MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第四章 記憶の返還と

第47話 王子系お嬢様とセイレーン族の長

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 に手を引かれ、めぐるは昔の校舎のような木造の建物に足を踏み入れた。ある程度、その中を駆け足で進むと立ち止まり、莉愛は旋の手を離し、二人はその場で呼吸を整える。

「お怪我はありませんか?」
「うん……ありがとう」
「いえ……あの、ひとまずこの部屋に入りませんか……?」
 莉愛の提案に旋は「うん」と答えながら頷き、引き戸を開けた彼女に続いて部屋の中へ入る。そして扉を閉めると、部屋の中を見回した。

「あれは……」
 壁に取りつけられた、ざっと百を超えるフックとそれにかかっている鍵を目にした旋は思わず呟く。フックの上にはゲームセンターや海の家、シャボン玉の館など、さまざまな建物の名称が書かれたプレートがある。鍵の形や色もさまざまで、その中の二つが淡く輝いている。

「あちらがおとなしさんの鍵ですわ」
 莉愛がそう言いながら『歌劇場』のプレート下の鍵に手を伸ばすと、輝きが強くなった。その鍵は錨に似た形をしており、色はシーグリーンだ。莉愛が『あちら』と言った鍵は細長い深緑色で頭部分は蜂、先端は蝶の形をしており、プレートには『神殿』と書かれている。

 理解が追いつかない旋は、鍵を手にした莉愛をただ見つめる。その視線に気づいた莉愛は深緑色の鍵も手に取ると、旋に差し出した。
「大丈夫……な訳がありませんわよね……。椅子がある部屋にでも移動して、少し休みましょうか」
「あ……いや、大丈夫。ありがとう」
 心配そうな表情の莉愛にじっと顔を覗き込まれた事で旋はハッと我に返り、小さく首を振ってから鍵を受け取る。

「本当に大丈夫ですの?」
「うん。正直、まだ少し混乱はしてるけど……」
「それは……仕方のない事ですわ。目の前で……あのような残酷な光景を目にしたのですから……」
「うん……。さんはすごいね。冷静に行動できて、あの怪物が言ってたゲームの攻略法もすぐに分かって、ここまで辿りつけたしさ」
 旋は純粋な気持ちでふと、思った事を口にしただけだった。だが、莉愛の表情が明らかに暗くなったのを見て、余計な事を言ってしまったかもしれないと焦る。

わたくしは……ここへ来る前からこの事を知っていたので……事前に覚悟ができていただけですわ……」
 微笑みながら莉愛はそう言った後、扉の方へ向かって歩き出す。彼女の言葉に旋は驚き、莉愛にいろいろと問いたくなった。だが、莉愛が無理に微笑んだように見えたのもあり、少なくとも今は何も聞かないでおこうと思った。また、今は命懸けのゲームを無事にクリアするのが先だとも判断し、手にした鍵の使い道について考えながら莉愛の後を追う。

「……わたくしに何も聞かなくていいんですの?」
「あー……うん。少なくとも今は何も聞く気はないよ」
「……鳴無さんは本当に優しい方ですわね。こんな理不尽な目に遭わされているのに、わたくしを問い詰めたり責めたりしないなんて……」
「え……どうして佐治田さんを責めるなんて話になるの?」
「どうしてって……このゲームの事を元々、知っていたなんてフェアじゃないとか、不満に思いませんの?」
「う~ん……でもさ、佐治田さんもジブン達と同じで命懸けなんだよね?」
「えぇ。確かにその点のみ、鳴無さん達と同じですが……」
「だったら尚更、佐治田さんを責めるのはなんか違うし、何より今は一緒にゲームをクリアするのが先だと思ってさ」

 旋はゲームクリアのヒントがないかと、鍵をいろんな角度から見ながらあっけらかんと言った。しかし、莉愛から何も言葉が返ってこなかった為、また余計な事を言ってしまったのではないかと焦り、顔を上げる。すると、どこか少しホッとしたような表情の莉愛と目が合い、思わずきょとんとした。

「船乗り場で声をかけてくれたのが貴方で良かった」
 莉愛はそう言うと、どこか凛々しさもある表情でふわりと微笑んだ。



 莉愛からゲームの攻略法や恐怖のテンシの特性を聞いた旋は、こんな提案をした。他の生徒にもこの事を伝えながら契約相手の元に向かう。契約後は積極的に他の生徒の手助けをしながら、テンシを倒していこうと。その提案に快く同意した莉愛に、「ただし、ご自分の命を優先してください」と言われると旋は頷いた。

 その後、旋は建物内の廊下の窓から見える、『歌劇場』へ先に行こうと言った。「その方が効率も良いし」などと付け加え、申し訳なさそうな表情の莉愛を説得し、二人はテンシを警戒しつつ歌劇場に向かう。

 莉愛が鍵で解錠して扉を開けた歌劇場の中へ旋も一緒に足を踏み入れると、いきなり客席が目の前に広がった。控え目なサイズの外観であったにも関わらず、中はとても広い。

 莉愛と共に客席通路を歩きながら旋が辺りを見渡していると、背後で扉が閉まる音が聞こえた。それに少しだけ驚きつつもステージへ視線を向ければ、海岸の舞台セットとシーグリーンの長髪の、人間ではない女性の姿が映った。

 白いタンクトップを着た女性の背中には緑の翼が、下半身の綺麗な鱗の魚の尾には鳥のような足が生えている。彼女はセットの岩場に優雅に腰掛け、髪と同じ色の瞳でじっと莉愛を見つめる。

「ようこそ、人の子。私はセイレーン族の長、フェン・ソム・ヴィズオン。早速だけど、貴女が私の相棒に相応しいかどうか、試させてもらうわね?」
 フェンは厳しい眼差しを莉愛に向け、鈴のような声で彼女に言い放つ。その言葉に対して莉愛は「分かりましたわ」と静かに頷くと、ステージに上がる。

「あら……試される事に不満や文句はないのね」
「不満など一ミリもありませんわ。本来なら、もっと遠くに設置されている筈の歌劇場が、わたくしの時だけこんなにも近くにあったのですから……。貴方に認めていたたく為の試練くらいなければ不平等ですわ」
 その言葉にフェンは微かに目を見開いた後、ゆっくりと瞼を閉じると莉愛に右の掌を向けた。すると、出現した丸い水の塊が莉愛にゆっくりと近づき、彼女の左胸あたりから体内に入り込む。

「たった今、貴女に少しだけ水を操る能力を用いて、私をこの場から動かす事が出来れば合格よ。能力の使い方は貴女なら分かるわよね?」
 フェンはゆっくりと目を開き、淡々と莉愛にそう告げる。
「えぇ、勿論ですわ。鳴無さん、そこで少しだけ待っていてください」
 客席通路で立ち止まり、ステージ上のやり取りを静かに見守っていた旋は莉愛の言葉に頷いた。莉愛はふわりと微笑んで旋に一礼すると、フェンの方へ視線を戻す。

 集中する為なのか、莉愛は黙って目を閉じるとその場から一切、動かなくなった。けれども、数秒程で彼女の周りに水が出現すると莉愛は目を開き、凛々しい表情で動き出す。

 自分の周りに水を纏わせ、どこか楽しそうに舞い踊る莉愛をフェンは最初、怪訝そうに見つめていた。けれども、莉愛が歌い始めると、心なしか表情が和らぐ。水は莉愛の動きに合わせてユラユラと動いたり、小さな丸や王冠の形となってふわふわと浮かんだりする。

 旋は莉愛の綺麗な歌声に聴き惚れ、水と共に上品に舞う姿にただ見惚れた。

 莉愛は歌い終わると長い髪を靡かせながらクルリと一回転した後、岩場の前に跪き、右手を胸に当て左手はフェンに差し出す。
「『こんな風に誰もが自分の好きな事を心から楽しめる世界にする為に、僕は命を懸けて奴等と戦う。だからどうか、僕の手を取ってくれないだろうか。僕に君の力を貸して欲しいんだ』」
 少し低い声で、お嬢様口調ではない何かの台詞のような事を言いながら莉愛は立ち上がり、フェンに差し出した手を彼女に近づける。

 どこか縋るような……けれども真っ直ぐさもある莉愛の横顔を目にした旋は思わず息をのみ、心の中で彼女の想いが届くよう願った。

「まさかそんな風に私を動かそうとするなんて思わなかったわ……。貴女、なかなか面白いわね。けれど、一つだけ聞かせて頂戴。今度は演じるのではなく、貴女自身の言葉で。何故、このような残酷なゲームに自ら参加したのかを」
わたくしの小さなお姫様……大切な人を守りたい。そして、このゲームの存在を否定する為に、参加する事を決意しました」

 莉愛の言葉に、フェンは僅かに目を見開く。その後、少し何か言いたそうに目を細めたが、口を挟む気はないようで静かに莉愛の言葉の続きを聞いている。

「これは完全にわたくしのエゴだと分かっていますわ。わたくしが死んでしまったら、きっとあの子が泣いてしまう事も。それでもあの子を守った先に、更に多くの人達も救えると信じて、わたくしは例え茨の道でも進むと決めましたの」

 莉愛は変わらず真っ直ぐフェンを見つめたまま、迷いのない声と言葉ではっきりと告げる。それを聞いたフェンは「どうやら決意は固いようね……」と呟く。その後、そっと莉愛の手を取って一瞬だけふわりと浮くと、彼女の目の前に降り立った。

「貴女の覚悟、しかと受け止めたわ。今から貴女に、私と同等の力をあげる」
 フェンはそう言うと莉愛の前髪を指で流し、額に軽く口付けた。
「これで契約は完了よ。貴女の名前を聞かせてもらえるかしら?」
「えぇ。わたくしは佐治田莉愛ですわ。不束者ですが、これから宜しくお願い致します」
 莉愛の名を聞いた瞬間、フェンは僅かに目を見開いた後、どこか懐かしむような顔で微笑み頷いた。
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