MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第四章 記憶の返還と

第48話 王子系お嬢様とトップスリーに近い苗字ズ

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 おとなしめぐるは怒り狂うテンシから全力で逃げていた。決して足は遅くないが、大きな怪物から普通に走って逃げるだけでは直ぐに追いつかれてしまう。だから建物の間の狭い通り道に入って、なんとか巻こうと考えた。

 背後から聞こえるテンシの叫び声に肩を震わせ、微かに揺れる地面に足を取られそうになりながらも旋は必死に逃げ続ける。細い通路を適当に進む彼の頭の中では、こうなるまでの経緯が走馬灯のように思い浮かんでいる――。

 が無事、フェンに認められた後。フェンはとある事情から莉愛を試しただけで、他の生徒は特別な事をしなくても契約できると旋は聞かされた。

「ここから神殿まで、鳴無さんをわたくしが責任を持って案内します。貴方を必ず守り抜いてみせますわ」
 歌劇場の扉の前で、凛々しい表情の莉愛に旋は真っすぐ見つめられ、そう宣言された。だが、歌劇場を出るとハンデタイムが終わったらしく、外は混沌としていた為、旋は『ジブンは一人で大丈夫』だと。『他の子達を守ってほしい』と莉愛に伝える。当然、莉愛は首を横に振るがその直後、二体のテンシから逃げている女子高校生の姿が見えた。

 旋は迷わず高校生が逃げていった方へ向かい、途中で石を拾う。
「鳴無さん!?」
 驚いたような莉愛の声を背に聞きながら旋が向かった先には、テンシに追い詰められて地面にへたり込む高校生がいた。

「おい! テンシ野郎! 勝負しろ! まさか逃げる気じゃないだろうな? この腰抜けテンシ!」
 テンシを怒らせると凶暴性が増して危険だから挑発は禁止だと。莉愛にそう教わっていたにも関わらず、旋はテンシに石を投げつけて謎の変顔で挑発した。生まれてこの方、誰も挑発した事などない為、精一杯ひねり出した言葉で。見え見えの挑発に乗ってくるだろうかと、少し不安に思いながら……。すると石が命中した方のテンシが叫び声を上げて近づいてきた為、旋は誰もいない方向へ走り出す。

「鳴無さん! 駄目ですわ!」
「ごめん! さんはその人を守ってあげて!」
 旋は一瞬だけ振り向き、石をぶつけたテンシだけしか結局、挑発に乗ってこなかった事に気がつくと大声で莉愛にそう言った。そして、莉愛からあらかじめ聞いていた、神殿がある方角へ向かって走り続け――今に至る。
 そこまで思い浮かぶと旋は苦笑いを浮かべた。

 背後からは変わらずテンシの叫び声が聞こえる。だが先程まで聞こえていた、怒りのこもったものではない気がして、旋は微かに首を傾げた。

 その時、テンシの棘が上空から降ってきて、旋の目の前で地面に突き刺さる。当然、旋は踵を返すが、後ろからも棘が降ってきた為、反射的に右へと曲がった。それから何度も上空から降ってくる棘を避けながら通れる道を選んでいく。

 最終的に大通りに出るしかなかった旋を待ち構えていたのは、複数のテンシ達だった。そこでようやく旋は自分が誘導されていた事に気がつき、来た方へ引き返そうとするが、テンシが地面に棘を突き刺して道を塞ぐ。

 完全にテンシ達に囲まれてしまい、旋は血の気が引く。そんな彼にテンシ達はトゲトゲの身体を開いて、ニタニタと笑う顔を見せてきた。まるで旋の恐怖心を煽るように。

 旋の心臓がバクバクと鳴る。彼に複数の棘が迫ってくる。左右や背後からも、それらの気配を旋は感じた。両親、友人達、莉愛とフェン、最後に笑っているリツの顔が思い浮かんだ。

(あぁ……多分もう無理だ……)

 そう思った旋が空を見上げた瞬間、複数の水色の何かが降ってきた。よく見るとそれは矢の形をしており、旋を取り囲むテンシ達の棘を斬り落としていく。

「鳴無さん!」
 その声に旋がまた空を見上げると、今度は若草色の翼が生えた莉愛が飛んできた。水を纏うように自分の周囲に浮かせている莉愛は旋の背後に降り立つと、瞬時に彼を軽々と横抱きにして上空へ真っすぐ飛び立つ。

「遅くなってごめんなさい。先程の方は既に鍵を持っていたので、建物までお送りしました。なのでどうか安心してください。鳴無さんはお怪我などありませんか?」
「う、うん……ありがとう」
「全く……人の身でありながら、莉愛も貴男も無茶をし過ぎよ」
 莉愛には心配そうな表情で顔を覗き込まれ、彼女の隣で後ろ向きに飛ぶフェンは追ってくるテンシを攻撃しながら呆れたように言った。

「すみません……」
 旋はフェンに謝った後、ようやく冷静さを取り戻すと同時に、自分が女の子莉愛に所謂、お姫様抱っこをされている事に気がつく。

「あの、佐治田さん……腕、大丈夫? 重いだろうし、ジブンのことはその辺に下ろして――」
「いえ、これでも鍛えていますので大丈夫ですわ」

 莉愛は旋の言葉を遮り、ニコリと笑う。威圧感のあるその笑顔に旋は少し恐怖を覚えたが、申し訳なさと少しの恥ずかしさから「でも……」と口にする。けれども莉愛は旋が何かを言う前に口を開いた。

「それにこうしていれば、鳴無さんはこれ以上、無茶はできないでしょう?」
 そう言った莉愛の目は笑っていなかった為、旋は彼女の腕の中で大人しくしておくべきだと判断した。旋がコクコクと黙ってただ頷くと、莉愛は「ふふっ……良い子ですわね」と微笑んだ。

「……私もそのままで良いと思うわ。けど莉愛、両手が塞がった貴女と私だけであの数のテンシを倒すのは……」
 フェンの言葉を遮るように、大きな爆発音が聞こえた。その後も断続的に聞こえてくる音に、莉愛は「何事ですの……」と呟く。

「どうやら他の人の子が加勢に来てくれたみたいね」
 フェンがそう口にすると、莉愛は空中で静止してから振り向く。すると、カラフルなシャボン玉がテンシ達に命中する度に、爆発している様子が旋にも見えた。それらが飛んできた方に視線を向ければ、チェリーピンクのガトリングガンからシャボン玉を放っている女子生徒がいた。

 テンシは攻撃を続ける女子生徒に標的を変えたようで、叫びながら勢いよく彼女に近づく。すると、彼女の隣にいた男子生徒が前に出て、手に持っているサーモンピンクのバズーカを振り回し始めた。

「その使い方、ホントに合ってる~!?」
「うお~! こまけぇコトはいいんだよ! 攻撃できればそれでいい!」
「確かに~! んじゃ、あたしもそーしよ~!」
 二人はそんな会話をしながら近づいてくるテンシを、ガトリングガンとバズーカーで片っ端から殴っている。

「……あれって本当に合ってる……?」
「まぁ、武器をどのように使って戦うかは人それぞれですわ……」
 思わず呆然とその光景を眺める旋の問いに、莉愛は何とも言えない声で答えた。

「莉愛」
 不意にフェンが莉愛を呼んだ為、旋も一緒に視線を隣に向けると彼女は下を指さしていた。その為、今度は下へ視線を向けると、ベビーピンクの四角い空気砲を持った男子生徒が小さく手招きしているのが見えた。彼の隣には巨大な白いシャボン玉がある。

「その子を抱えたままだと戦い辛いでしょ? だからこれ」
 莉愛が地面に降り立つと、男子生徒は白いシャボン玉をペシペシと軽く叩いた。

 旋は彼の言葉の意味が分からず戸惑う。だが莉愛には伝わったようで、「鳴無さんをお任せしても良いんですの?」と問うた。それから男子生徒がコクンと頷くと、莉愛は白いシャボン玉に旋を近づけて、その中にそっと入れた。

「え、え……な、なに……?」
 シャボン玉内でふわふわ浮きながら戸惑い続ける旋に、莉愛は「その中にいれば安全ですわ」と優しく微笑みかける。
「鳴無さんをよろしくお願いします」
 莉愛は男子生徒にそう告げて一礼すると、フェンと共に飛び立った。

「……大丈夫。あの二人は強いから」
 旋と共にその場に残った男子生徒は遠くを見つめながらそう言った。テンションは低いが、揺るぎない声に旋は安心感を与えられ、「うん」と頷く。

 それからしばらくして戦闘音が止むと、遠くから莉愛達が駆け寄ってきた。



「あたし達はトップスリーに近い苗字ズ~!」
おれ達はトップスリーに近い苗字ズだぜ~!」
「……苗字ズ」
 旋達を助けてくれた三人は各々、日曜の朝に放送している番組のヒーローのようなポーズでバラバラに名乗る。

 イマイチ聞き取れなかった旋は戸惑い、莉愛の方を見れば彼女も困惑しているようだった。二人の反応が良くなかったからか、三人は真っすぐ立って互いの顔を見合う。

「やっぱり作品がバラバラなのがダメだったんだよ~!」
「各々、一番好きな作品が違うんだからそこは仕方ないだろ。それより台詞が合っていない方が問題だ! さんなんて横着して全部、名乗ってないしよ~!」
「はぁー……もう普通に名乗ろうよ。僕はたかはじ燦也。で、どうイツキとすずれつ。よろしく」
 綺麗な顔立ちでどこか気だるげな雰囲気を纏う、襟足が長い黒髪の男子生徒……燦也はマイペースに自己紹介する。

相変あいっかわらず燦也はやる気がねぇな~!」
 ツーブロックの赤味が強い茶髪で、キリっとした男前の男子生徒……烈は燦也の背中をバシバシと叩く。

「それにまたあたし達のこと雑に紹介してさ~」
 明るめの茶髪を後ろで緩めのお団子にしている可愛らしい女子生徒……イツキは背伸びをして燦也の頬を突く。二人のその行動を、燦也はただ無表情で受け入れている。

 制服を見れば、三人は旋と莉愛と同じ学年だと分かる。身長はイツキが一番小さく、烈と莉愛はほぼ同じで、燦也は旋より明らかに大きい。

 三人のわちゃわちゃを眺めながら、旋と莉愛とフェンも自己紹介をする。

 その後、『トップスリーに近い苗字ズ』が何なのか、三人から口々に説明された。三人の言葉を要約すると、苗字ランキングトップスリーの佐藤、鈴木、高橋の一文字違いだからそう名乗っている。ただ、それだけの話だった。
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