MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第三章 執着のテンシ

第27話 レイ・サリテュード=アインビルドゥング①

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『レイ、御前さんはもう少し、他者に寄り添いんしゃい』
 亡き友の、凛とした優しい声が響く。

『自分はこうだから相手も同じ。れいってそう思ってるみたいだけど。違うから』
 亡き相棒は呆れた口調で、淡々と言い放つ。

 まるでレイの問いに答えるように、過去の言葉達が彼の脳裏に浮かぶ。それが引き金となり、断片的に記憶が次々と呼び起こされる。



 ――レイ・サリテュード=アインビルドゥングはある日突然、何者かに産み落とされた。

 意識がはっきりした時にはその何者かは傍におらず、自身の名と不老不死である事以外、何も解らない。

 ゆえにレイは適当な場所に、自身の能力で城を作り出し、そこで長い時を孤独に過ごした。そして時折、度胸試しをしに城へ侵入する輩を軽く追い払っている内に、いつしか『マオウ』と呼ばれるようになった。



「御前さん、俺と友にならんか?」
 ある日、ファシアス・リヤン・シャッフェンと名乗るカミ族の長が、軽快に下駄を鳴らしながら城にやって来て、そんな事を言った。

 玉座に座るレイは眉間にシワを寄せ、真っすぐファシアスを見据える。

 短く整えられた金髪、キリっとした男前な顔立ち、フォレストグリーンの瞳。タンクトップの上にオーバーサイズの和風な上着を雑に羽織り、ダボっとしたズボンを穿いた、白中心の服装。上着の袖がずり落ち、晒されている右肩には半分が蝶で、もう半分が蜂の、緑色の紋様が浮かび上がっている。細身ながらしっかり筋肉はついており、背丈はレイとほぼ同じだ。

「意味が解らぬ。帰れ」

(我と友になって、貴様になんの得がある?)

 レイは二言だけ口にすると、疑問は心の中に留め、シッシッとファシアスを追い払う仕草を見せる。

「むぅ……友になるのに、何かが必要と? よし、分かった。少し待ちんしゃい」
 レイに塩対応されても、ファシアスは全くへこたれていないようだ。

 腕を組んで「う~む」と考え込んだファシアスを、レイは眉間のシワをより深くして睨みつける。

「強いて一つ理由を挙げるとすれば……御前さんなら委縮したり、崇める事なく、対等に接してくれそうだからじゃな。てな訳で、どうじゃ? 俺と友にならんか?」
「ならぬ。帰れ」

(貴様が求めているものがイマイチ解らぬ。故に、友となったところで、何も与えられぬだろう……)

「まぁまぁ、そう言わずに」
「帰れ」

(嫌ではないが、帰ってくれ。どう対応すればいいか、分からぬ故、頼むから早く帰ってくれ)

 レイは本音をひた隠しにしつつ冷たくあしらう事で、ファシアスを城から追い出そうとする。だが、ファシアスはまるでレイの本音が聞こえているかのようにニコニコと笑い、「帰らん!」と元気よく言い放った。

 この日からレイは、お節介なファシアスにしつこく絡まれ続ける事となる。

 レイはどうすればいいのか分からず、ただただ毎日、困っていた。元来、寂しがり屋であるにもかかわらず、長らく独りでいたレイには他者との接し方が分からない。

「そんなもの、一緒にいればいずれ、分かってくるじゃろう。だから俺と友にならんか?」

 ファシアスが城に留まり続けてから、ひと月程が経った頃。

 彼のあまりのしつこさにレイが本音を口にすれば、ファシアスはスッと手を差し出して微笑んだ。その顔に絆され頷いたレイが恐る恐る手を取れば、ファシアスは満面の笑みを浮かべた。

「あぁ、そうじゃ、最初は俺の前だけでもいいからの。今後は本音を隠さず、もっと気軽に己の想いを口にしてみてはどうじゃ?」
 レイと友になれたため、ファシアスは一度、神殿に帰る事にしたらしい。その帰路につく間際、レイにそう提案してからファシアスは城を後にした。

 レイは難しい顔でファシアスを見送りつつも、頑張って本音を口にしてみようと思った。

「レイ! 今日は御前さんと俺が友となった記念に、夜が明けるまで呑むじゃろう?」
 同日深夜。またあの軽快な下駄の音を鳴らし、ファシアスが城にやって来た。

 明らかにご機嫌なファシアスが手にする一升瓶のラベルには、『カミつぶし』と書かれている。その文字を見たレイは眉間にシワを寄せ、「カミ族の長がそんなもの、呑んでいいのか?」と真面目な顔で問う。

 ファシアスは数秒程、キョトンとしていた。だが、『カミつぶし』の事を言っているのだと、すぐに解ったようで豪快に笑う。

 レイがムッとして「何がおかしい……」と言えば、「すまんすまん」とファシアスは謝る。

「いやな、カミ族の中には『カミつぶしそれ』を指摘する者が居らんからの。思わず笑ってしもた。何より早速、己の想いを口にしてくれた事が嬉しかったのじゃよ」
 そう言いながらファシアスは、わしゃわしゃとレイの頭を撫でた。

 それが嬉しいような、気恥ずかしいような……初めての感情にレイは戸惑い、なすがままになる。

 それからレイとファシアスは長い年月を共に過ごした。行き来が面倒だからとファシアスが自分の神殿をレイの城の隣に移動させた事で、ますます一緒に過ごす時間が増えていく。

 最初の頃は、自由気ままなファシアスの言動に、レイは戸惑う事の方が多かった。けれども次第にファシアスの扱いに慣れてゆき、それと同時に心許せる存在だと思うようになる。



 レイとファシアスが互いに、大切な友と呼べる存在となった頃。
 無害を装い密かに他種族に危害を加えては、その罪をアクマ族に擦り付けていたテンシ達が本性を現した。

 他種族を喰い荒らすテンシを、レイはファシアスをはじめとしたカミ族と共に、撃退していく。だが、テンシ達も強く、何度も不利な状況に陥る。それでも折れないファシアスに勇気づけられ、レイも戦い続けた。

 ファシアスはカミ族の長であるが故に皆を統率し導き、時には身を挺して守る。そんな彼を皆、慕い敬うが、どこか一歩、引いているようだった。

 そこでようやく、ファシアスが対等な友を欲していたをレイは理解し、また一歩、彼の心に近づけたような気がした。

 終わりなき戦いが続くある日。
 異世界の人間ヒト族に目をつけたテンシが、MEALミール GAMEゲームの開催を提案する。

 テンシの侵攻を食い止められなかった責任を感じているのか、ファシアスは人間ヒト族に協力の姿勢を見せた。ファシアスが皆に呼び掛ければ、目的や意思の強さはさまざまだが、カミ族以外にも彼に賛同する者が多かった。

「御前さんがいると俺も心強い。だからレイもどうか、協力してくれんか?」
 レイは元々、ファシアスと共に人間ヒト族に協力する気でいたのもあり、彼の頼みに迷う事なく頷いた。

 ところが、マオウレイと相性の合うヒトがなかなか見つからないまま、の中で過ごす日々が続く。適性相手が見つかっても、に辿り着く前にテンシに喰われ、契約に至る事すら叶わない。

 そんなレイを励ますように、ファシアスは自身の相棒が寝静まった夜中に、必ずを訪れてくれた。ゲームについて触れる事なく、レイとファシアスはただ隣で酒を酌み交わし、何気ない会話をする。

 そうやってファシアスは優しく寄り添ってくれたのに、いろんな事が重なり彼の心がボロボロになった時、レイは何も出来なかった。ただ黙って、ファシアスの隣に居続ける事しか出来ない自分を心の中で責めた。

 それなのに、ファシアが前を向けるようになった頃、彼に何故か感謝されてしまい困惑する。けれどもファシアスの明るい表情が見れた事で、戸惑いよりも安堵の方が勝り、感謝された理由については深く考えなかった。
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