54 / 63
第四章 記憶の返還と
第49.5話 寮へ向かう途中と呼び方
しおりを挟む
「鳴無さん、お話し中にごめんなさい」
アナウンスによる今後の説明も終わり、寮へと向かう途中。後ろから莉愛に声をかけられた旋は、ファシアスとの会話を中断して振り向く。すると、莉愛はフェンと共に道の端で立ち止まり、申し訳なさそうな顔で旋の方を見ていた。
旋はファシアスに、『佐治田さんと話してきてもいい?』と聞こうとした。だが、その前にファシアスに「俺の事は気にせんでいい」と背中を軽く押された為、「ありがとう」とお礼を言う。
莉愛はファシアスに一礼してから、旋の方を見て口を開く。
「私は違う寮で過ごす事になっているので……ここで失礼しますわ」
「そうなんだ。一人で大丈夫?」
「えぇ。幼馴染もいるので大丈夫ですわ。幼馴染は男の子なので、厳密には一緒の寮ではありませんが……。すぐ隣の寮ですので恐らく、外で待っていてくれていると思いますわ」
「そっか。それならよかった」
「あの……第一ゲームも無事、終わった事ですし、今ならゆっくりお話しできますが……。私に何か聞きたい事はありませんか?」
莉愛の真剣な瞳が、微かに揺れる。旋はやはり聞きたい事はあったが、それを問うべきかどうか少し考えた後、静かに首を横に振った。
「聞きたいことがない訳ではないけど……人にはいろいろと事情があるだろうしさ。今は何も聞かないでおくよ。でももし、何か話したいと思った時は気軽に話してほしいな」
「……分かりましたわ。ふふっ……やはり鳴無さんは優しい方ですわね」
「いや、そんなことは……」
「莉愛ちと旋ち! 二人でな~に話してんの~?」
旋の言葉を遮るように、前を歩いていた苗字ズの三人がわらわらと戻ってきながら、イツキが声をかけてきた。
「なんだ~二人でナイショ話か~?」
烈の言葉を受け、旋は困ったように莉愛の方を見た。すると莉愛はニコリと微笑み、三人にも自分は別の寮で過ごす事になっているのだと伝える。その話を聞いたイツキは明らかに残念そうな顔でがっくしと項垂れ、烈と燦也は慰めるように彼女の肩をポンポンと叩く。なお、莉愛だけ別の寮である事に三人とも特に疑問を抱かなかったのか、誰も彼女に何か聞こうとはしなかった。
「莉愛ちと部屋が隣同士だとうれしいな~と思ってたのに~! 違う寮だなんて寂しいよ~!」
イツキは心底、寂しそうな声を出す。
「ふふっ……いつでも遊びにきてください。佐堂さん達であれば、幼馴染も歓迎すると思いますし。勿論、私も佐堂さん達に会いに行きますわ」
莉愛は屈んでイツキと視線を合わせると、彼女の右手を優しく取って、爽やかに微笑んだ。その次の瞬間、イツキはほんのり頬を赤く染め、無言でコクコクと頷いた。
「……佐治田さんって口調はお嬢様だけど……世界観は王子だよね」
二人のやり取りを黙って見ていた燦也が不意にボソッと、そんな事を口にする。
「ふふっ……そう言ってもらえて嬉しいですわ。私は全世界の女性をお姫様だと思っていますので。勿論、人以外の女性も例外ではありませんわ」
莉愛はそう言って隣にいるフェンにも微笑みかける。
「莉愛、そんな風にいつまでも戯れていないでそろそろ行くわよ」
フェンは少し困ったように笑いながら莉愛に声をかけると、彼女は「そうですわね」と返事をした。
「それでは皆さん、失礼します。また会いましょう」
莉愛はイツキの手を離し、一礼すると歩き出そうとした。だが、イツキに「莉愛ち、ちょっとまって!」と引き止められる。
「どうかしましたか?」
莉愛は不思議そうな顔でイツキを見つめる。
「莉愛ちとあと旋ちも! ここにいるメンバーはさ、共に死線をくぐり抜けた仲なんだから、せめて下の名前で呼び会おうよ~!」
「よく言った! イツキ! 己も丁度、それを言おうと思ってたところだ! 命を預け合った仲間同士だってのに、他人行儀なとこが気になってたからなぁ!」
イツキに烈も同調するが、旋はきょとんとした。旋が思わず莉愛の方を見れば、少し困ったような表情の彼女と目が合う。
「はぁー……二人の熱苦しい世界観に、鳴無くんと佐治田さんを巻き込むのはやめなよ……」
「あ~! 燦也まで苗字呼びしてる~!」
「オメェは己とイツキ以外のヤツと距離を置き過ぎなんだよ! あとテンションも上げろって!」
「はぁー……ほんとうるさい……」
ジト目でイツキと烈を見つめる燦也に、二人はあれやこれやと言い返す。旋はしばらく彼らの様子を眺めていたが、次第に何だかおかしくなり、莉愛と同じタイミングで声を出して笑った。
そしてその後、旋と莉愛は互いに下の名前で呼び合う練習をさせられる事となる。
「り、莉愛さん……?」
「ふふっ……旋さん?」
「なんか二人とも固くない? もう一押し~!」
イツキにそう言われ、旋は少し困りつつも口を開く。
「り、莉愛……ちゃん。やっぱ妹以外の女の子を呼び捨てにするのは無理だって……!」
「ふふっ……では私も、旋君とお呼びしますわね」
旋はかなり照れているが、莉愛はどこか楽しそうに微笑む。こうして互いの呼び方が決まった後、旋達は莉愛とフェンと別れて自分達の寮へと向かった。
アナウンスによる今後の説明も終わり、寮へと向かう途中。後ろから莉愛に声をかけられた旋は、ファシアスとの会話を中断して振り向く。すると、莉愛はフェンと共に道の端で立ち止まり、申し訳なさそうな顔で旋の方を見ていた。
旋はファシアスに、『佐治田さんと話してきてもいい?』と聞こうとした。だが、その前にファシアスに「俺の事は気にせんでいい」と背中を軽く押された為、「ありがとう」とお礼を言う。
莉愛はファシアスに一礼してから、旋の方を見て口を開く。
「私は違う寮で過ごす事になっているので……ここで失礼しますわ」
「そうなんだ。一人で大丈夫?」
「えぇ。幼馴染もいるので大丈夫ですわ。幼馴染は男の子なので、厳密には一緒の寮ではありませんが……。すぐ隣の寮ですので恐らく、外で待っていてくれていると思いますわ」
「そっか。それならよかった」
「あの……第一ゲームも無事、終わった事ですし、今ならゆっくりお話しできますが……。私に何か聞きたい事はありませんか?」
莉愛の真剣な瞳が、微かに揺れる。旋はやはり聞きたい事はあったが、それを問うべきかどうか少し考えた後、静かに首を横に振った。
「聞きたいことがない訳ではないけど……人にはいろいろと事情があるだろうしさ。今は何も聞かないでおくよ。でももし、何か話したいと思った時は気軽に話してほしいな」
「……分かりましたわ。ふふっ……やはり鳴無さんは優しい方ですわね」
「いや、そんなことは……」
「莉愛ちと旋ち! 二人でな~に話してんの~?」
旋の言葉を遮るように、前を歩いていた苗字ズの三人がわらわらと戻ってきながら、イツキが声をかけてきた。
「なんだ~二人でナイショ話か~?」
烈の言葉を受け、旋は困ったように莉愛の方を見た。すると莉愛はニコリと微笑み、三人にも自分は別の寮で過ごす事になっているのだと伝える。その話を聞いたイツキは明らかに残念そうな顔でがっくしと項垂れ、烈と燦也は慰めるように彼女の肩をポンポンと叩く。なお、莉愛だけ別の寮である事に三人とも特に疑問を抱かなかったのか、誰も彼女に何か聞こうとはしなかった。
「莉愛ちと部屋が隣同士だとうれしいな~と思ってたのに~! 違う寮だなんて寂しいよ~!」
イツキは心底、寂しそうな声を出す。
「ふふっ……いつでも遊びにきてください。佐堂さん達であれば、幼馴染も歓迎すると思いますし。勿論、私も佐堂さん達に会いに行きますわ」
莉愛は屈んでイツキと視線を合わせると、彼女の右手を優しく取って、爽やかに微笑んだ。その次の瞬間、イツキはほんのり頬を赤く染め、無言でコクコクと頷いた。
「……佐治田さんって口調はお嬢様だけど……世界観は王子だよね」
二人のやり取りを黙って見ていた燦也が不意にボソッと、そんな事を口にする。
「ふふっ……そう言ってもらえて嬉しいですわ。私は全世界の女性をお姫様だと思っていますので。勿論、人以外の女性も例外ではありませんわ」
莉愛はそう言って隣にいるフェンにも微笑みかける。
「莉愛、そんな風にいつまでも戯れていないでそろそろ行くわよ」
フェンは少し困ったように笑いながら莉愛に声をかけると、彼女は「そうですわね」と返事をした。
「それでは皆さん、失礼します。また会いましょう」
莉愛はイツキの手を離し、一礼すると歩き出そうとした。だが、イツキに「莉愛ち、ちょっとまって!」と引き止められる。
「どうかしましたか?」
莉愛は不思議そうな顔でイツキを見つめる。
「莉愛ちとあと旋ちも! ここにいるメンバーはさ、共に死線をくぐり抜けた仲なんだから、せめて下の名前で呼び会おうよ~!」
「よく言った! イツキ! 己も丁度、それを言おうと思ってたところだ! 命を預け合った仲間同士だってのに、他人行儀なとこが気になってたからなぁ!」
イツキに烈も同調するが、旋はきょとんとした。旋が思わず莉愛の方を見れば、少し困ったような表情の彼女と目が合う。
「はぁー……二人の熱苦しい世界観に、鳴無くんと佐治田さんを巻き込むのはやめなよ……」
「あ~! 燦也まで苗字呼びしてる~!」
「オメェは己とイツキ以外のヤツと距離を置き過ぎなんだよ! あとテンションも上げろって!」
「はぁー……ほんとうるさい……」
ジト目でイツキと烈を見つめる燦也に、二人はあれやこれやと言い返す。旋はしばらく彼らの様子を眺めていたが、次第に何だかおかしくなり、莉愛と同じタイミングで声を出して笑った。
そしてその後、旋と莉愛は互いに下の名前で呼び合う練習をさせられる事となる。
「り、莉愛さん……?」
「ふふっ……旋さん?」
「なんか二人とも固くない? もう一押し~!」
イツキにそう言われ、旋は少し困りつつも口を開く。
「り、莉愛……ちゃん。やっぱ妹以外の女の子を呼び捨てにするのは無理だって……!」
「ふふっ……では私も、旋君とお呼びしますわね」
旋はかなり照れているが、莉愛はどこか楽しそうに微笑む。こうして互いの呼び方が決まった後、旋達は莉愛とフェンと別れて自分達の寮へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる