MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

文字の大きさ
28 / 63
第三章 執着のテンシ

第26話 覚悟と無理解

しおりを挟む
「……レイ、今はゲームに集中して、クリア後にまたじっくり話し合おう」
 少しの間、考え事をしていためぐるは、執着のテンシの体内にいるレイにそう語りかけた。すると、レイは閉じていた目をゆっくりと開き、深いため息をつく。

「勿論、現段階ではでクリアすべきだと考えている。だが、今後一切、貴様と話し合う気はない」
「は……?」
「いくら話し合っても、らちが明かないだろう。ならば、再び旋の記憶を奪い、リセットすればいい。何もかもな……」

 レイの言葉に、旋は目を見開く。彼はが言った台詞を頭の中で繰り返した後、グッと握りしめた拳を振り上げ、執着のテンシのを殴った。

「どうしてそうなるんだよ……そんなの、ぜったい間違ってる……」
「間違っているのは貴様の方だ。忘れてしまえば、楽になると言うのに……」
「絶対に大切な人達を忘れたくない。どんなにジブンが辛くても、ちゃんと覚えておきたいと思ってる――前にそう伝えただろ……!」
「理解に苦しむ……。胸が張り裂けそうな程の、辛く悲しい記憶を抱え続けるを、旋は受ける必要がないと。何のもない旋が、苦しむ必要などない事が何故、解らない?」
「なんだよ、それ……罰とか罪とか意味が分からない。ただ、ジブンは――」
「もうこれ以上、ここで話す事は何もない。今すぐゲームに集中すべきだ」

 旋の言葉を遮り、レイは相棒を冷たく突き放した。旋はそれがショックで、黙って項垂れ、密かに瞳を揺らす。レイの判断は、旋に『ジブン、全く信用されてないんだな』と思わせるには、十分過ぎるものだった。

 悲しくて、酷く悔しい。思わず、『ふざけるな』と叫びたくなる。それでも、その感情を押し殺すように旋は深呼吸をすると、顔を上げる事なく「分かった……」と呟く。

「レイがそうしたいなら、もう好きにすればいい。こんなところで言い合ってても仕方ないし、何よりゲームクリアを優先すべきだしな。だから教えてくれないか? ミッション其の一のクリア方法をさ」
 どこか諦めたような、もしくは吹っ切れたような旋の声音に、レイは『漸くしてくれたか』と安堵する。

「ミッション其の一は、ヒト側が執着のテンシのに触れた状態で、相棒に何か一つ問いかけをする。捕らえられた相棒がその問いに承知すれば、『契約相手と心が一つになった』と判断されて扉が開く」
「その問いかけって何でもいいのか?」
 旋が食い気味に質問してきた事に、レイは少し驚きつつも「あぁ」と頷く。

「問いの内容は難しく考えなくていい。執着のテンシはヒトを積極的に体内へ招き入れたい。故に『絶対にゲームをクリアしよう』等、簡単な問いであっても良しとしている」

 蒸し暑さで滲む汗を拭う事もせず、レイは淡々と旋の質問に具体的な例も挙げて答えた。それを静かに聞いていた旋はを思いつき、意を決して顔を上げる。

「なるほどな……。レイ、ありがとう。説明してくれて」
 旋は明らかな作り笑顔を浮かべてそう言うと、そっと執着のテンシのに触れた。その表情に胸騒ぎがしたレイは、旋に声をかけようとする。しかし、それより先に口を開いた旋は笑みを引っ込め、真剣な表情でこう言った。

「このゲームをクリアしたら、記憶を返してくれるよな、レイ」
 相棒の問いに、レイは開きかけた口をそのままに、じっと旋の顔を見据えた。彼の瞳は真剣つ、揺るぎないもので、レイは内心『やられた』と思う。

 あの言葉も声も全部、で、旋は何も諦めていなかった。平行線は終わっていなかったのだと察する。

「……どういうつもりだ、旋」
 どういうつもりか分かっていても、レイはそう聞かずにはいられなかった。

「そっちがその気なら、ジブンだって好きにさせてもらおうと思っただけだ」
 レイの問いに、旋は表情を変えず答える。旋の返答を聞いたレイは一度、目を閉じ、「なるほど……」と呟く。

「ならば我は……今回のゲームを諦めるとしよう……」
「は……? それって、クリアする気はないってことだよな?」
 ゆっくりと目を開いたレイの瞳は酷く冷たく、その上、少し虚ろで……放った言葉に迷いはない。当然、呆然とする旋の問いに、レイは静かに頷く。

「あぁ……。正規ルートでのクリアは不可能となった今……邪道であろうとゲームを正面から攻略せずに無事、終わらせる道を選択するほかない……。なに、必ずから安心しろ」
「乗っ取るって……執着のテンシを……?」
「あぁ……先の説明通り、このテンシと我は今……意識が繋がっている状態であり……執着心を競い合っている状況でもある……。故に……テンシを乗っ取る事も、可能だ。乗っ取りさえすれば……自らの力で、容易に――」
「そんなの駄目だ! 危険過ぎる!」

 旋は大きく首を横に振り、焦ったようにレイを見つめる。
 レイの決断に、旋は最初こそ、怒りの感情を抱いていた。けれども、レイの話す声が苦しそうな事に気がつき、彼をしっかり見つめ……怒りの感情が消え去る。

 尋常ではない汗の量に、真っ赤な顔。暑さに耐えている苦悶の表情。辛うじて立ってはいるが、フラフラゆっくり揺れる体は今にも倒れそうだ。そんな状態でありながら、レイは自身の異変に気がついていない。

「何が……危険だと言うのだ……旋に危害を加える気はない……」
「レイがそんなことする訳ないのは解ってる……! ジブンは、このままじゃ、レイの身が危険だって言ってるんだよ! 長時間、こんなとこに閉じ込められ続けて……もし、レイに何かあったら……」
「安心しろ……我は不死だ……。故に……仮に死んだとしも、すぐ蘇る……。何も、問題はない……」

 虚ろな目でレイはそう言い、苦しそうな息を吐く。レイの、自分を大切にしていない物言いに、旋は泣きそうな顔をする。

「生き返るからって死んでいい訳ないだろ! ジブンは……レイを死なせたくない……」
「何故だ……? 生き返ると、言っただろう……」
「だって……死ぬのは辛いし怖いし痛いだろ? レイにそんな思い、して欲しくない」
「何故だ……?」
「そんなの、大切な相棒だからに決まってんだろ!」

 本気で『解らない』と言いたげなレイに対し、旋は真っすぐな想いを伝え続ける。それでもレイに想いは届きそうになくて……旋は思わず持っていた大剣を放り投げ、執着のテンシのに両の拳を叩きつけた。

 鉄格子も、その隙間を塞ぐ強固なガラスのような部分も、外側から触れても熱い。旋はその温度に耐え、拳をくっつけたまま、額もに打ち付ける。

「頼む、レイ。扉を……ジブンを信じて、心を開いてくれ……」
 拳と額が真っ赤になり、涙が滲み出る程の痛みを感じても、執着のテンシのから旋は離れない。

「なにをしている、旋……テンシから離れろ……」
「いやだ……レイにだけ、苦しい思いはさせない……絶対に、レイを助ける……」

 旋の言動が理解できず、レイはただただ呆然と、彼を見つめる事しかできない。旋を守りたくて取った行動が逆に、彼を追いつめ、自身を傷つけさせている。それを止めさせたいのに、その方法が分からなくて……レイは心の中で、亡き友と相棒に問いかけた。

(我は、どうすればいい? ……ファシアス、ジュン)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...