MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第四章 記憶の返還と

第46話 記憶の返還と初めてのゲーム

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「なんか、大事になってる気が……」

 洋風のテーブルと椅子が並ぶ、訳あり生徒専用の男子寮の食堂。そこのど真ん中の席に座っているおとなしめぐるは、辺りを軽く見渡してからポツリと呟いた。

 長いテーブルを挟んだ旋の正面にある椅子には相棒のレイが、右隣にはリツが並んで座る。左隣にはいつものようにチョーカーと仮面をつけた友人のこう寿じゅが同席している。レイの右隣の椅子にはアッシュを抱きかかえたミナトが腰掛け、左側には体内から顔を出すノワールの姿がある。

「……何故、貴様らもここにいる?」
 レイは眉間にシワを寄せ、旋以外に問いかける。すると、真っ先にノワールが口を開く。

「君に鳴無旋の件を口止めされていた者達に、ここへ集まるよう私が声をかけたからだァ。ちなみに、ささゆきおりには断られてしまったぞォ。ハポンバル三姉妹はよく分からないから放置したァ」
「何故、わざわざ呼びかけ、集める必要がある?」
「君の勝手な行動の口裏合わせに付き合わされた者達にも、鳴無旋に記憶を返す瞬間を目にする権利があると思ったからだァ」
 レイは『勝手な行動』の部分が心に突き刺さり、「言われてみればその通りだ……」とすんなり引き下がる。

「では何故、貴様ら兄弟は我を挟んでいる?」
 もう一つ気になっていた事をレイが問いかけると、今度はミナトが口を開いた。
「特に他意はないよ~? まぁ強いて言うなら、レイさんがまた旋くんに余計なことをしないように見張るため、かな? ここならいつでも両サイドから止められるし。レイさんを」

 ミナトはニコニコ顔だが、ほんの一瞬だけ殺気を放つ。ノワールはまるで準備運動をしているかのように、触手をうねうねさせている。アッシュもミナトとノワールが隣同士でない理由を知らなかったようで、「なるほどなのだ」と言って小さな手をポンと叩いた。レイは複雑そうな表情でため息をつき、一連の流れを黙って見ていた旋は苦笑いを浮かべる。

 様子を窺がっていた奈ノ禍も苦笑いで手を挙げ、「リッツーのコトダケド……」と話し始める。

 レイが旋の記憶を返す事を運営は把握しており、今どこかでカミがここの様子を監視しているらしい。
 旋の記憶をレイが返還した後、その運営サイドのカミは二つの事を行う。一つは旋の偽物の記憶を回収する事。もう一つは、書き換えられているリツの記憶を元に戻す事だと。だからリツもここへ連れてきたのだと、奈ノ禍は説明した。

「ちな、朝急にテレパシー的な感じので言ってきてさ。リッツーに詳しく説明する時間はなかったから、そこんとこよろ」
「正直に言うと何も理解できてないんすけど……奈ノ禍サンに言われてついてきたっす!」

 奈ノ禍とリツの言葉に、レイは「承知した」とだけ答える。今日も元気いっぱいのリツを見た事で、旋は少し緊張が和らいで微笑む。その後ふと、ずっと無言で旋の方を見ている煌寿の事が気になり、左隣に視線を向ける。

「どうしたんだ? 何か気になる事でもあるのか?」
「いや、僕からは特に何もないよ。気にかけてくれてありがとう」
 例の如く、フローガが煌寿の思考を読み取り、代わりに旋の問いに答えた。相変わらず、仮面の下の表情は分からない。だが、煌寿が放つ雰囲気は柔らかいものだった為、旋は特に気にせずに「それならよかった」とだけ口にする。

「では旋、そろそろ貴様の記憶を返すが……心の準備はいいか?」
「うん。大丈夫」
 旋の返事を聞いたレイは、めっ色の石がついた指輪を左手の薬指から外し、それを掌で握り潰した。その瞬間、旋の頭の中に失っていた記憶がじわじわと蘇ってくる。



 ──旋がまだ中学二年生の頃、進路に迷っている彼の元に、一通の封筒が届いた。その中にはこうりゃく学園からのスカウトの手紙が入っており、両親やリツの後押しもあって旋は三年生から転入する事を決める。


「旋にぃ、いってらっしゃいっす!」
「いってきます」
 小学六年生のリツが笑顔で見送ってくれた。だから旋も寂しさを隠し、笑って手を振る。

 家族と地元の友人達に暫しの別れを告げ、電車で最寄りの駅まで行き、少し歩いて船乗り場に着いた旋は辺りを見渡した。制服を着ている中高生が圧倒的に多く、大学生っぽい私服姿の人達はほんの僅かだ。

 新生活に対する不安と期待が入り混じる中、旋は背の高い一人の少女に目が留まった。白スカーフの黒セーラー服を着用している事から、学年は旋と同じようだ。ダークブラウンの髪をハーフアップにし、足元は白いハイソックスと黒いローファーを履いている。上品なお嬢様っぽい雰囲気で、顔立ちはとても綺麗だ。

 旋がその少女に目を留めた理由は、身長が高くて目立っていたのもあるが、彼女の顔色が真っ青だったのもあった。少女は手に持った何かをじっと見つめたまま全く動かず、それが心配になった旋は彼女に近づく。少女が持っている物がチェーンの切れたネックレスだと分かると、「あの……」と声をかける。すると、少女はゆっくりと旋の方を見た。

「突然ごめんね。真っ青な顔で固まってたから心配になって……。そのネックレス、チェーンが切れちゃったの?」
 旋の問いに少女は頷き、「大切な子からもらった物ですの……」と答えた。

「見せてもらってもいい?」
「えぇ……」
 旋は少女から若草色の王冠のチャームがついたネックレスを受け取ると、チェーンが切れた部分をじっと見る。

「……あぁ、これなら直せると思うよ」
「え……本当に……?」
「うん。もうすぐ乗船の時間だし、船に乗ってから直すね」
 旋はそう言ってニコリと笑うと一旦、ネックレスを少女に返した。



「ありがとうございました」
 乗船後、椅子に腰かけラジオペンチを使ってネックレスを直した旋に、テーブルを挟んで彼の正面に座る少女は頭を下げた。
「直せてよかったよ。大切な子からもらって言ってたし余計にさ」
 ネックレスを直している間、実は緊張していた旋はそう言いながらホッと胸を撫で下ろす。

「本当にありがとうございました。そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。わたくしですわ」
「ジブンは鳴無旋って言います。これからよろしくね」
「えぇ……よろしくお願いしますわ」
 佐治田莉愛と名乗った少女は一瞬だけ複雑そうな顔をしたが、すぐに笑顔でペコリとお辞儀する。その後ネックレスをつけると、若草色の王冠のチャームに触れて嬉しそうに微笑む。

「それにしてもいろんな道具を持っていますのね? 何か物作りが趣味ですの?」
「うん。ミニチュアや小規模ジオラマとかを作るのが好きなんだ」
 旋は莉愛の問いに答えつつ、テーブルの上に置いていた他の道具と一緒にラジオペンチを仕舞う。
「具体的にどんな物を作ってますの? もしお写真があるなら、見てみたいですわ」
「写真なら撮ってるよ」
 興味津々の莉愛に、旋はスマホで撮ったジオラマの写真を見せる。どこか懐かしい昔の街並みが広がるジオラマの写真を目にした莉愛は、目を輝かせて「すごいですわ」と呟く。

 それから二人は船が島に着くまでの間、ミニチュアの作り方や好きな歌についてなど、互いの趣味の話を続けた。妹のリツと同じように、莉愛も歌う事が好きだと分かると、旋は彼女に親近感がわいた。また、莉愛は雰囲気だけでなく実際にお嬢様で、自宅にあるカラオケで歌ったり、プールで泳ぐのが好きだと知って驚く。それと同時にその事を鼻にかけず、さらりと話す莉愛に好感を持った。

 話している内に、船はあっという間にてん島に到着した。船を降りてから莉愛はどことなく、緊張した面持ちになり、旋はそれを不思議に思う。

「変な事を言うようですけど……広場に着いたら前へは行かず、なるべく後ろの方にいてください」
 船乗り場近くにある簡素な建物内に、荷物を置いて広場へ向かう途中。莉愛にそんな事を言われ、旋は首を傾げた。けれども、あまりにも莉愛が真剣な表情をしていた為、旋は「分かった」と頷く。そして、その数分後に、莉愛の言葉の意味を理解する事となる。

 統一感のない、さまざまな建物に囲まれた広場。旋達の視線の先には、やけに目立つ時計塔がある。その時計が昼の十二時を指すと、不気味で大きな鐘の音が鳴る。それと同時に、時計塔の後ろから怪物が姿を現す。

 五メートルは超える、真っ赤な刺々の体にが生えた怪物は、自らを『テンシ』と名乗った。テンシは「キョフキョフ」と笑い、旋達生徒の事を『餌』だと言う。

 更に、カタコトでゲームの説明を始め、その途中で前方にいた生徒を棘で刺した。半分に割れたテンシの体から出てきたのは、鳥のような顔と大きな二つのハサミだった。生徒はクチバシから放たれた炎で焼かれ、ハサミで切り刻まれながらテンシに喰われていく。

 当然、生徒達は一斉に騒ぎ出すが、テンシの怒鳴り声に皆、恐怖で凍りつく。それから程なくして複数体のテンシが建物の後ろから現れ、十四分のハンデを与えられた状態でゲームがスタートした。

 テンシの合図と共に、その場にいた生徒達が一斉に動き出す。それなのに旋は、人が喰い殺されたショックで動けずにいた。そんな彼の手を、隣にいた莉愛が掴む。

「こっちですわ!」
「え……」
 喧騒の中、莉愛は大声でそう言って旋の手を強く引き、人の流れに逆らって斜め前にある建物の方へ走り出す。旋は戸惑いながらも、絡まりそうな足を必死に動かし、莉愛について行く。
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