婚約破棄された悪役令嬢ですが、薬草で作った美容水が王都でバカ売れしてます

みなこん。@イラストレーター

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第9話:仕組まれた混入事件と、試される信頼

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翌朝。
 ブティック《エリシア製作所》の扉が開いたのは、まだ朝露が残る時間だった。

 だがその静寂は、来訪者の声によってあっさりと破られた。

「王都衛生審査院の者である! 本日より、この店舗内に“抜き打ち検査”を行う!」

 衛兵に連れられた調査官たちが一斉に店内へなだれ込み、並んだ商品や調香棚を次々に調べ始めた。

「ちょ、ちょっと!? なんのつもりですか!?」
 ミーナが慌てて立ちはだかるが、調査官は書状を突きつけて答える。

「匿名通報があった。“人体に有害な薬草を使用している疑いがある”と。これは王都令に基づいた正当な検査である」

「そ、そんなの……!」

 動揺するミーナとは対照的に、エリシアは静かに頷いた。

「構いません。調べてください。すべて正規の素材を使用しております」

 だが——その数十分後。
 倉庫の奥から運ばれた“ある瓶”により、状況は一変した。

「これは……セントヘレナ草? 禁止指定薬草ではないか!」

「馬鹿な、それは……!」

 エリシアの顔色が初めて変わる。
 セントヘレナ草——皮膚に触れると一時的なかぶれを引き起こす可能性があり、保存・流通が厳しく禁じられている植物だ。

 当然、エリシアの工房で使用されたことなど一度もない。

「そんなはずはありません。その瓶は……見覚えがありません。誰かが……」

「弁明は後ほど聞く。まずは、商品の販売停止。関係者を連れて審査院へ出頭していただきます!」

 その日のうちに、王都中の噂は駆け巡った。

「例の美容水、危ない成分が入ってたらしいわよ」
「やっぱり“悪役令嬢”は信用ならないってことよね」
「王宮御用達がどうとか言っても、やっぱり元は“追放者”だもの」

 かつてと同じ——冷たい視線、偏見、そして恐れ。

 ミーナは涙を堪えながら、店の扉に“休業中”の札を下げた。

「こんなの、嘘だよ……お姉さんは絶対、そんなことしないのに……!」

 だがその夜。
 再び現れたのは、銀の王子だった。

「君の身辺で“異変”があったと聞いてな。すぐに来るべきだったが……遅れてすまない」

「……本当は、王族としての立場を考えれば、関わらない方が良いのでは?」

 ライアスはエリシアの視線を正面から受け止めた。

「……王族としてではない。今の俺は、“君を見ていた一人の男”として来た」

 その言葉に、エリシアは驚き、目を見開いた。

「君の調香室を最初に見たときから、わかっていた。君のやり方は徹底していて、雑な痕跡など残さない。ましてや、自らの名誉を賭けた場所で“毒草”など混入するはずがない」

「……でも、証拠がない限り、私はまた“犯人”にされてしまうかもしれません」

「ならば、証拠を見つければいい。俺が、“王宮の監査機関”に命じよう。君に疑いをかけた真の犯人を、必ず暴く」

 彼の瞳は、迷いなく真っ直ぐだった。
 エリシアの中に、じんわりと湧き上がるものがある。

 それは、かつて誰からも裏切られた彼女が——初めて“信じられる相手”を得た瞬間だった。


 そしてその裏側で。

「ふん……王子が動いたか。あの男、余計な真似を……」

 フィアナは苛立たしげに唇を噛む。

「エリシア……いつまでも、あなたに調子づかれては困るの。次は、“完全に消してあげる”わ」
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