MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第二章 ゲリラゲーム

第8話 MEAL GAME

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 こうりゃく学園、高等部校舎内。第一ゲームが終了してから、約一ヵ月が経過したある日の午前中。三年S組の教室でおとなしめぐるは一人、授業を受けていた。

「終わった~」
 三時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った瞬間、旋はグーと伸びをした。

 皇掠学園は生徒が怪物テンシ相手に、命懸けのゲームを強いられる裏の顔を持つ学校ではあるが、決して教育を放棄していない。

 ゲームがない日は一般教科に加え、各生徒の特技や趣味に関する事を、タブレットに映る最先端のAI教師から学べる。必要な物はなんでも支給され、中高生であっても時間割を自分で組む事も可能だ。

 勉学に励むかどうかも生徒の自由だが、旋は先の事まで考えて六限までみっちり授業を入れている。なお、クラスは契約相手の強さや能力で振り分けられており、マオウは『希少な存在』であるため、旋は一人S組に所属する事となった。

「ご苦労だった。次の授業も頑張るといい」
「うん、ありがとう。そうだ。今からちょっと自販機で、飲み物買ってくる」
「承知した」
 旋は何もないところから聞こえてきたレイの声に反応し、そっちを向いて言葉を返した。

 レイは姿を消しているだけで、常に旋の傍にいるらしい。現に今も、自販機に向かう旋の隣から、微かに足音は聞こえている――。

『ゲームの最中や非常時以外では姿を消しておく。常に我のような大男が、隣に見えていては疲れるだろう』

 ――レイはそう言って、自身を透明にするアイテムを作り、姿を見えなくした。しかし、朝晩の挨拶は欠かさず、授業終わりには労いの言葉をかけてくれたり、旋が話しかければ受け答えはしてくれる。

 旋的にはレイに姿を見せてほしいのだが、彼の配慮を無下にできずにこの状況を受け入れ……次第に慣れていった。

 旋は歩きながら、レイやゲームの管理と運営をしているからのアナウンスで聞いた、さまざまな情報ハナシを頭の中で振り返る。



 ――約百年前、異世界『シエルト』からこの世界に、怪物テンシがやってきた。

 テンシがその気になれば、この世界の人間ヒト族を簡単に殲滅できる。だが、それでは面白くないからと、『ヒト族の特性を活かしたゲームをしよう』と提案してきた。そのゲームに協力する気のあるカミを始めとした、他種族と『相性のいい』ヒトが参加する命懸けのゲームを。

 一部の犠牲で済むならと、この世界の一握りの人間も了承した。そしては当時、新設されたばかりの皇掠学園を隠れ蓑に選んだ。

 それが、『MEALミール GAMEゲーム』の始まりだった。

「我らがテンシは恐怖、執着、復讐、快楽の四種類……それからテンシの頂点に君臨するシテンシもいる」
「恐怖のテンシは第一ゲームで戦った相手……でいいんだよな?」
 旋の問いに、レイはコクリと頷く。

「これも運営から聞かされて知っているだろうが……執着と復讐と快楽のテンシのゲームは不定期で行われる」
「うん、『前日にタブレットに通知が届く』って聞いた。その後に半年以上、テンシに放置される場合もあるって聞いたんだけど、どうしてだろうと思って……レイは何か知ってる?」

 旋の問いにレイは「テンシは気紛れだからだ」と答えた後、言葉を選ぶようにゆっくりとこう補足する。

「MEAL GAMEと言うだけあって……奴らは食欲を満たすと同時に、ヒト族と『遊ぶ』事も目的としている。ゆえに食欲が満たされ、遊ぶ気分でもない時は、こちらに見向きもしない」
「テンシにとってジブン達は……やっぱりただの餌であり、オモチャなんだな……」
 レイは旋の言葉を否定も肯定もせずに、彼を慰めるようにぎこちなく頭を撫でてから話を続ける。

「それに……テンシ共は、以外でも遊んでいるらしい。ゆえに他国のでテンシが遊んでいる間も当然、のヒト族は放置される」
「海外でもこんなことやってんのか……」
 苦々しい表情で呟くように発した旋の言葉に、レイは頷いてから更にゲームについての説明を続ける。

「四種類のテンシのゲームをクリアし、尚且つ、四つの種を集める事で最終ゲームに挑む権利を獲得できる。シテンシが考えた最終ゲームには、好きなタイミングで挑む事が可能だ。そして最終ゲームもクリアできれば、この地獄のような場所から解放される」
「うん……。あ……そういえばさ、テンシの種を潰さない限り、テンシはまだ生きてるってことなんだよな……?」
 旋は第一ゲームでレイと共に、テンシの種を大量に潰した時の事を不意に思い出し、言葉を発した。

「うむ。無害とは言え、種の状態でもテンシは生きている。おまけに条件さえ揃えば、復活も可能だ。ゆえに、最終ゲームの参加に必要な以外は粉砕し、止めを刺しておくべきだ」
 レイは眉間にシワを寄せ、少し怖い顔で旋の問いに答えた。

 旋は『この状態からでも復活できるのか……』と思いつつ、もう一つ気になっていた事をレイに質問すべく口を開く。

「第一ゲームで、恐怖のテンシの種を回収できなかった生徒はどうしたらいいんだ?」
「恐怖のテンシは通知もなく、『ゲリラゲーム』と称してある日突然、襲撃してくる。その際に返り討ちにして、種を回収すればいい」
 レイはテンシに対する不快感を露わにしながら、苦々しい表情で答えた。

 その答えに旋は相槌を打ちつつ、運営から聞いた『全てのゲームをクリアした後の話』を思い出す。

 ゲームから解放された者は飛び級で卒業した事になり、その後の進路などは学園側が責任を持ってサポートするとアナウンスがあった。また、『MEAL GAMEに関する自分の記憶をかいざんする』か、『ゲームの事を一般人に口外しない契約を結ぶ』か、選んでもらうとも。

 後者を選んだ場合、『皇掠学園の秘密を知った人間共々、テンシの目の前に自動転移される』仕様の契約書に、サインさせられるとの事。要するに『学園の秘密を喋った者と、知ってしまった一般人はテンシの餌にするぞ』と言う脅しである。

「……最後にもう一つだけ、質問してもいいか?」
「あぁ、構わぬ」
「もし……」
 自分から質問を希望したにもかかわらず、旋はそれを口にするのを躊躇う。けれども、旋は意を決して真剣な顔で問いかける。

「もしこの島で死んだら、どうなるんだ? その……親とかにはどう説明すんのかと思って……」
 旋の問いにレイは複雑そうな、どこかバツが悪そうな顔で口を開く。

「……もし、テンシに喰われるなどしてゲーム内で死亡した者は……記憶操作能力を有するカミによって、存在そのものを消される。……死者の事を知っている一般人の記憶を改竄し、ゲームの関係者以外から存在を忘れられてしまう」
「それって親や友達からも、忘れられるってことだよな? そんなのって……あんまりだ……」
「……大切なヒトの死を伝えるより、忘れさせた方が遺された者達は……心穏やかに過ごせるのではないのか……?」

 旋が辛そうな顔で言った事が、レイには理解できず、彼は眉間にシワを寄せる。思いがけないレイの言葉に、旋は困惑して「そんなこと……」と言いかけ一度、口をつぐむ。

「……いや、どう思うかは人それぞれだよな。でも少なくともジブンは、絶対に大切な人達を忘れたくない。どんなにジブンが辛くても、ちゃんと覚えておきたいと思ってる」

 旋のその言葉に、レイは目を見開いた後、グッと唇を噛みしめる。その時、レイがどこか悲しげな表情になった理由が、旋には分からなかった。



 ――晴天の下、旋は中庭の自販機でペットボトルの抹茶ラテを購入する。

 旋は一口、抹茶ラテを飲むと、雲一つない空を見上げた。彼の視線の先……遥か上空に浮かぶ、テンシの透明な住処の存在に当然、旋は気がついていない。

 そこで恐怖のテンシ達が、密かにゲームの開始を待ち焦がれている事にも。
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