MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第四章 記憶の返還と

第51話 仮面の少年と王子系お嬢様の喧嘩

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「あ~! 疲れた~!」
「いい汗かいたぜ~!」
 戦闘訓練が始まってから三時間程が経過した頃。イツキとれつはほぼぶっ通しで動き続けていたが、流石に疲れたようで体育館の隅に座り込んだ。

 それより少し前に、クタクタになって休憩していためぐるは「お疲れ様」と、二人にタオルを渡した。ついさっきまで黙々と木刀を素振りしていたさんにも、旋は同じようにタオルを渡すと彼の隣に座る。

「――イツキと烈と……一緒に並んで、戦えるようになりたい。能力的に防御しかできないからって前線で戦わずに、サポートに徹するだけなんて嫌なんだ……」

 十分程前、旋が燦也に素振りをしている理由を聞くと、彼は真剣な表情でそう答えた。そこで旋は、丈夫でテンシだけを斬れる木刀を作り出し、燦也に「よかったらこれ使って」と言って渡した。

「ありがとう。あのさ……イツキと烈には素振りしてる本当の理由は言ってないから……二人には内緒にしてて」
 少し照れくさそうな燦也の言葉を、旋は真面目に受け止めて「うん。分かった」と返事をした――。

「毎回、ごめんね。体力お化け達に、無理に付き合う必要はないから」
「ううん。結構、楽しいし大丈夫だよ」
「え! 何そのお化け!? どこにいるの~?」
「おもしろそうなヤツだな! おい! 隠れてないで出てこいよ! おれ達とダチになろうぜ!」
 燦也が言った『体力お化け達』を、本当の幽霊の事だと思ったらしいイツキと烈は立ち上がり、目を輝かせて騒ぎ出す。

 深いため息をついた燦也がイツキと烈の方を指さしても、彼女らはまだ誤解したままのようで、後ろを向いて幽霊を探し始める。燦也は突っ込むのが面倒になったのか、再びため息をついた後、黙り込んでしまった。

 そんな彼の代わりに旋は、燦也が言っている『体力お化け達』とはイツキと烈の事なのだと二人に伝える。すると、イツキと烈は残念そうな顔で座り込み、各々スポーツドリンク入りのペットボトルを口にした。

「そういえばち、どこ行ったんだろ?」
こう寿じゅもどこにもいねぇぞ」
 スポーツドリンクを飲んだ後、イツキと烈は思い出したように辺りを見渡す。
「ホントだ……。飲み物でも買いに行ったのかな……」
 旋は今日の莉愛の様子が少しおかしかった事と、煌寿から感じた壁を思い出しつつ言葉を発した。

「あたし、莉愛ち達を探すついでに、自販機でジュース買ってくる!」
 イツキは勢いよく立ち上がり、体育館の出入口の方へ走って行く。
「あ、じゃあジブンも一緒に行くよ」
「気をつけて行って来いよ~」
「旋くん、イツキをよろしくね」
 旋が慌てて立ち上がると、烈と燦也はそう言って手を振った。彼らの言葉に旋は「うん」と頷き、二人に手を振り返しながらイツキの後を追う。

 体育館の外に出た旋が何となく上を見れば、雲一つない空が薄っすらオレンジ色に染まっていた。



「待ってください! やはりわたくしは納得できませんわ!」
 旋とイツキは他愛ない話をしながら、体育館の裏手にある自販機に向かって歩いていた。けれども少し怒っているような莉愛の声が聞こえてきた事で、二人は思わず同時に立ち止まる。

「一体どのあたりが納得できないんだい?」
 今度は煌寿の呆れているような声が、体育館の裏手から聞こえてきた。
「全部ですわ。貴方が言った事、全てにわたくしは納得ができません」
「だから……具体的に言ってくれないと分からないよ……」

 莉愛と煌寿は移動しながら会話をしているようで、旋達の方へ徐々に声が近づいてくる。だから旋は『急いでこの場から去ろう』と、イツキに伝えようとした──。

「ですから……旋君の事は上手く丸め込み、イツキちゃん達とは今後、一切関わるべきではないと。貴方が出したこの結論に、わたくしは納得できないと言っているんです」

 ──だが、自分達の名前が出た事で、旋は声のする方へ視線を向け、固まってしまう。

 莉愛と煌寿もいつの間にか立ち止まっていたようで、体育館の角から二人の影が伸びている。

「後者に関しては戦力にならない、もしくは危機感のない相手とは一緒にいるべきじゃないからだと……昨日も言っただろう」
「彼女達は十分に戦えますわ。確かに、わたくし達の事情に巻き込むのは流石に危険だと思います。ですが、何も関りを絶つ必要はないでしょう?」

 旋は『盗み聞きなんて良くない』と、頭では分かっている。けれども、どうしてもその場から動けず、莉愛と煌寿の影をじっと見つめ続ける。

「いや……僕が言いたいのはそういう事じゃない。どうさんとすずくんは危機感がなさ過ぎて、一緒にいるのは危険だと言っているんだよ。たかはじくんみたいな、能力的に戦闘は他人に任せるしかないタイプも足手まといでしかないだろう」
「イツキちゃんと烈君は恐怖に打ち勝つために、明るく振る舞っているだけで危機感はしっかりと持っていますわ。燦也君だって戦闘を他人任せにしようだなんて、きっと考えていませんわ。彼が懸命に木刀を振っている姿を煌寿だって見たでしょう?」

 話の内容的に旋はイツキの事が心配になって隣を見た。すると、イツキは暗い表情で俯き固まっていた。そこでようやく旋は動けるようになり、『早くここから立ち去ろう』と小声やジェスチャーでイツキに伝える。だが、彼女はそれに一切、気づいていないようで、全く反応しない。

「あれでテンシに太刀打ちできる訳がないだろう……。それに莉愛は他人に甘いから君の考えはあてにならないな」
「今日、イツキちゃん達に会ったばかりの煌寿に一体、彼女達の何が分かりますの?」
「莉愛だって彼女達と出会ってまだ、一ヵ月程だろう?」
「えぇ。ですが、わたくしはこの一ヵ月の間、近くでイツキちゃん達を見てきました。だから煌寿よりは彼女達の事を解っているつもりですわ」

 深くて長い煌寿のため息が、旋の耳に届く。
「……第一ゲームの映像を見たけど、莉愛が随分とフォローしていたじゃないか。おとなしくんを助けるために、あんな危険な事までして……」
 煌寿のどこか冷ややかな言葉が、旋の胸に突き刺さる。そこから旋はまた動けなくなり、莉愛と煌寿の影をまた見つめ始める。

「あれは……わたくしが勝手にやった事で……。それにわたくしだって、イツキちゃん達に助けていただいて……」
「正直、鳴無くんの相棒がカミ族の長でなければ、彼とも関わるべきじゃないと言いたいくらいだよ。まぁ、彼の性格的に上手く丸め込めさえすれば、恐らく使える駒にはなるだろうけど」
 言い淀む莉愛を遮るように、煌寿は淡々と言葉を発していく。

「何を言ってますの……? わたくし達は同志を求めていた筈でしょう? こちらの事情を包み隠さず話して、信頼関係を築いた上で協力をお願いしようって決めていたじゃありませんか。それなのに駒だなんて……」
「仲間意識なんていらないよ。僕らに必要なのは、テンシを殲滅する為の駒だろう?」
「貴方がそんな事を言うなんて……一体、どうしたんですの?」
「莉愛こそ、いつまでそんな青臭い事を言い続けるつもりだい?」

 声だけで莉愛が悲しんでいるのが、旋には分かった。煌寿の声には、何の感情もこもっていないように聞こえる。

「もういいですわ……。貴方の考えが変わらないのなら、旋君をわたくし達の事情には一切、関わらせません」
「何を言ってるんだい? 彼は使える。カミ族の長と契約できる人間なんて滅多に……」
「彼を物のように言うのはやめてください。イツキちゃん達の事も好き勝手に言って……。彼女達はわたくしの友人ですわ。これ以上、大切な友人を悪く言うのであれば、いくら煌寿でも許しませんから……」
 莉愛の声には明らかに怒りがこもっている。

「莉愛……どうして解ってくれないんだ……この学園では、誰がいつどんな風に亡くなるかなんて分からない。ここでは本当に……簡単に人が死ぬんだ……」
「それは……わたくしだって十分、理解していますわ……」
 どこか悲しげな煌寿の声が、微かに揺れている。莉愛の声からは怒りが消え、今度は戸惑っているように、旋には聞こえた。

「君は何も解っていない……! 莉愛が大切な友人だと言った佐堂さん達だって例外じゃないんだよ……? もし、彼女達が死んでしまったら君が……」
「そんなもしもはあり得ませんわっ……! 彼女達は生きてこの学園を卒業する……絶対に死なないと言って……」
りんろうさんととうさんは死んだじゃないかっ……! 二人も絶対に死なないって言ってたのに……! 僕が皆を巻き込んだから……!」
 莉愛の言葉を遮るように、煌寿は苦しそうな声で叫んだ。

「っ……それは……違いますわ……。わたくし達は自分の意思で……」
 莉愛の声が微かに震えている。彼女の影がゆっくりと、少しだけ前に動いた。
「違う……僕が巻き込んだ……。僕の身勝手なに……」
「復讐……? 一体、何を言って……」
「全部、僕の所為だ……。それなのに、僕はこうやって生きている……。二人じゃなくて僕が死ねばよかったんだっ……!」
「煌寿っ……!」
 莉愛の悲痛な叫び声が響く。それから少しの沈黙が流れ、影の動きで莉愛が自分の顔を両手で覆ったのが、旋には分かった。

わたくしは……煌寿にも、生きていてほしいのに……」
 そう言った莉愛の声はとても震えている。煌寿の手の影が莉愛の方へと伸び……彼女に触れずにすぐ、力なく垂れ下がった。
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