲームについて手短に話すとしよう」
「あ、その話なら妹の相棒から聞いたよ。あとテンシの倒し方も。ここに来るのが遅くなったは、先に妹の契約相手がいる箱に向かったからなんだ」
「む……ならば早速、我と契約を交わしてくれるな?」
レイはそう言うとその場で跪き、右手を差し出した。突然のレイの行動に、旋は少し驚きつつもすぐに同じように膝をつく。そして、目線を合わせてニカッと笑うと、ポカンとしているレイの手を取る。すると、二人の手は淡い紫色の光に包まれ、数秒程でそれは消えた。
「これで契約は完了した。我は旋、貴様と共に戦う事を誓おう。その代わり、貴様は全てのゲームをクリアし、生きて帰る事を誓え」
そう言いながらレイは、旋と共に立ち上がってからゆっくりと手を離した。
「うん! 分かった!」
旋の元気な返事を聞いたレイは「この契約、破るでないぞ」と、まるで祈るような声で言った。
「想像したモノを具現化する。それが我の能力だ。具体的な色や形などを頭の中でしっかり思い浮かべる事さえ出来れば、どんなモノでも作り出せる。試しに一度やってみるといい」
「分かった!」
旋はレイに言われた通りに以前、自分で作った大剣のフィギアを想像した。ふんわりとした想像が、はっきりしたものになった途端、旋の手の中に翠を基調とした大剣が出現する。
「できたー!」
「貴様……何をしている」
目を輝かせて大剣を見つめる旋に、レイは険しい表情を向ける。
「え……何かダメだった?」
「いきなりそのような大きな武器を生成しては危ないだろう。最初は素人でも扱いやすい武器を――む……軽い、だと……」
きょとんとする旋から、レイは大剣を取り上げる。それから旋を叱りつつ少し離れたところで大剣を振り回し――その軽さに驚き、目を見開く。
「ジブンでも簡単に振り回せるように、軽めの大剣を想像して作ったんだ。あと、テンシを斬る時だけ、斬れ味抜群みたいなイメージもしてみた!」
「ふむ……それならば問題ないか。なかなかやるではないか、旋」
「へへ……ありがとう。ちなみにこの大剣は、テンシだけを吸い込む竜巻も作り出せるんだ」
旋はそう言いながら、両手で丁重に大剣を返してくれている、レイの左手に目が吸い寄せられる。彼が薬指につけている指輪が妙に気になった旋は、大剣を受け取った後もそれを目で追う。
「……なんだ?」
「いやさ、変わった見た目の結婚指輪だなぁと思って」
レイの瞳と同じ色の石がついた指輪を指さし、旋は上の空で適当な言葉を口にする。
「結婚……? 何を言っている。魔王は我、一人だ。結婚など、人の真似事、出来る訳がなかろう」
「そっか……」
旋はなぜか滅紫色の石から目を離す事ができず、レイの言葉にもぼんやりと反応するだけだった。
(やっぱり何か大切なことを忘れている気がする。あの石に触れば、その何かを思い出せるかもしれない)
そんな漠然とした考えが頭を過ぎった旋は、無意識の内に指輪へと手が伸びていた。
「旋」
レイに名前を呼ばれると同時に手を掴まれ、ハッと我に返った旋は「ごめん、なんかボーとしてた」と照れ笑いを浮かべる。
「……これから城を出て、テンシと戦う事になる訳だが……その前に、このマントを身に着けておくといい」
レイは何かを誤魔化すようにそう言うと、旋にピッタリサイズのフード付き黒マントを作り出し、彼の肩に掛けてボタンを留める。
旋は「ありがとう」とお礼を言いつつも、不思議そうにマントをヒラヒラさせた。
「人の体は脆いゆえ……急ごしらえの防護服のような物だが、ないよりはマシであろう。貴様の身を護る、きちんとした衣服はまた後日、渡すとしよう」
「うん。いろいろとありがとな、レイ」
「礼には及ばぬ」
レイはそう返事しながら滅紫一色の刀を作り出すと、扉の方に向かう。旋も大剣を肩に担ぎ、レイと共に歩き出す。
外に出る直前、確かめたかった事を思い出した旋は後ろを振り返る。彼の視線の先には、背凭れと座面部分が滅紫色の玉座があり、旋は『やっぱり』と思った。
やっぱり魔王城の模型の中にあった、玉座のミニチュアと同じ見た目だ……と。
乙和を見送った後、旋は魔王城の方へ視線を向け……小首を傾げた。
城と呼ぶには控え目なサイズの、外壁の色はアリスブルーのシックな西洋風の建物。それはいつ作ったのか思い出せないままの、幻想的な世界観のジオラマの中にあった、城の模型と全く同じ見た目をしている。
その事に旋は驚いて不思議に思いながらも、魔王城の扉に近づくと鍵穴に鍵を挿して回す。
開いた扉から旋が魔王城の中へ入ると、手を前に組んで項垂れた状態で玉座に座る銀髪の男性が目に入った。彼はワイシャツやネクタイ、ベストも全て黒色のスーツを着用し、金色の王冠の刺繍が入ったマントを羽織っている。
「……随分と遅かったではないか」
男性は顔を上げながら、低い声でぶっきら棒に一言そう呟く。美しい顔立ちのその男性は旋を視界に捉えると、切れ長の目を一瞬だけ見開き、短いため息をついた。そして、どこか愁いを帯びた表情で旋を見据える。
「えっと……あの……」
男性は立ち上がると、戸惑いの声を上げる旋に近づき、滅紫色の瞳で彼を見下ろした。
旋は男子高校生の平均身長を超えており、決して背は低くない。だが、男性は百九十以上の長身であるため、目の前に立たれると旋でも中々の迫力を感じる。男性の圧に押され、旋は思わず一歩、後退る。そんな彼の頭に、男性は手を伸ばす。
「契約者がなかなか現れないから何かあったのではないかと……兎に角、無事で良かった」
「へ……?」
男性はぎこちない手つきで旋の頭を撫でながら、安心したような顔をする。その言動から男性は怒っているのではなく、心配してくれていたのだと旋は気がついて胸を撫で下ろす。
「その……心配かけてすみませんでした。ジブンは鳴無旋です。アナタの名前は……」
旋が名乗ると男性は小さく頷いた後、目線を合わせるように屈んだ。
「我はレイ・サリテュード=アインビルドゥング。一応、『魔王』だ。呼び方はレイでいい。敬語も堅苦しいから止め給え」
「分かった。これからよろしくな、レイさん」
「『さん』も必要ない。鳴無旋……いや、旋。こちらこそ、よろしく頼む」
レイは一瞬だけ惑う表情をして……すぐに意を決したような顔で、優しく『旋』と呼んだ。
「分かった。改めてよろしく、レイ」
「うむ……ではまず、このゲームについて手短に話すとしよう」
「あ、その話なら妹の相棒から聞いたよ。あとテンシの倒し方も。ここに来るのが遅くなったは、先に妹の契約相手がいる箱に向かったからなんだ」
「む……ならば早速、我と契約を交わしてくれるな?」
レイはそう言うとその場で跪き、右手を差し出した。突然のレイの行動に、旋は少し驚きつつもすぐに同じように膝をつく。そして、目線を合わせてニカッと笑うと、ポカンとしているレイの手を取る。すると、二人の手は淡い紫色の光に包まれ、数秒程でそれは消えた。
「これで契約は完了した。我は旋、貴様と共に戦う事を誓おう。その代わり、貴様は全てのゲームをクリアし、生きて帰る事を誓え」
そう言いながらレイは、旋と共に立ち上がってからゆっくりと手を離した。
「うん! 分かった!」
旋の元気な返事を聞いたレイは「この契約、破るでないぞ」と、まるで祈るような声で言った。
「想像したモノを具現化する。それが我の能力だ。具体的な色や形などを頭の中でしっかり思い浮かべる事さえ出来れば、どんなモノでも作り出せる。試しに一度やってみるといい」
「分かった!」
旋はレイに言われた通りに以前、自分で作った大剣のフィギアを想像した。ふんわりとした想像が、はっきりしたものになった途端、旋の手の中に翠を基調とした大剣が出現する。
「できたー!」
「貴様……何をしている」
目を輝かせて大剣を見つめる旋に、レイは険しい表情を向ける。
「え……何かダメだった?」
「いきなりそのような大きな武器を生成しては危ないだろう。最初は素人でも扱いやすい武器を――む……軽い、だと……」
きょとんとする旋から、レイは大剣を取り上げる。それから旋を叱りつつ少し離れたところで大剣を振り回し――その軽さに驚き、目を見開く。
「ジブンでも簡単に振り回せるように、軽めの大剣を想像して作ったんだ。あと、テンシを斬る時だけ、斬れ味抜群みたいなイメージもしてみた!」
「ふむ……それならば問題ないか。なかなかやるではないか、旋」
「へへ……ありがとう。ちなみにこの大剣は、テンシだけを吸い込む竜巻も作り出せるんだ」
旋はそう言いながら、両手で丁重に大剣を返してくれている、レイの左手に目が吸い寄せられる。彼が薬指につけている指輪が妙に気になった旋は、大剣を受け取った後もそれを目で追う。
「……なんだ?」
「いやさ、変わった見た目の結婚指輪だなぁと思って」
レイの瞳と同じ色の石がついた指輪を指さし、旋は上の空で適当な言葉を口にする。
「結婚……? 何を言っている。魔王は我、一人だ。結婚など、人の真似事、出来る訳がなかろう」
「そっか……」
旋はなぜか滅紫色の石から目を離す事ができず、レイの言葉にもぼんやりと反応するだけだった。
(やっぱり何か大切なことを忘れている気がする。あの石に触れば、その何かを思い出せるかもしれない)
そんな漠然とした考えが頭を過ぎった旋は、無意識の内に指輪へと手が伸びていた。
「旋」
レイに名前を呼ばれると同時に手を掴まれ、ハッと我に返った旋は「ごめん、なんかボーとしてた」と照れ笑いを浮かべる。
「……これから城を出て、テンシと戦う事になる訳だが……その前に、このマントを身に着けておくといい」
レイは何かを誤魔化すようにそう言うと、旋にピッタリサイズのフード付き黒マントを作り出し、彼の肩に掛けてボタンを留める。
旋は「ありがとう」とお礼を言いつつも、不思議そうにマントをヒラヒラさせた。
「人の体は脆いゆえ……急ごしらえの防護服のような物だが、ないよりはマシであろう。貴様の身を護る、きちんとした衣服はまた後日、渡すとしよう」
「うん。いろいろとありがとな、レイ」
「礼には及ばぬ」
レイはそう返事しながら滅紫一色の刀を作り出すと、扉の方に向かう。旋も大剣を肩に担ぎ、レイと共に歩き出す。
外に出る直前、確かめたかった事を思い出した旋は後ろを振り返る。彼の視線の先には、背凭れと座面部分が滅紫色の玉座があり、旋は『やっぱり』と思った。
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