語裏夢誅-神だけがいない島-

双守桔梗

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本章

14.対峙と能力【耳】

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『駄目だ。島には絶対、連れて行かねぇ。実虎斗、テメェは大人しくここに残ってろ』
 かおるのこの言葉が、ポカンと大口を開けて固まっているの頭の中でぐるぐると回る。その数秒後――

「いや……今のは『俺があの島に連れてってやる』的な流れだろ~!」
 ――実虎斗は思わず立ち上がり、大声で叫んでしまった。

「うるせぇ……んな流れ知らねぇよ……」
 薫は眉間に深くシワを寄せ、座ったまま実虎斗をじっと見上げる。

「薫くんが差し出した煎餅を! オレが『行く』って答えながら受け取ったら! 一緒にあの島に行く流れになるだろ! 普通!」
 実虎斗は受け取った煎餅を薫の目の前まで持っていき、家の外に聞こえそうな程の大声で主張する。

「あ? 俺は『テメェは呑気に煎餅でも食いながら、この家で親父と一緒に待ってろ』って意味で渡したんだよ」
「なんでだよ!? オレも一緒に連れてけ~!」
「連れて行かねぇよ」

 薫は小さなため息をついた後、何度も「連れてけ~」と言って騒ぎ立てる実虎斗から煎餅を取り上げて袋を開ける。それから中の煎餅を取り出すと、半ば強引に実虎斗の口に突っ込んだ。

 すると実虎斗は一度、口に入れた物は出せない為、素直に煎餅をバリボリと咀嚼し始める。

「テメェは妹を助けに行きたいんだろ? だったら俺が代わりにその妹を島の外に逃がしてやる。だから実虎斗はここで大人しくしてろ」

 薫は実虎斗を納得させようとしているのか、彼が煎餅を咀嚼している最中にそう言った。しかし、実虎斗がそれで納得する訳はなく、煎餅を食べ終えるとすぐにまた「オレも連れてけ~」と騒ぎ出す。

「薫くんにの事を任せて、自分だけ安全な場所で待つなんてできる訳ないだろ! オレが自分で真菜花を助けに行きたいんだ!」
「はぁー……頑固な野郎だな……」

 ダルそうな表情でそう言いながら薫がまた煎餅を手に取れば、実虎斗は口をぎゅっと噤んで少し距離を取る。すると薫は無言で煎餅を食べながら、険しい表情で実虎斗を見つめた。

 二人はそのまましばらく対峙し続ける。

「ごめんください」
 沈黙を破ったのは、はや家の玄関の扉が開いた音と、来訪者の声だった。その少しねっとりした低い声に聞き覚えがあった実虎斗は記憶を辿り――自宅の玄関で会った、綺麗な顔立ちの男の事を思い出す。

 その直後、薫が立ち上がったかと思えば、勢いよく玄関の方へと駆け出した。慌てて実虎斗が後を追うと、薫は玄関にいる男に殴りかかろうとしていた。

「ちょっ……!」
 実虎斗は驚きながらも、薫を止めようとする。だが、実虎斗が薫に追いつく前に彼の拳は男目掛けて飛んでしまう。

「やれやれ……いきなり殴りかかるなんて……失礼な人ですね」
 薫の拳を男は掌で受け止めて、呆れたようにため息をつく。

した……テメェ何しに来やがた!?」
 薫は男……于津々の胸ぐらを掴みながら叫ぶように問いかける。

「実虎斗くんに用があって来たんですよ。根早うしおさんと町の方々が大揉めしているのを目にしまして……。会話の内容からここに実虎斗くんがいると思いましてね」
 于津々は気怠そうに薫の手をやや強引に払い除けると、彼の後ろで唖然としている実虎斗にニコッと笑いかけた。

「実虎斗くん、こんにちは。お元気そうで何よりです」
 妙に馴れ馴れしく手を振る于津々の事を、実虎斗は警戒しつつも「こんにちは」と挨拶だけは返す。

はなおり……いや、今は根早薫くんでしたね。君もお元気そうで良かったです」
 于津々は明らかな作り笑いを浮かべると、薫には心にもなさそうな言葉をかけた。

「うるせぇ。今すぐここで殺されたくなかったらとっとと島に帰れ」
【駄目だ! 薫! 復讐なんてやめてくれっ……!】

 薫の口から物騒な言葉が飛び出した事と、彼を必死に止めようとする死者男の子の声を聞いた実虎斗は驚き目を見開く。

 実虎斗は死者男の子の代わりに薫を止めようと思い、反射的に彼と于津々の間に入った。そして二人を引き剥がすべく、薫の両肩を掴んで押した。だが、薫はかなり体幹が強いようで、実虎斗が全力で押してもビクともしない。

「……何してんだ、実虎斗」
「……実虎斗くん?」
 実虎斗のその行動に呆気に取られたのか、薫と于津々は毒気を抜かれたような声を出す。

「薫くんが物騒な事言うから止めてんだろ! 薫くんの友だちも【復讐なんてやめてくれ】って言ってんぞ!」
「は……?」
 実虎斗が死者男の子の言葉を伝えた途端、薫は眉間のシワを深くして固まった。その表情を目にした実虎斗は『信じてもらえていない』と解釈し、「本当なんだ!」と訴えかける。

【本当だぞ、薫! 実虎斗くん、もっとおれの言葉を薫に伝えてくれ! かんろくおとがこう言ってるって!】
 死者男の子……那音の言葉に、実虎斗は力強く頷く。それから彼の言葉を正確に、薫に届ける為に集中して、那音の声を聞きながら口を動かす。

「【薫、おれだ! 那音だ! おれは復讐なんて望んでいない! 頼むから……おれやひとのために、誰かを殺すのはやめてくれ……!】」

 那音の言葉を薫に伝えている間、実虎斗は何だか不思議な感覚に襲われた。まるで那音と一つになったみたいに、彼の感情も乗った言葉が次々と口から溢れ出てくる。

「【薫には幸せになってほしいだ。だから復讐なんて馬鹿な事はやめてくれ……頼むから……】」
 那音の感情がどんどん実虎斗の中に流れ込んできて、今にも泣きそうになり……気づけば薫を抱きしめていた。

「な、おと……」
 那音の名を呟いた薫の声は震えていて、実虎斗の耳には彼の酷く動揺したような心音も聞こえてきた。

「那音くん……?」
 実虎斗の背後から于津々の声が聞こえたかと思えば、ガッと両肩を掴まれて強引に薫から引き剝がされてしまう。

「なっ……んだよ、急に……」
 引き寄せられた事で正気に戻った実虎斗は、睨むように于津々を見上げた。

 于津々は呆然とした顔で「実虎斗くん……?」と呟く。それと同時に薫が実虎斗を抱き寄せた事で、于津々はハッとしたような顔をした後、「失礼しました」と胡散臭い笑みを浮かべた。

「ふふっ……実虎斗くんは随分と面白い能力を持っているのですね」
「いや……死者の声が聞こえるだけで、大して凄くはないと思うけど……。それよりオレに何の用ですか……?」
 実虎斗は初めての感覚に戸惑いつつも、于津々を警戒したまま問いかける。

「ふふっ……いしさら島へ行きたいであろう実虎斗くんを誘いに来たんです。実虎斗くんさえよければ、明日の早朝、私が島まで君をお運びしますよ?」
 于津々はニコリと微笑むと、実虎斗にとって思いがけない提案を口にした。

 その言葉を聞いた瞬間、実虎斗は『于津々が石更島側の人間』である事を忘れて……。思わず「本当ですか?!」と身を乗り出して、彼の話に喰いついてしまった。
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